Story Reader / 叙事余録 / ER15 あたたかな余光 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

ER15-21 愛し憎しむがゆえ

>

エゼット資料室

過去

……こんなの、解決は無理に決まってる

例の戦争の影響で、最近エゼットの雰囲気は沈みがちで重苦しい。もともと人がいることの少ない資料室は、今は更に寂しくガランとしていた

時々のクリック音だけが、ここがまだ封鎖されていないことを示していた

…………

チラチラするモニターの光がアジャールの顔を照らし、まるで絵画の陰影のように彼がギュッと寄せた眉を浮かび上がらせていた

カチャッ

微かに扉が開く音が聞こえ、アジャールは急いでモニターを消し、振り向いた

誰だ!?

ヤッホー!

……カムイか

正体を確認したアジャールは警戒を解き、適当にキーボードを叩いた。モニターが再び起動し、待機画面で止まった

カトレフもいるぜ

アジャール、俺たち、来た

……宿舎で待たずに、何しにここに来た?

お前を探しにに決まってんじゃん。宿舎の他の連中は、あまり外に出たくないって

それに、多くの人、医務室に、いる

カトレフの言葉で3人は何かを思い出したのか、全員が一瞬黙り込んだ

……ああ、光冠ゲノムの悪化で、黒点に変性した人がどんどん増えてるからな。今でも動く気力が残ってるのは、恐らく種の段階を突破できた俺たち3人だけだろうな

だが俺たちですら……進歩できない

……何か方法はないのか、アジャール

俺を探しに来たのはそれを訊くためか?

アジャールは首を振りながらため息をつき、足で椅子をふたつ引き寄せ、ふたりに座るよう示した

研究室でもどうにもできないのに……俺にどうしろと?

お前らも知ってるだろ。黒点を治療する手立てはない。光冠ゲノムとパニシングを無理やり剥がすか、ひたすら耐えて死を待つかだ

唯一の可能性というなら、この前の医者がはっきりと言ってた

本物の、黄金の太陽が、現れる

そうだ。新たなデータがあってこそ、新たな可能性が生まれる。現在行き詰って停滞しているバーリーコーン計画に、新たな変数を組み込むことができる

変化、ない、突破、ムリ

カムイは、現在知っている全ての情報を思い返しながら、じっと考え込んでいた

種の段階の人数を先に増やすのはどうだ?少なくとも成功の確率は上がる

なんで世界政府は移送作戦を止めたと思う?俺たち3人に希望を見出したからだ。だからエゼットの残りのメンバーをここに戻し、転化訓練を続けさせた

そのあとに起きた展開は、お前らもよく知ってるだろ。俺たちが突破できた原因は今も不明で、医務室行きの人が増えるばかりだ

だけど、おかしいと思わないか?あの時の俺たちは、他のメンバーから抽出されたエネルギーを吸収したから、突破への新たな段階に進めたんだ

なぜあいつらはその方法を広く使おうとしないんだ?他のメンバーも同じようにできるかもしれないのに

カムイの発言に、アジャールはややためらいを感じた。彼はモニターの待機画面をチラリと見て、姿勢を正した

……必要なエネルギー量が多すぎて、彼らに提供するのは無理だと判断したのかも

そもそも、俺たちが黄金の太陽への転化に必要な品質のエネルギーを提供できていない。質的変化は量の多さに頼るしかないんだ。彼らは俺たちを信用していない

もし十分な理由を見せることができたら?俺たちの価値を証明して、投資するに値すると示せたら、彼らを説得できるかもしれないだろ?

ライフに、訊いてみても、いいかも

……

事情はそんな単純じゃない。世界政府を信用するなといつもお前らに言ってるだろ。あいつらにとって俺たちはただのモルモットで、権力と利益をかっさらうための道具にすぎない

だが、彼らはその汚さを露骨に見せはしない。この肝心な時期、世界政府は俺らの軍事需要に手は出さない。研究用資源にしろ戦時補給にしろ、ケチったりもしないだろう

アジャールは何か言おうと口を何度か開きかけたが、なかなか言葉が出てこない。しばらくして、やっと言いたいことを正確に整えたようだ

きっと彼らには別の懸念があるんだ。そして本当の原因は、ここにある

アジャールはパスワードを入力し、再びモニターを起動した。画面に表示されたのは、アジャールがリアルタイムでアクセス中の端末データベースだった

データベースの中には文書ファイルがずらりと並んでおり、どのファイルにも世界政府の確認用印章がついている

これは……訓練の資料か?

