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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER15-8 日は西に

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エゼット訓練場

過去

こ、こんにちは……

声を聞いて、カムイは振り向いた。彼は訓練場で指導と巡回を行っているところだった。パニシングの爆発後、エゼットは戦時体制に移行し、管理体制もかつてと異なっている

防衛に加え、エゼットは他の災害地域の救援も行い、オーディンリーたちは前線の活動で忙しい。能力と簡易テストの結果、カムイとアジャールが一時的に管理権限を引き継いだ

やあ!ガイ、何かあった?

カムイは笑顔で、助けが必要かどうか訊ねた

え?名前、覚えててくれたのか……

当然だろ!先月入ったよな、弟と一緒に。確か、えっと――ふたりはまだ配属待ちの段階だよな?

あ、ああ……ここ最近たくさんの難民を受け入れて、人の出入りも多いのに、そんなことまで覚えてるなんて……

ガイは少し気まずそうに頭をかいた。エゼットの人たちは忙しく、こんな些細なことを気にかける余裕はないと思っていたため、カムイにどう切り出すべきかまだ迷っていた

気にすんなって。何かあれば直接俺に言ってくれ、できる限り手伝う!

実は……3日前に弟と一緒に最新の戦力評価を受けた。これでエゼットの軍に加われるか否かが決まるって聞いて。その結果を先に教えてもらえないか?

言い終えてすぐにガイは少し後悔し、心の中で拒否された場合の対応をあれこれ考え始めていた

もちろんいいさ。実は結果は今夜発表予定だったし。ちょっと見てみよう……

君の戦力評価は合格だ。希望すればエゼットに残り、編入されて正式な兵士になれる

弟は体がちょっと弱いから不合格だ。でも安心しろ!合格できなかった人たちは、近くの避難基地に移送して、そこで生活してもらう

もちろん、エゼットは無理に残れなんて強制しない。弟が心配なら、一緒に行ってもいいよ

これを聞いたガイは明らかに興奮していた

残るとも!ぜひ残らせてくれ。俺たちの命を救ってくれたエゼットに恩をどう返したらいいのか、ずっと考えていたんだ

弟のことも……想定内だ。あいつが落ち着ける場所さえあれば、もう心配はない

よかった、理解してくれてありがとう!ごめん、世界政府の新しい規定で、エゼットの物資も厳格に審査されてさ。正式に編入した人数分しか申請できないんだ

正式な人員じゃないと、長く収容することもできなくて

いや、感謝するのはこっちだよ!ここにいる全員がわかってる、もう十分よくしてくれてるって

それと……訓練場はまだ閉まっていないよな?今すぐ行ってもいいか?早く強くなって、1日でも早く役に立ちたい

もちろんいいよ!ちょっと待っててくれ、訓練服を持ってくる。それを着たら怪我しにくいから

カムイはすぐに更衣室へと走り、自分の予備の訓練服をガイに渡した

サイズはだいたい合うはず……へへ、やっぱりぴったりだ!ほら、やるよ!

エゼットへようこそ。今日から、俺たちは家族だ!

ああ!必ず期待に応える!

そう言うと、カムイは別の兵士に入門訓練を任せ、記録表への記入を続けた。小さくハミングを口ずさみながら、エゼットに新しい家族が加わったことを心から喜んでいた

カムイ――

突然の呼び声に、カムイの思考が途切れた。顔を上げると、訓練場の外で衛生兵が手を振って彼を呼んでいた

医療部のエリアと訓練場は離れており、衛生兵は駆けつけるのにかなり体力を使ったらしく、囲いに寄りかかって息を切らしている

お?どうした?医療部から呼び出し?

ああ……部長が呼んでる。カトレフの件らしいが……

わかった、すぐ行く。おっと、これを――水分補給して、少し落ち着いてから戻ってよ。そんなに急がなくていい

じゃあ行くよ。知らせてくれてありがとう!

カトレフ――

カムイの大声は本人よりも先に医療部へ届いた。カトレフは顔を上げ、振り返ってカムイがやってくるのを待った

カムイ

どうしたんだ!?怪我でもしたのか?

