Story Reader / エターナルユニヴァース / 霧に啼く挽歌 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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苦い月夜

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地獄はがらんどう――悪魔がこの世を歩む時、教会は人で溢れ返る

聖霊は黙し、信徒は暗き小屋に生まれたる仔羊のごとし。罪を犯そうとも、導きなきゆえになお清く無垢である

結局さ、説教なんていつも同じ話なんだよな。ただ古い話の焼き直し。面白くもなんともねぇ

やめろよ、信仰心があるような言い方するなって。それより、もう「聖訓」を受けるのはやめた方がいいんじゃないか?聖痕、黒くなってるぜ

他にすることがあるか?霧が出りゃ港は閉鎖、船は鳩の巣

ミンニー酒場のウェイトレスは、ほぼ全員が俺の元婚約者だ。結婚前だからそそるってもんだろ?

闇市で禁制品でも漁るか?それとも診療所で点滴を受けるか?そういえば、あの木の脚の医者はどうなった?お前、口説いてただろ?次から注射をまけてくれるかもしれないぜ

あの風変わりな女のことは言うな。ゾっとするんだよ……

あいつと関係を持った日にゃあ、最後は殺されて人形にされて、薬品棚に飾られるのがオチだ

そうなったら挨拶してやるよ、「よぉ、相棒」ってな。それから愛しいお医者サマに、お前のことも一緒に棚に飾ってくれって頼んでやる。どうだ?

そういや、また「幻夢」の値段が上がったな。貴族の連中は箱ごと買い込んで、1日中打ち続けてるらしいぜ。血管が硬くなろうと、目覚めるよりはマシだってよ

こんな大都会じゃ、「甘い夢」にすら大金を積まなきゃならねぇ

それに引き換え、聖訓はタダなんだぜ?もらわないと損だろ

あれを1発、ぶすっと刺してくれりゃそれでいい。どんな夢でも、現実よりはずっとマシだ。この前見た海戦の夢がマジで最高だったんだ、俺が――

αは説教を待つ人の波に紛れていた。診療所の話が出た時、静かに刀に手を添えた。水夫の医師への評価が気に入らなかったのだ

赤子を抱いた婦人が、そっとαに近寄る。その質素な服は洗い立てのようで、時折おくるみを揺らしている。彼女の表情には戸惑いと憂いが浮かんでいた

私たちは遠くに住んでいて、夜明けと同時に出てきたんです。どうにか間に合って、ほっとしました

この子、ずっと病気で……ちっともよくならなくて。ここの聖女様はとても霊験あらたかだと聞いたので……

教会内を抜ける風で、おくるみの端が僅かに捲れ上がった。ほんの一瞬だったが、子供の白い骨が見えた。婦人は慌てて布をしっかりと覆い直す

私は家族のために

婦人は少し警戒した眼差しでαを見つめた。彼女は静かに言葉を続けた

妹が病気だから、そのために祈りに来たの

まぁ……あなたのようなご令嬢が、そんな辛い悩みを抱えているなんて……

死へと至る薔薇園の道すがら、災厄は影のごとく付き従う。永き忍耐をもって、決して諦めず、終末に至りて主の恩寵を賜る……

経典の一節だった。αは唱え終えると、肩と額に指を当て、手の平を組んで十字を切った。婦人もまた、同じ仕草をした

αはある人物との約束を思い出し、静かに人混みを離れると、衛兵を避けながら数度の跳躍だけで教会の小さな部屋へとたどり着いた

部屋にはすでに別の訪問者がいた。貴族の男は書類をめくりながら、聖女の特別な召見を待っている

終わりの見えない霧だね。もしこれがオペラなら、この序章だけで名を残せただろうに

だが残念ながら、これは我々の人生……つまり、最悪というわけだ

無駄話はいいわ。情報は?