ちょっと待て、いつも見ているものと違う。この後ろの一連のデータは何だ?

光冠ゲノムと脳の活性検査の結果だ。そして俺たちの……本当の欠点でもある

どういう、意味?

アジャールは文書ファイルをひとつ開いた。資料に書かれていたのは少し前に黒点に転化した、3人もよく知るメンバーだった

太陽とは、永遠のものなのか?カムイ

……違う。何だよ急に?

俺たちの改造は太陽の模倣だ。エネルギーを燃やし、力を発揮する。極めてシンプルな理屈だ

だが太陽は永久機関じゃない。ずっと自分自身を消耗している。同様に、もし俺たちの力を維持する燃料が例のエネルギーと、普段飲むサプリメントだけでは足りないとしたら?

まさか……

カムイは愕然とした。ここまで話せば、さすがの彼も気付く

これこそがこの計画が生み出した必然的な欠点、遺伝子の欠陥なんだ

燃えることで俺たちは衰弱する。カムイ、俺たちは自分の命の前借りをしてるようなもんだ。強大な性能はただの表象にすぎない

俺たちが消耗した命は、実際には生理的年齢分を遥かに超えている。身体的機能で見れば、この資料の主は、すでに晩年と呼べるほど弱っているんだ

ドンッ!

カムイが勢いよく立ち上がり、拳で強く机を叩いた

だから計画は停滞したのか。やりたくないのではなく、そもそも……

バーリーコーン計画の人々はもう燃え尽きたんだ。俺たちはたまたま運よく補充できた幸運なやつにすぎない

こんなこと、ダメに決まってる!まさか実験にこんなデッカい危険が潜んでいたとはな。世界政府には説明してもらわないと

どうやって?この資料の出処はグレーで有効な証拠にはならない。世界政府側は絶対に認めないだろう

あいつらはきっと全て否定し、言い訳をして、最後には根拠のないただの偽の情報だと言い張る

じゃあ……だったら……そうだ、ライフのところに行こう!

ライフならきっと俺たちを信じてくれる!それに黒点になったメンバーの体を調べれば、きっと証拠が出てくる!

そうと決まったら、今すぐ行こう!!

考えをまとめたカムイはそう言い残し、すぐに外へと走り出した

カトレフもすぐ後を追いかけたが、入口の近くでふと足を止め、アジャールの方を振り返った

アジャールは、ずっとここで、長い間、待ってた?

……何を言いたいのかわからない

責める、つもりない。アジャール

俺たちも、言おう。早く、言わないと

何が、あっても。俺とカムイが、助ける

カトレフは真剣な表情でアジャールに向かって頷くと、すぐにカムイを追いかけた

……バカなやつらだ

彼らの間は、それほどに親密だった。たとえ自分がどんなに完璧な行動をしても、カムイとカトレフは、彼の行動の裏に隠された別の意味に必ず気付く

それでも彼らはそれを気にしなかった。その全幅の信頼は、逆にアジャールの偽善さ、卑劣さを際立たせた

……ちゃんと話すよ、カトレフ

全てが終わったら、お前とカムイに話すから

アジャールは誰もいない資料室でひとり誓った。そして立ち上がって電源を落とすと、扉を開けてふたりの後を追った

エゼット医務室

ちょっと、何をしてるんだ!?

カムイに麻袋をひったくられ、看護師は呆気にとられた表情でカムイを見つめていた

カムイ、あちこちで騒ぎを起こすな

遅れてやってきたアジャールがカムイの手を押さえて落ち着かせながら、看護師に離れるよう合図した

3人はライフに状況を説明しようと彼を探していたが、指揮室や訓練場にもいない。そこで3人は予定を変え、まず医務室で修復中のメンバーたちと情報を共有することにした

しかし予想外だったのは、ベッドはほとんど空っぽで、綺麗に整えられた寝具だけが並んでいたことだ

私物を片付けている看護師たちがいなければ、黒点に転化したばかりの多くの兵士たちが、今朝までここに寝ていたとは誰も信じないだろう

みんなはどこに行ったんだ?なんで看護師たちはあいつらの私物を片付けてる?