カムイはカトレフの全身を仔細にチェックした。もともと巻き毛の黒髪が更にぐしゃぐしゃに乱れたが、頭も顔も手足も無傷だと確認すると、カムイはほっと息をついた

ふう、よかった、何も問題なさそうだ。で、一体どうしたんだ?

カムイ、来たのね。話というのはカトレフを連れて帰ってほしいってことなの。明日から医療部の手伝いに来なくてもいいわ

ヴィニーおばさん、行かせ、ないで。俺、頑張る、手伝える

あっ、カトレフ、慌てないで。よく聞いて、そういうことじゃ……

先生、この坊主を追い出さないでくれ。熱心にずっと俺たちの面倒を見てくれてたんだ!薬や包帯の交換も、傷の処置もすごく丁寧だ。彼をここに残してくれ!

ただなあ、ちょっと表情は怖いけどな……俺はビビリなんで、来たばかりの時はそりゃ驚かされた。でも他は本当に申し分ないんだ!

笑顔、できる。カムイ、練習、手伝ってくれた

……ヒ、ヒヒ

……

ぼ、坊主……もういいんだよ、やっぱり笑顔は諦めろ。俺はもう……

カトレフはがっかりしたように「笑顔」を引っ込めると、カムイの肩に顔を埋め、受けたショックを消化しようとした

もう、いちいち人の話に割り込まないで!いいからおとなしく寝てて。話がややこしくなっちゃう

――そういうことじゃないの、カトレフ。医療部はあなたのことを嫌ってるんじゃないの。ほら、あなたたち、これを見て

ヴィニーはそう言いながら、手にしていたレポートをカムイに渡した

カトレフは配属されて以来、ずっと頑張って手伝っているし、私たちもすごく感謝している。でも彼が長所を発揮すべき場所はここではないのよ

これは最近私が彼のために作った戦力評価レポート。この子はどの方面にも秀でた素質を持った、得がたい有望株よ。医療部にいるのはもったいないって話

彼を連れ戻して訓練したらどう?今は前線も厳しいし、あなたたちにはこんな優秀な戦士が必要よ

……俺、できる、かな

私たちの判断を信じて。そしてカトレフ、あなたはもっと自信を持ちなさい。私たちはあなたが心優しくてタフないい子だと知ってる。きっとできるわ

そっか、わかった。念のため、もう一度カトレフに基本テストを受けさせるよ。それから彼に……

評価レポートが提案した階級に基づいて、彼に見合った訓練を手配するんだ。レポートが彼の条件は悪くないって示してる、時間を無駄にするな

カムイが言い終わる前に、隣から声が聞こえた。アジャールは医療物資の箱を抱えながらやってくると、箱を下ろして会話に加わった

カトレフをいつまでも子供扱いして庇うな、カムイ。彼もエゼットに加わった以上、家のために自分の全力を捧げるべきなんだ

……それにカトレフは俺と同い年で、お前よりひとつ年上なんだぞ。俺たちの前で大人ぶるな

彼を連れていって一緒に訓練しよう。長所を生かせるし、互いに面倒を見れる

……俺も付き合う。お前が早く追いつけるように手助けする

最近、アジャールのカトレフへの態度はかなり軟化していた。しかも今の言葉は更に彼を認めるものだった。カトレフは明らかに嬉しそうな様子で頷きながらふたりを見た

訓練、行く

カムイと、同じ。エゼットを、守る

実際、エゼットに恩を返せるなら、どんな役目でも彼は受け入れるつもりだった。戦闘に出て家を守り、カムイと同じような人になる、それこそが彼の望むところだった

――よし、わかった。じゃ今後はカトレフを連れて一緒に訓練するよ。安心して俺に任せてくれ!