ロランは書類をαに押しやる。そこには「聖女」に関する資料が記されていた

<i>ミアは生まれつき目が見えず、洗濯婦として生計を立てていた。疫病で命を落としたが、死から蘇った</i>

<i>その際に視力を得ただけでなく、数多の経典を理解していた。更に病を癒し、死者と語らう等、いくつもの奇跡を起こしたという</i>

<i>その後、ミアは教会の試練を乗り越えた。霧域にひとりで赴き、7日間を過ごして無事に帰還し、正式に認められた聖女となった</i>

<i>現在は主に街の教会にて救世の教えを説き、「聖訓」を通じて信徒に奇跡を示し、聖なる恩寵を授けている</i>

彼女が言うように、本当に神がかり的なものならいいけどね

慈悲深き父なる神は、そう簡単に御業を起こしはしない。それが起こるのは、往々にしてペテンの手中さ

うるさいわね

おや、仲間として友好的な交流を図ろうとしただけなんだけどな。お気に召さなかったかい?女爵……いや、深紅殿?

……

せめて目的くらいは教えてくれないと。身元保証人として、君に何かあれば私にもとばっちりが来るんだから

命じられたのよ。あの聖女が異種かどうか確かめろって

異種、それは霧に侵されぬ者。人々はこの災厄を「天罰」と呼んだ。人は原罪から生まれ、逃れられぬ運命にある――ただし「異種」は例外だ

免罪の存在として、異種は強大な力を持つとも、持たぬとも言われる

公式に記録され、認められている異種はただひとり――女爵αだけだ

殺戮によって爵位を授かり、「深紅」の称号を得た彼女が、どれほどの凄惨な戦場をくぐり抜けてきたかは想像にかたくない

それで、彼女はどうなんだい?

ロランは気のない様子で袖口を整えながら、視線を外へ向ける。その眼差しは鋭かった

聖女は7、8人が裾を引かねば動けぬほど大きな、刺繍入りのローブを纏っていた。玉座の周囲には、過剰なまでに黄金の装飾が施されている

かつて洗濯婦であったとは想像もつかない

いいえ、彼女は違うわ

ジョヤ·ニヴィリア――それが彼女の本当の名だ。長い年月が経とうとも、その顔と名前は、墓標のようにαの記憶に深く刻まれている

その墓標には、ふたりの姉妹の名が刻まれている。{226|153|166}{226|153|166}&{226|153|166}{226|153|166}{226|153|166} ―― 文字はかすれ、真相を知る者にしか読み取れない

お姉ちゃん、痛いよ……お母さんはどこ?お母さんに会いたい……

お母さんは……向こうで待ってる。すぐ会えるから、いい子にしてて

でも、きっと怒られる。悪いことしたし、言うことも聞かなかったから……もう私のこと、いらないって言うかも

赤い月が高く昇っている。それは地上の血を映しているのか、それともルシアの目が血で覆われているためか――数時間前まで、彼女たちは孤児ではなかった

何があっても、クローゼットから出ちゃダメよ

ダメ、開けないで。お願い、ルシア……私は、もうあなたの知っているお母さんじゃないの

お互い以外は誰も信じないで。これからはお母さんも信じちゃダメよ、罠かもしれないから

……あなたたちが成長した姿を見たかった……いい子だから、泣かないで。彼らに涙を見せてはダメよ

そのあとの記憶は曖昧だ。外からは絶えず殺し合う声が聞こえ、ふたりの小さな心臓の鼓動だけが響く、小さな世界に閉じ込められていた

ルナは異様に静かだった。目を固く閉じ、発作の時でさえ歯を食いしばり、声を漏らさなかった。ルシアは何もできず、ただ妹の体が弱っていくのを見ているしかなかった

このままではルナを失う。これ以上、誰も失うわけにはいかない。リビングに行って、ルナの薬を取ってこないと――

ルシア、ルナ、どこにいる?