カムイは戸惑いながらも一抹の不安を覚えた。彼が先ほど看護師から奪った麻袋を開いてみると、中は見覚えのある物でいっぱいだった

彼らに新たな使命ができたからだ

3人の背後から声が聞こえた。彼らがずっと探してたライフが、扉を開けて入ってきた

俺がここに来たのも、お前たちに世界政府からの軍令を伝えるためだ

元「バーリーコーン計画」所属の部隊より20%の人員を選別する。選別された者は通常の戦闘部隊に編入され、本部の指揮の下、前線に向かう。この軍令は即時発効とする

お前たち3人は選別対象に入ってない。訓練はこれまで通り続く

そんなの、いつ発令された軍令――

カムイが目を怒らせて言いかけた途端、アジャールの手がすぐさまカムイの口を塞いだ

カトレフはカムイの前に飛び出し、体でカムイを庇おうとした

質問、あります

カトレフ、話せ

部隊の、他の、兵士は?

心配はわかる。医務室のメンバーの大半は、すでに光冠ゲノムを人工的に除去され、危険はない。だがソルエネルギアを使えない彼らは、エゼットに残ることはできない

そのため選別対象となった。残りは黒点成分を逆転させる可能性を研究するため、世界政府の特別医療センターへ移送された。結果が出たら、彼らの行き先をエゼット内で開示する

ライフの表情は能面のようで、最初から原稿を用意でもしていたかのように淡々と説明し続けた

他に質問は?

……ない、です

だったら訓練に戻れ

はい

ライフは頷き、3人に目もくれずさっさと立ち去った

うぅ……うぅぅぅ!

カムイは手をばたつかせ、アジャールの拘束から抜け出した

なんで俺を止めたんだ!?どう考えたって、こんなの真実じゃないだろ!

いつもと、違う

カムイもそう思っていた。ライフの態度がいつもと違う。だがどんな理由であれ、カムイの先ほどの行動は規則違反の懲罰対象になるだけで、真実を訊き出すことはできない

くそッ――!

カムイは苛立って髪をかきむしった

……わかったわかった

アジャールはカムイを引き寄せ、ポンポンと軽く叩いて彼をなだめた。だがライフが去った方向を眺めながら、ぼそりと呟いた

……お前が言った「また連絡してくる」とは、このことなのか、マリス?

アジャール、なんか言ったか?

何でもない。帰るぞ

アジャールは目を僅かに細めた。ライフの行動は理解できた。世界政府の軍令を受け、あのような反応をするのは当然だ

しかしエゼットにとっては正しいことが正解とは限らない。ライフにも限界がある。彼は真の意味でエゼットを守れない。当初のオーディンリーとエウリディケがそうだったように

俺たちだけでやるしかない

エゼット医務室、後方支援倉庫

カムイたち3人は建物の陰に隠れていた

本当にいいんだな?今入るってことは、確実に軍紀に喧嘩を売るってことだ

10分後に俺たちの位置特定信号に対する遮断措置が無効になる。そうなればライフが増設した監視装置が俺たちが宿舎を離れたことに気付き、すぐに捜索行動が始まる

迷ってる場合じゃない……今の宿舎にほとんど人は残ってないだろ?毎日誰かが黒点になって医務室に送られ、半日くらいで「回復」したかと思えばエゼットからいなくなる

皆の、ため、試す、価値ある

アジャール、ここに答えがあるのは確かなのか?

確かだ

アジャールは自分の端末をチラッと見た

あの日、ライフと別れてから彼はマリスに連絡した。彼女は「医務室」の3文字と、意味のわからない数列だけを返信してきた。恐らく何かのプログラムに使えるパスワードだ

マリスという人間の態度の大きさは、手の中の切り札の多さに比例していた。この態度はいい兆候ではない。彼女はアジャールは自分の手から絶対に逃げられないと確信している

入るぞ

医務室の後方支援倉庫は、今まで3人がそれぞれの理由で何度も来た場所だ。今回も、特にいつもと変わった様子はない

しかし手がかりをもとに注意深く観察した3人は、すぐに違和感に気付いた

埃がここだけない……恐らくここが入口だ。しかもついさっき使われたばかりだ

3人は目を見交わし、カムイが部屋の隅に隠された床板を引き開けた

彼らの前に、黒い通路が現れた

明るく広々とした室内に、数多くの観察ポッドが整然と並んでいた

バインダーを手にした白衣姿の数人がポッドの間を歩き回り、ポッドの様子を観察して記録を書き込んだり、ポッドのパネルを操作していた

数値が……

うっ!