カムイは自信たっぷりに胸を叩いた。アジャールは安堵し、彼らしい笑顔をヴィニーに向けた

ヴィニーおばさん、俺が今週の仕事をまとめて彼らに引き継いでおく。ここはあなたに任せるから、よろしく

行ってらっしゃい。終わったらちゃんと休むことを忘れないで。ここ最近、休む間もないほど忙しそうだから

何かあったら、私たち大人が責任を取るわ。あまり自分にプレッシャーをかけないで

エゼット資料室

過去

過去-エゼット資料室

3人の少年は資料室で今週の仕事内容を簡単に整理したあと、内部の報告会議をすぐに始めた

母さんに訊いたけど、ふたりはやはり都合がつかなくて来れないらしい。前回と同じく、彼らを待たず、俺たちだけで報告会議を始めよう

カムイ、まずはお前からだ

わかった

カムイは権限を調整して、最近記録したデータとレポートをモニターに表示させた

人員管理と駐屯部隊の訓練については、全体的に新しい変化はないな

今週、エゼット基地駐在の内部メンバーの訓練がいつも通り行われた。救援中に連れてきた外部人員に、複数回に分けて戦力評価を実施。今は第3期を行っているところだ

結果は30%の人が基準を満たしてる。部隊への配属を希望するかどうか選択してもらう。残りの人は上に報告後、いつも通り分隊が最寄りの救助エリアへ送り届ける

第2期の新しく編入したメンバーは基礎訓練が終わり、来週にはひとまず巡回の任務を割り当てる。次のテスト終了後、彼らを正式に編制し、戦闘支援のため前線に派遣する

救助された難民のほとんどは、今のところ精神的に安定してて、逃げたり面倒を起こしたりはしていない。直近の配給資源が減少している状況も理解してくれた

でも――後方支援の集計によると、残り全ての物資も、この状況だと持って最大3週間だ

3週間後、もし新たな物資がないままなら、3分の1の人たちが補給を受けられなくなる。そうなれば、ほとんどの人が楽観視できなくなるだろうな

……了解。カトレフ、最近、お前に任せた基地の医療備蓄と基本施設の検査、どんな状況だ?

医療用品、しばらく、足りてる。エゼット内部、まあまあ大丈夫。前線は、医療物資が不足、ヴィニーおばさんが言ってた

基地防護設備、全て検査した、一部損傷。俺が直した、材料を使い切った、次回の修理、足りない

わかった、何とかする

俺の方に関しては……物資申請の件は母さんが引き継ぎ、心配するなと言っていた。だから最新の進捗は、はっきりとはわからない

最近、不審者等の侵入はないが、世界政府の動きは明らかに変だ

パニシング爆発後、エゼットは世界政府に従い、被災エリアの救援活動をしている。世界政府とは通常、通信でやり取りするが、最近彼らは口実を設けて頻繁にエゼットに来る……

エゼット本部は防衛態勢を取っている。頻繁な人員の出入りは望ましくないと彼らもわかっているはずで、直接人員を派遣してくる正当な理由などないはずだった

……まあいい、この件はしばらくおいとこう。更に重要な解決すべきことがある

アジャールはしばらく沈黙したあと、ついに真実を話し始めた

現在、エゼットのリーダーを含め、ほとんどの成年精鋭が前線に派遣されている。最新報告では前線の戦力消耗のスピードが速くなりつつあって、音信不通の部隊の数も増えている

我々はできる限り早く、前線に戦力を補充する必要がある。でないと長くは持たない。防衛線は後退を強いられ、最悪の場合、基地本部まで迫られてしまう

これらについては、最新の人員配置の集計が終わってから考えよう。エゼットの全体的な業務はこのくらいで、今は――

前に話した例の件についてだ

アジャールは内務報告書を閉じ、カムイやカトレフと顔を突き合わせて話し始めた

カムイ、この問題を最初に提起したのはお前だ。まずは現時点の手がかりを基に判断してくれ

わかった。前にも話したけど、母さんが訓練プランを調整し直した。審査の周期が大幅に減らされ、訓練強度が少なくとも前の3倍に引き上げられた

それ以外に前線が最近、過剰な薬品を申請してる。その薬品は基本的に精神へのダメージと体力補給に使われるんだけど、申請の合計数と頻度が、正常な範囲じゃない

そういったデータと上に報告した死傷数のデータが合わないんだ。過剰摂取する必要がある原因は、きっと他にあるはずだ

……

アジャールは考え込み、オーディンリーが補給を受け取った日時の記録をめくり始めた

異常が始まったタイミングは、まさに世界政府が頻繫的に人員を派遣してくるタイミングと同じだ……あの偽善者どもめ、もっと早く彼らの悪意に気付くべきだった

俺たち、どうする?