オルゴール、リボン……赤いのを持って帰ってきたよ……プレゼントだ。薬、薬を飲もう……いい子は薬を飲む時間だ

お父さんだ……!お姉ちゃん、お父さんが帰ってきたよ

ルシアが僅かに扉を押し開けると、父親の顔がぬっと現れ、隙間に眼球を押しつけて中を覗き込んだ。尖った爪を差し込み、扉にしがみついて涎を垂らしている

お互い以外は誰も信じないで

それは父親ではなく、その仮面を被った怪物だった。ふたりは必死に逃げ出した。どれほど走ったのかもわからぬまま、ついに力尽きて1歩も進めなくなった

来るのが遅かったわね、街の人はもうほとんど死んでしまったわ

まだ子供が必要なの?いたとしても、もう変異しているわよ。どこで見つけるつもり?

助けて……妹を助けて、病気なの

妹は薬を飲まないといけないの。お願い、助けてください……何でもします

ルナは目覚めたあと、失語症を患った。オルゴールの音を聴くと、少しだけ安らぐようだ。それはルナの誕生日の贈り物だった。秋には手術をして、学校に通うはずだったのに

ルシア、正直に教えて。あの霧の事故で、一体何があったの?誰かが助けてくれたの?

人は他人の秘密を覗こうとする時、決まって優しさの仮面を被る。だが、瞳だけは決して嘘をつかない

……忘れた

修道院で暮らせるなんて、めったにないチャンスなのよ。私たちは素直ないい子しか受け入れないの

教えてくれないなら、ルナに訊くしかないわね

……ルナも覚えてない

あなたたちが深く傷ついたのは知ってるわ。でも何があったか話してくれないと、どうやって助けたらいいのかわからないでしょう

私を信じていいのよ?お母さんと呼んでもいいわ。あなたもルナも、私にとっては子供同然なんだから

あなたたちのためなら、全てを捧げてもいいと思ってる

ルシアはその瞳をまっすぐに見つめた。やがてシスターの心に不安が芽生え、彼女はそっと視線を逸らした

もう行きなさい

食料が足りないの。今日からあなたとルナは1日1食。労働も自分たちでやるのよ

わかった。じゃあ、また後で

ルシアは背を向け、階下へ降りる前、手すりに触れながら冷ややかに言い放った

シスターは私のお母さんでも、ルナのお母さんでもない。私たちには本当のお母さんがいる。もう、美しい天国に行ってしまったけど

シスターは必死に平静を保っていたが、彼女の姿が廊下の端に消えた瞬間、テーブルの上の物を全て払い落とした。高価な東洋の花瓶が無残な姿になる

これ以上、ルナに与える薬はないわ。いい引き取り先を見つけないと。ありがたいことに、ちょうど子供を持てない裕福な夫婦がいるの

その「夫婦」が子供を見に修道院へやってきた。彼らはおとぎ話の登場人物のように豊かな金色の髪を揺らし、見るからに幸せで裕福そうだった

ルナとは離れない。もっと働いて、食事も減らすから

でも、これ以上仕事なんてないわ。自分のわがままでルナを死なせてもいいの?手放す方が、得るものが多いこともあるの。いい子ならわかるでしょう?

ルナは新しいお父さんとお母さんが大好きだって。あなたのことが好きじゃなかったのかもね。自分でもあまり好かれる性格じゃないって、わかっているでしょう?