観察ポッドのデータを記録していた研究員のひとりが、ハッと目を見張った。密やかに背後から伸びた手が、彼の口を押さえたからだ

次の瞬間、重い一撃を受け、彼は気絶した

意識を失う寸前、彼は近くの同僚を見た。同僚の背後にも同じように誰かが立っている

しまっ……

……

カムイは更に手に力を込め、相手が気絶寸前に言いかけた言葉を遮った

彼らはエゼットの医療班のスタッフではない。カムイは相手の職員証を確認すると、そっと床に横たえ、観察ポッドの前にいるふたりと合流した

これが……あいつらが言う、人工的除去か?もう危険はないだと!?嘘だろ!

カムイは目を閉じ、信じられない思いでひと言ひと言をかみ砕くように絞り出した

観察ポッドの中にいたのは、そのどれもがエゼットから移送されたと聞かされた、黒点に転化したメンバーだった

あいつらを、殺してやる

カトレフ!落ち着け!カムイ、お前も手伝え!

……カムイ?

隣のカムイはまったく動こうとしなかった

異変を察したふたりはカムイの視線を追った。その先では、あるひとりの男が3人から少し離れた場所に立ち、静かに彼らを見つめていた

……

どうしてだ、ライフ

……やはりお前たちはここを見つけたか

相手の沈黙に刺激されたのか、カムイは声に抑えきれない強烈な苦痛と困惑を滲ませながら、ライフに向かって足を踏み出した

ライフ!どうしてこんなことを!!こうなってもまだ、俺たちに説明してくれないのか!?

……お前たちが見た通りだ。目の前にある事実が全てだ

男はため息をつき、ゆっくりと3人の前にある操作パネルに近付くと、システムを起動させた

見るがいい。お前たちが知りたがった全てが……この中にある

そう言うと彼は文書ファイルのパスワードを入力した……アジャールの瞳孔が僅かに縮んだ。入力された数字は、マリスが彼に送ったパスワードそのものだった

カムイは駆け寄り、文書の一連の文字を穴があくほど、じっと見つめた

「バーリーコーン計画には致命的な問題が存在する。実験により被験者に遺伝子欠陥が生じ、それは身体機能の不可逆的消耗という形で現れる」

「過去の資料と、現段階の実験体サンプルの分析結果を鑑み、以下がバーリーコーン計画のメンバー全員に適用される最新のデータである」

「被験者の最大生理的寿命は僅か35年。17歳から19歳の間が転化の境界線となる」

「成人後、被験者の体は潜在的に衰弱期に入る。器官と肉体が機能停止するまでは、彼らは常に最盛期の機能を保つ」

「しかし器官と肉体の機能停止が始まった途端、衰弱期がたちまち訪れる――」

……俺たちに隠していた理由はこれだったんだな、ライフ

どうしてもっと早く言わなかったんだ!もしかしたら、別の解決方法を考えられたかもしれないのに!!

……もう手遅れだ

お前たちを含め、約3分の2の訓練者にすでに機能衰弱の症状が出ている

お前たちより年上のメンバーはもはや黒点の影響と破壊に耐えられない。まだ悪化していないとしても、一定の年齢をすぎれば衰弱して死ぬしかない

今エゼットの「種」は、お前たち3人だけだ。そしてそんなお前たちも、まもなく生理機能の最盛期を越えようとしている。これ以上長引かせられない

だから我々は、お前たちに希望を賭けるしかない。お前たちの体が衰弱し始める前に、他の全てを犠牲にしてでも、その可能性を作り出すほかない

……バーリーコーン計画が遺伝子欠陥を生むことを、世界政府は最初から知っていた。そうなんだな?