カムイはアジャールと目を見交わし、相手の考えが恐らく自分と一緒だと確信すると、モニターにエゼットのエリア分割を表示した

彼らが直接に言わないなら、俺たちが自分で手がかりを探すまでだ。証拠を押さえとかないと、直接問い詰められないしな

最近、母さんが戻る頻度が多くなったのは、多分基地で上のやつらと会うためだ。具体的な場所さえ突き止めれば、せめて彼らが一体何をしているのかはわかる

俺、前線がよく申請する薬品の種類を覚えておいたんだ。最後の薬品が受け取られる前に、中にリアルタイム発信器を入れといた

今、発信器が示している座標はエゼット基地の最上階だ――あそこにはまだ運用されていない新しい訓練場がある

そこはテストの数カ月前に建設が始まっていた。当時、オーディンリーは今後に役立つとだけ言い、詳しい説明はしなかった

そのあと戦争が勃発し、皆はここを気に留める余裕をなくした。発信器が示さなかったら、カムイもアジャールもこの場所の存在を忘れていただろう

敷地は広く、秘匿性も高い。しかもこれまでずっと未稼働かつ無断立ち入り禁止だと言っている……どれをとっても条件に合致している

じゃ1度、潜入してみようぜ。ちょうど母さんたちも昨日帰ってきたばっかだし、俺たちみんなで真実を突き止めよう!

善は急げと、彼らはその日の夜に計画を実行することにした。そして潜入の状況はというと、彼らが思うよりもずっとスムーズだった

……おかしいな。途中で警備の巡回にもほとんど遭遇していない。それに普段、夜になると時々事務処理で俺たちに会いに来る人がいるのに、今日に限って誰も来ない

アジャール、この状況ってあの時とよく似てないか?まさか、また母さんたちが……

……もしそうなら、あのふたりはもう俺たちに真相を打ち明ける準備ができてるってことだ。ここまで来た以上、探索を続けるしかない

俺が先頭で偵察、お前は殿でカトレフの面倒を見てくれ。ここの照明はまだ通電していない。彼は夜目が効かないんだ、あちこち歩き回って物にぶつかったりさせるな

そう言いながら、3人の少年は新訓練場の入口にたどり着き、ドアを発見した。しかもドアは、まるでわざと彼らを招き入れるかのように半開きだった

アジャールが試しにドアを押してみたが、中での動きは特にない。カムイも周囲に動きがないことを確認し、ようやく彼らは揃ってそっと入り、そのまま奥へ進んでいった

奥に進むと、新訓練場の内部に照明設備があることに気付いた。中央の明かりを頼りに、彼らはこの場所の全貌を見た――ここは通常の訓練場よりもかなり広い

特に天井が人間の作戦訓練の場所とは思えないほど高い。ここはむしろエゼットの武器テストフィールドによく似ている

ここって……一体何の目的で建てられた場所なんだ?

知るかそんなの。でも考えるまでもなく、上のあの連中と関係があるに違いない――

ぐぁぁぁぁぁッ――!!!

?!!

母さんの声だ――あそこだ!!

彼らは訓練場の外周に目を向けた。そこは簡易な材料でできた臨時実験室で、凄惨な悲鳴はそこから聞こえてくる。真っ先にアジャールが駆け出し、カムイとカトレフが後に続いた

――なんだよこれ!?

実験室でまず目に飛び込んだのは隔離ガラスだった。その向こうにいるオーディンリーは片膝をついて武器を握りしめ、歯を食いしばって意識を保ち、何とか立とうとしていた

ガラスの外では、エウリディケが得体の知れない機械の前に立っていた。彼は3人の気配に気付いたが、こみ上げる思いを押し殺し、チラリと振り返っただけで前を向いた

彼はまるで何事もないように落ち着き払い、オーディンリーを見つめ続けていた。しかし次の瞬間、思わず口にした声は震えを帯び、彼の心の揺らぎを露わにしていた

すでに前回の訓練の限界値に達している

マイクに話しかけた彼の声は拡声器を通じて、向こう側のオーディンリーに届いた

――もっと上げて!!