ルシアは唇を震わせたが、何も言わなかった。視線を逸らしながらも、涙だけは決して零すまいと必死に耐えている

それを見て、シスターは満足気に微笑んだ。彼女はその脆く砕けそうなルシアの痛みを、蜜を味わうかのようにじっくりと舐め取った

彼女はルシアが折れ、懇願や弱音を吐くことを期待していた。だがルシアは何も言わず、ただ一礼して背を向け、静かに去っていった

別れの日。ルナはベッドを整え、小さな荷物を抱えて車を待っていた

月は優しい母のようにただ黙ってふたりを見つめている。去る前、ルナは小さな獣のように姉の背にぴたりと寄り添った

これでもう足手まといにならないね、お姉ちゃん

……振り向かないで、離れられなくなるから。もう会えないと思うと、心がチクチクするの……

お互い以外は誰も信じないで

子供8人、金貨8枚よ

あの病弱なやつを連れてきたのか?実験は厳しいぞ、長くは持たない。枠をひとつ使う価値はないだろう

なら、そちらで処分して。私は連れて帰らないわよ

姉の方はなぜ連れてこなかったの?あの子は見込みがあるわ

それは次回。あの子は癇に障るのよ……ふたりを一緒にいさせたくない

妹は裕福な家庭に引き取られたと信じ込ませて、死ぬ時に騙されていたことに気付く……なかなか面白いでしょう?

くだらない……あなたは人の皮を被って、何がしたいの?

私はただ子供たちを送り出してきただけ。彼らを死に追いやるのは、あなたたちでしょう?

「偉大なる願い」とやらのために、一体何人の未来をその手でへし折ってきたのかしらね

何があっても、絶対にルナを連れていかせない

……どうやってここまで来た?

血と埃にまみれたルシアが影から姿を現した。車にしがみついていたからか、その手はマフラーに焼かれている

車が減速した隙を狙って飛び降りた彼女は、轍をたどって鉄柵内へと潜り込んだ。番犬に足を噛まれたが、その犬の方が大きな代償を払うこととなった

ここに来た以上、もう逃げられないわよ

彼らはあの「裕福な夫婦」だった。「夫」は猟銃を構え、ルシアに狙いを定める

ここで撃たれて死ぬか、それとも実験に参加するか選びなさい

ルシアはしばらく考え込んだ。痛みや苦しみはなく、ただ感覚だけが完全に麻痺していた

子供ひとりにつき、シスターからいくらで買ったの?

金貨1枚よ。政府発行の純金5g、無記名のね

ルナと合わせて金貨1枚でいいから、私にちょうだい。望んで「実験」に参加するんだから、それはあの女じゃなくて私がもらうべき

でも、ひとつだけ条件がある。何があっても、私はルナと一緒にいる

……いいだろう、取引成立だ

実験の内容を訊かないの?

「夫」は猟銃をしまい、「妻」から小袋を受け取った。中の金貨は小さな満月のように輝いている。彼は重さを確かめ、比較的整った1枚を選び、ルシアの手の平に置いた

これが私とルナの命の値段なのね……綺麗

別に構わないわよ。あなたが死んだら、その金貨を死体から剥ぎ取ればいいだけのこと

それは私のセリフ。シスター、あなたの本当の名前を教えて

ジョヤ·ニヴィリアよ。ほんと、憎たらしい犬……覚えておきなさい

そう、ジョヤ·ニヴィリア……血をもって契り、金をもって命を買い取るわ。そしていつか必ず、この金貨であなたの命を買う

それで、ルナを傷つけようとした罪はチャラよ

もし私が聖堂の前で人を殺したら、あなたまで面倒に巻き込まれる?

ハハハ!私の生死を気にかけているのかい?

あの女が聖女だろうと、ペテン師だろうと、異種だろうと何だっていいさ。誰であっても誰でなくとも関係ない

重要なのは、最終局面で異種はひとりだけ――そして私の仲間であること。それが最大利益を得るための最適解だ

異種が何人もいたら、警察長官と変わらないからね。つまり、君の質問への答えは「どうでもいい」

むしろ彼女を殺してくれたら大喜びさ。理由だっていらない

あなたと話していると、貴族というものへの理解が深まるわ

そんなに褒めないでおくれよ。α、自分の爵位を思い出してごらん。今や君もこちら側の存在だよ?

同盟である限り、面倒な権力闘争なんて気にしなくていい。殺戮の後始末ですら、私が手配しよう

厚い霧が晴れた日、真っ先に私を絞首台へ送るのがあなたでないことを願うわ

それはその日のお楽しみだよ

やがて証明されるさ。私は、君の予想を遥かに超える忠実な盟友になるとね