俺たち全員が、せいぜい35年しか生きられないことを、あいつらは最初から知っていた。それなのにまったく対処しなかった。そうなんだろ!

……お前たちの体内の遺伝子欠陥の全てがバーリーコーン計画のせいというわけではない。たとえお前たちの出生時から介入しても、すでに挽回は見込めない状況だった

バーリーコーン計画の雛形となる実験は、黄金時代、すでにエゼット内部で行われていた。ただパニシングの爆発後、戦況に合わせて調整されただけだ

すでにお前たちより数世代前のエゼットメンバーに、遺伝子改造の欠陥があった。これらの欠陥が遺伝として引き継がれ、お前たちの両親、更にはお前たちにも影響を与えた

ライフの言葉を聞いて、真っ先に激しく反応をしたのはアジャールだった

デタラメだ!俺の両親にそんな症状はなかった!!

ただ目立たず、発症するタイミングがなかっただけだ。以前の改造はパニシングによる影響もなく、欠陥もここまで深刻ではなかった

このことも、俺たちがエゼットに駐屯する以前、エゼットの成年戦力が試行錯誤していたバーリーコーン計画に率先して参加した理由だ

たとえ改造しなくても、彼らの身体機能は衰弱期を迎えていた。だから彼らは、その強い希望を、お前たちのような更に若い命に託そうと決めたんだ

お前……

アジャールが何か言いかけたのを、カムイが押しとどめた

そのあと、研究チームが出した最後の結論は?

……

彼は黙ったまま、別の文書ファイルを開いた

「現状の進捗に基づき、黒点メンバー体内のソルエネルギアを直接抽出し、転化成功の確率が最も高い訓練者に優先供給し、突破させることを提案する」

「抽出後の黒点メンバーの生理機能は回復せず、急激に衰弱して死に至る」

「遺体を迅速に冷凍し、観察ポッドでサンプルとして保存、後続の研究に使用することを提案する」

……

それがお前らの結論か?お前らが選んだやり方か?どうして他の方法を試さなかった?どうしてそう簡単に諦めたんだ!?

俺たちも……努力していたんた……

お前たちの怒りはよくわかる……

何がわかるっていうんだ?俺たちが生まれた時から化け物だということか?遺伝子改造の欠陥で、エゼットの全員が普通の成長すらできないことか?

俺とカムイが、たった6年で19歳まで成長し、一生かけても成功できない化け物だってことか!?

感情が暴走したアジャールが投げつけた質問は、その場の全員を驚かせた

!!!

ライフ、彼が言ったのは本当なのか?

このことがお前たちに大きな打撃となることはわかっていた。すぐには受け入れられないのも無理はない

俺はすでに解決の方法を見つけた。だから俺を信じてくれ、必ずや――

ライフはため息をつき、背を向けて立ち去ろうとした。だがその瞬間、激痛が彼を襲った。彼は床に倒れ、苦痛に喘いだ

ライフッ!?

待て、これは……光冠ゲノムの悪化症状か?それがなぜライフの体に?