エウリディケは手にしたマイクのケーブルを思わずぐっと強く握りしめたが、それほど長く逡巡はせず、オーディンリーの言う通りに機械の設定を上げた

より凄まじく陰惨な悲鳴が響き渡り、その場にいる全員の心を締めつけた。エウリディケは見るにたえず、歯を食いしばって目を伏せた

う……この程度じゃ、全然足りない……ただのシミュレーション環境でこれなら……

エウリディケ……上げ続けて!!遠慮はいらない!!

ダメだ!!それ以上はやめろ!!父さん、何をしてるんだよ!?母さんはもう――

カムイが前へ飛び出し、装置のスイッチを切ってオーディンリーの苦しみを終わらせようとした

――動くな!!

エウリディケは初めてカムイに向かって怒鳴った。彼は子供たちの気持ちを理解でき、彼自身も内心動揺していたが、止めるわけにはいかないこともわかっていた

カムイ、アジャール……それにカトレフ、お前たち全員、絶対にこの装置に触れるな

しっかり見るんだ。お前たちの母親が今、何をしているか、私たちが今、何をしているかを……

これが未来なんだ。お前たちが成し遂げなければならない使命なんだ

拷問のような過程はしばらく続き、アジャールは悲鳴を聞いていられず、耳を塞いで室内の片隅に逃げた。一方でカムイはガラスに近付き、母親の苦しみを全て心に刻もうとした

カトレフはカムイの隣まで来ると肩に手を置き、少しでも彼を支え、慰めようとした。しかし彼も目を伏せ、顔を上げることはできなかった

オーディンリーとエウリディケは彼を養子として迎え入れていたが、この時の彼は、彼女の苦しみを直視する勇気を持ち合わせていなかった

――オーディンリー!!

ついに予定通りの設定に達すると、エウリディケはすぐに装置を停止し、中に駆け込んで弱りきっているオーディンリーを胸にかき抱いた

子供たちも後に続いたが、彼らの邪魔はせず、ただ心配そうに待ち続けていた

オーディンリーはようやく落ち着き、意識も回復した。彼女はエウリディケの背中を軽く叩いて安心させ、立ち上がって3人の少年たちのところへ歩いていった

か、母さん……どうして、こんなことを?

カムイは溢れる涙を抑えられずにいた。彼はオーディンリーがこんなにも脆く、みじめな姿をさらしているのを初めて見た

カムイ、アジャール、カトレフ、あなたたち……よくやったわ

ここ最近のエゼットを支え、運営を維持しているだけじゃなく、手がかりを頼りにこの場所を見つけ出した。お見事よ

……これでやっと、私たちは完全に安心できる

これから私が言うことを、一言一句しっかり覚えておくのよ。未来のどんな瞬間であれ、その言葉を心に刻んでおいて

オーディンリーの声はいつもほど大きくはなかったが、エゼットの代表としての圧倒的な気迫は一切損なわれていなかった

あなたたちも見たでしょう、あのパニシングという悪魔が……私たちの世界をどれだけ滅茶苦茶にしたかを

私たちは全力を尽くし、エゼットを守ろうとした。罪のない人々を助けるため、あらゆる場所に駆けつけた……でもそれでも十分じゃなかった

私たちが愛する人たち、そしてもっと多くの人々を救うために、エゼットはただ座して待つわけにはいかない

オーディンリーが腕を上げると、そこにははっきりと採血の跡が残っていた

あなたたちがずっと知りたがっていたこと、その名前を教えるわ――「バーリーコーン計画」よ

数年前、世界政府がその原型を立ち上げた。そのあとエゼットに接触して、まず私たちに試させたの

それは一種の遺伝子強化の改造実験よ。「光冠ゲノム」というワクチンを改造する被験者に接種すると、遺伝子が転化され、全面的に強化されるものなの

初めは何もかも正常だった……でもパニシングの爆発によって状況が一変した

私たちは改造者の血液中にある物質を発見した。その物質はパニシングに対して僅かな免疫があり、その効果はまだ強化段階よ。でも人類にとって大きな発見だし新たな可能性なの

この発見をもとに、世界政府はバーリーコーン計画を進化しようとした――遺伝子転化が成功すれば、その物質は更に強力な効果を発揮するかもしれない

成功した者は構造体手術をすれば、力は何倍にも増す。そこで私たちは改造成功者をこう名付けた――「黄金の太陽」。そしてその物質を「ソルエネルギア」と呼ぶようになった

それはエゼットが設立されて以来、私たちが追い求めてきた強く温かい「太陽」よ。これこそが私たちが目指す方向であり、人類が反撃の道を歩むための新たな希望になる

……でも母さん。その代償は?

カムイはオーディンリーの話を遮った

母さんは、力や希望、英雄とか、いろいろ言うけど――どうして、さっき母さんが受けていた苦しみのことを説明しないんだ?

この計画には必ず苦しい代償が伴い、だからこそ母さんたちは、ずっと俺たちに黙っていた……そうだろ?

どんな決断にも必ず代償が伴うんだ。バーリーコーン計画には前例がない。開拓者として、私たちは全ての未知のリスクと可能性を引き受けなければならないんだ

遺伝子の転化には言葉では言い表せないほどの激痛が伴う。そして、パニシングに立ち向かえる戦士に成長するためには、過酷な訓練に耐えなければならない

……そしてこのことも、お前たちに伝えておかなければならない、もっと大切なことだ

私たちとエゼットの成人精鋭部隊はすでに第1回目の改造に参加した。未知の危険は私たちが先に試す。だからこそエゼットの指導権を不確かな人々に任せるわけにはいかない

今日から、世界政府からの援軍が到着するまでは、エゼットの全ての権限をお前たちに委譲する。そのあとは彼らとともに基地を管理することになるだろう

今は詳細は話せないが、覚えておくんだ。エゼットを真の成功へ導く希望は、恐らくお前たちにこそある

リスクを十分に低くした上で、お前たちも改造を受けることになる

これが今後のエゼットの全メンバーに対する優先順位だ。もし何か緊急事態が起きたら、お前たちはまず自分の身を守ることを最優先しろ。私たちが代わりに消耗品となる

……これは命令だ。しっかり理解できたか?

しかし彼らは誰ひとり返事をしなかった

何万世紀にも感じるほど長い沈黙が続いたあと、オーディンリーがその静けさを破った

戻って休みなさい。明日、あなたたちへの全ての権限の引き継ぎを始めるわ

――納得できない!!!

アジャールは抑えていた感情を滅多にないほど一気に爆発させ、両親に向かって怒鳴った

どうしてふたりはいつも、全てを勝手に決めて、何もなかったかのように結果だけを知らせるんだ?

クソみたいな計画に賛成するかどうか、世界政府の援助を受けるかどうか、俺たちの代わりに死んでもいいかどうか――俺たちに一度でも、意見を訊いたことがあるか!?

1度だってないじゃないか!!!

彼は全身の力を振り絞って叫び、新訓練場から走り去った

……アジャールを探して、様子を見てくる

カムイはポツリと力なく言った。彼は両親がなぜこうしたのかを問わず、無言でそこを離れた。しかしドアを出る前、カムイはやはり振り返り、ふたりを見た

……母さん、父さん。俺たちはどんな困難でも一緒に分かち合いたい

俺たちを守ろうとしてくれているのはわかってる。でも、家族だろ

俺たちだって、ふたりを失いたくないんだ

もし俺たちがまだ弱いことが理由なら……もっと頑張って早く成長するから

だから……もう少しだけ、俺たちを信頼してほしい

カトレフも彼の後に続いた。子供たちは去り、広い訓練場にはオーディンリーとエウリディケの孤独な影だけが伸びていた

疲れ切った顔をした両親の目には未練の色が浮かんでいたが、結局、彼らが子供たちを追いかけて引き止めることはなかった