理由を追究する余裕もなく、3人は急いでライフを助け起こし、その場を離れた

そのあと、彼らは医務室で長い時間を過ごした。医者はすぐにライフの処置を行うと、もう隠し通せないと観念し、3人の少年に全てを打ち明けた

ライフは子供を危険にさらしたくはなかったんだ。新たな可能性を試し、更に世界政府からの催促に応えるため、彼は一部の兵士とともに光冠ゲノムを接種し、訓練を試みたんだ

だが、そもそも彼らは改造を受けるのに最適な年齢ではなかった。当時から私は言っていたんだ。この行動はただ自分自身を苦しめるだけだとね

……このことも、君たちは知っておくべきだ

私が話せるのはここまでだ。他に何か思うことがあるなら、ライフが起きてから、直接本人に言いなさい

3人の少年は医者から渡された書類の束を持ち、ライフの病室の外で黙ったまま立っていた

……この志願書は全て、ここを離れた黒点メンバーのリストと一致してる

カムイが先に沈黙を破った

ライフは強制はしていない。ただ事実を伝えただけだ

彼ら自身がエゼットの未来のために、枯渇しかけている自分の命とエネルギーを自発的に差し出したんだ

そしてライフも……最善を尽くそうとした

これまでの負の感情は雲散霧消し、カムイはライフに一方的に食ってかかった自分自身を責めていた

とはいえこれは長期的に続けられるやり方じゃない。根本的な解決策にもならない

みんなが俺たちのためにここまで犠牲を払ったんだ。俺たちもただ座って死を待つなんてことはできない。彼らの期待を裏切るわけにはいかないんだ

……だからって、お前はどうするつもりなんだよ……

アジャールはカムイの方を見ようともせず、無気力に呟いた。カトレフが彼の異変に気付き、支えようと近付いたが、アジャールはほっといてくれというように手を振った

遺伝子欠陥……これはもう事実だ。俺たちがどんなに受け入れたくなくても、変えようがない

俺たちに残された時間は少ない。一番早くて一番効果的な方法を選ばなきゃ

普通訓練者の体内エネルギーでは足りないのだとしたら、俺たち3人の「種」候補のエネルギーを提供すればいいんだ

俺たち3人の中で一番突破の可能性が高いひとりを選び、残りふたりが体内のエネルギーを抽出し、そのひとりに集める

少なくとも、これが現状では最適な方法だ

この方法はライフも思いついていた。しかし彼も、自己犠牲を選んだ黒点メンバーも、自分以外のエゼットの家族が犠牲になることを望まなかった

ましてや3人の少年は一番有力な希望と目視されていた。進んで彼らにリスクを冒させることなどできなかった

この決断は彼ら自身でしかできない上、そうする資格があるのも彼らだけだった

もしそれでも失敗したら?

――その時は、また一緒に別の方法を探そう

諦めさえしなければ、希望の火種が消えたりはしない

ふざけるな……冗談じゃない。カムイ、お前はいつになったら現実を直視するんだ?

自分を抑えきれなくなりつつあるアジャールは、半笑いでカムイに近付き、彼の服の襟をガッと掴んだ

自分で数えてみろよ、今まで俺たちがどれだけの方法を試したかを?1度でも本当に成功したことがあったか?

そうそう、昔のことも数にいれとけよ

子供の頃、俺らは成長が遅くて体もひ弱だった。母さんたちは、心配するな、俺たちと一緒に前へ進むからって言ったよな。それがあの頃の俺らが見つけた方法だった

だが成長後、パニシングという悪魔が現れ、俺たちはどうすることもできなかった。あの人たちが俺らには希望があると言うから、彼らを信じ、そして待っていた

――だが彼らは死んだ。パニシングに殺された。あの人たちは俺らが待ち望んだ希望じゃなかった

そして、俺らは期待を何に託した?世界政府か?エゼットの他のメンバーか?ライフか?それとも俺たち自身か?

俺たちは皆、いつもいつも、諦めずにひたすら頑張ってた!探し続けてきた!

だけど結果はどうだ!?一体何を得たっていうんだ、言ってみろよ、カムイ!!

……俺たちは毎回毎回、命を懸けて頑張ってきたよな、カムイ

でもその度に俺たちは失うばかりだった

同じ結末を何度も見せられて、俺はもう……うんざりだ

両親の死以来、彼らは出口のない輪廻に閉じ込められた。どの道を進もうがその先には絶望の崖しかない。絶望の崖から何度も落ちたその体と心が、あと何回耐えられるだろう

……わかってる、アジャール

でも俺たちは足を止めるわけにはいかないんだ

俺たちの後ろにはエゼットがある。もし俺たちまで諦めたら、みんなはどうなる?

前を歩いていた家族も、きっと同じ気持ちだ。彼らは失敗や死を恐れなかった。なぜなら背後に多くの守りたい人たちがいることが、はっきりわかっていたからだ

お前も家族を見捨てるなんてできないだろ?

――俺は失うことは怖くないよ、アジャール。たとえ失うのが俺自身でも構わない

失う前にたった数日でもこの家を支えられるなら、俺はなんとしてもその数日を耐え抜いてみせる

俺がいなくなっても、その後ろにはまだ別の人がいる。最後まで歩き通せば、きっとエゼットの存続という希望を守ることができるさ

俺たちの家も、今までずっとこうして続いてきたんだ。そうだろ?

……ライフ、起きた

カトレフの声がふたりの口論を中断させた

お前たちが何か決めたというなら、直接ライフに言え。俺は何も意見なんかない

……もう疲れた。先に帰る

この捨て台詞はアジャールが言い争いを諦めた合図だとカムイにはわかっていた。しかしアジャールが疲れ切っていることもわかっており、無理に結論を出させようとはしなかった

アジャールが疲れているなら、彼を先に走らせておけばいい。もし何かあれば、カムイが彼の代わりにそれを成し遂げ、彼らの希望を探しに行くからだ

来ると思っていた

エゼットにはまだ希望がある。ここで諦めるわけにはいかない

エゼットにはもう希望はない。頑なに固執しても意味がない

この道はとても厳しい。それに成功する見込みはないかもしれない。カムイ、お前は本当に覚悟できているのか?

とっくに話したわよね、理想主義の無邪気さは痛々しいと。あなたたちはいつかその傷に耐えられなくなる。おめでとう。もう、呪縛は解けたわ

わかってる。未来にはきっと、数えきれないほど困難が待ち受けてるってことは。でも俺たちだって、今まで困難を乗り越えてきた。だからこそ今の俺たちがある

絶対に現実なんかに負けない。俺はそれを変え、俺たちの家の幸福の土壌にするんだ

現実?あんな絶望と苦痛しか生まないもの、さっさと消えればいい

現実は残酷でしかない。何度も繰り返される絶望の結末を経て、結局は俺たちを見捨てた。だったら俺たちも、現実が与える希望なんか見捨ててやる

そんなことは絶対に起こらない

俺の願いは、エゼットの人間の誰かが生き延び、人類の生存者が生き延びることだ……

そうなれば俺たちの家はずっと存続し続ける。人類は必ず生き延び続けて、いつかみんなの家を再建できると信じてる

命はあまりにも脆い。この醜悪な世界に簡単に揺さぶられる

俺はすでにもっと強く結びつけられる媒介を見つけた。それを使えば、家族の皆が離れることは二度とない

この世界を愛しているから

この世界を憎んでいるから

永遠にエゼットという家を愛しているから

エゼットのみんなが、俺に愛を教えた

彼らの中にはすでに去った人もいれば、今も残酷な苦しみに耐えている人もいる。俺たちは何度も失ってきた。でも俺たちがしてきた全てのことは、「愛」のためだ

俺はみんなの死を、犠牲を、もたらされた痛みを決して忘れない。でも俺が残し、存続させたいものも、彼らが惜しみなく俺に与えようとした、「愛」ってやつなんだ

みんなが俺に愛を教えてくれた。だから俺もその温もりを、世界中に伝えたいんだ

これは俺が覚えておきたい、そしてみんなが俺に覚えておいてほしいと願ってくれた、最も大切なことなんだ

愛が続く限り、家はなくならない

生まれた時から、俺の世界にはエゼットしかない

母さんと父さん、カムイにカトレフ、そしてエゼットの人々が、苦労してやっとここまで来たというのに

世界は俺たちに何をした?大切な家族を奪い、苦痛を絶え間なく与え続け、「運命」というもので俺たちをがんじがらめにした

いつだって、俺たちが家を守れると思った途端、この非情な世界がそれを廃墟に変えた

世界が理不尽な暴君だというなら、いっそ滅ぼしてやる

世界は「家」なんかじゃない。俺は自分のやり方で、この家を繋ぎとめる

エゼットに希望をもたらす

エゼットに死をもたらす

希望の代償が俺自身だとしても、俺は進み続ける。残りの人たちも、きっと進み続ける

たとえ暴風が俺たちの火種を何度吹き消したって、俺はまた火を灯し続ける。高い頂だって越えてみせる、不滅の太陽になるまで

どうせ俺たちが失うことは運命づけられている。ならばいっそ喪失を受け入れるさ。死は、何よりも強い永遠の繋がりだ

火種が燃え上がらないなら、暗闇の中で眠ればいい。無意味に足掻く必要はない。闇夜は俺たちにとって変わらない温床になる

そうなれば俺たちの家は、エゼットの人たちは、永遠に一緒だ

俺が、連れて帰る