「家の願い」を象徴する黄金色の光の玉が、リーフの手の中でぴょんと2度跳ね、こちらへ向かって飛んできた
手を伸ばして受け止めた瞬間、言葉では言い表せない感情が胸に広がる
心地よい温度、満ち足りた安らぎ、何もない時の眠気、仲間たちが傍にいる安心感。傷という傷が癒され、そこから尽きることのない勇気が湧いてくる……
これが、私の思い描く「家」です
Ki...kiku?
キキィ!
動作モジュールを停止させられていたメイド機械たちが、ゆっくりと起き上がった。電子レンズからは狂気が消え、小さく鳴きながらリーフのもとへ集まってくる
それは彼女の帰還を祝うようにも、己たちの暴走を悔やむようにも見えた
……ただいま。大丈夫です、わざとしたわけではないとわかっています
その時、廊下の向こうから騒がしい音が近付いてきた。振り向くと、小型機械たちが腕をぶんぶん振り回すオディールを担ぎ上げながら「わっせわっせ」と駆けてくる
オディール!大丈夫ですか?怪我はありませんか?
まったくの無傷です!少し急いで飛んだせいで、羽が2本抜けたくらいです
黒鳥の執事は軽やかに地面へ降り立ち、リーフのスカートのリボンをくいくいと揺らした
姫様、火花の暖炉とスイカズラのウォールライトを灯しましょう!
……わかりました
リーフは深く息を吸い込み、まだ薄暗いホールを見渡す。そして右手を上げ、まるで見えない灯りの紐をそっと引くように――
光あれ
自分たちの周りを漂っていた光の玉たちは、歓声を上げるように四方へ飛び散った。ホールのシャンデリアから廊下の奥まで、温かな黄金の光が順に灯っていく
メイド機械とオディールの歓声が響く中、リーフの手を引いて窓辺へ駆け寄り、窓を押し開けて一緒に身を乗り出す
高みの風が、彼女の長い銀髪をさらう。背後には蘇った宮殿の灯火。言葉を交わさぬまま視線を重ね、先ほどよりも強く手を握った
失地を取り戻したのなら、被害の確認と立て直しは執事の務め!宮殿が片付くまで、少しお待ちくださいませ。すぐに終わらせます!
オディールはバサバサと羽ばたき、空中に広がる波紋からバスケットを取り出すと、次々と中身を出していく
ベリーパイに、花蜜キャンディ……あとこれと、これと……
私のおやつの備蓄は全てここにございます!感謝の気持ちですので、どうかお受け取りください!
リーフは腰を屈め、オディールの頭を優しくなでた
今度は、私が羊型のクッキーをたくさん焼きますね。好きな味を選んでください
小さな執事は満面の笑みを浮かべると、くるりと身を翻した
皆さん、整列!チョコレート小隊は床の清掃、クリーム小隊は屋根と窓の点検を!
号令をかけると、オディールは小隊を引き連れて去っていった。その姿は、まるでメイド機械たちの総司令のようだった
し、指揮官……リーフとお呼びください……
物語に出てくる執事は、何でもできるでしょう?それに憧れていたので、オディールには執事になってもらったのです
ですが、思った以上に真面目で……それ以来、「姫様」としか呼んでくれなくなりました
また「姫様」と呼ばれはしないかと心配なのか、銀髪の少女は両手を背に回し、視線を逸らして話題を変えた
紅の魔導士にも見つからず、清掃の邪魔にもならない場所があります。そこでオディールの「感謝の気持ち」をいただきましょう
宮殿の最上階に着いたと思ったその時――リーフは顔を上げ、夜空が描かれた天井へそっと息を吹きかけた。絵の中の月がゆっくりと丸い扉を開き、満月から三日月へと姿を変える
内側から、黒水晶のような階段が螺旋を描いて伸びてくる。リーフに続いて上ると、そこはぬいぐるみやクッションが山のように積まれた、小さな屋根裏部屋だった
「童話の創作は、空想の友達と秘密基地から始まるもの」……母が、ある物語の本扉にそう書いていました
私の空想の友達には、もう会っていただきました。そして今は、私の秘密基地にいる……どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください
バスケットを絨毯の上に置き、クッションの山をかき分けて、ふたりで座れるスペースを作る。頭を預け合いながら、バスケットの中からおやつを選んだ
明かりは僅かで、光は薄いヴェールのように垂れ下がる。彼女は形にならない旋律を口ずさみ、その度に羽飾りがこちらのこめかみの側で微かに揺れた
まさか本当に煙突から飛び込むなんて……子供の頃の私でも、そこまでは思いつきませんでした
「スノードーム」は指揮官のマインドビーコンと、私の意識海がともに形作ったものです。一緒にいる限り、傷つけられることはありません。だから安心できましたし……
銀髪の少女はキャンディの瓶を手に取り、それで顔を隠そうとした。こちらが続きを待っていることに気付くと、瓶を下ろして小さく呟いた
あなたに寄りかかられ、ぴったりと寄り添う感覚が好きなんです
はい、今みたいに
彼女はキャンディをひと粒取り出した。透明な包み紙が光を受けて、七色に煌めく
煙突に飛び込んだことはありませんが、子供の頃は……いわゆる「淑女」ではありませんでした。花を植えるために地面に座り込んで土を掘ったり、顔まで泥だらけでしたから
でも母はどう掘れば楽か、どのくらいの深さが適切かを教えてくれました。カーリィも家事が終わると手伝ってくれて……庭いっぱいに広がる生命は、3人で育てたものなんです
泥と汗と笑い声が混ざり合ったあの午後こそ、「家の願い」が芽吹いた瞬間だったのかもしれません
肩に寄りかかる柔らかな温もり。顔を上げたリーフの瞳には、すぎ去った日々への懐かしさと、未来への期待が溶け合っていた
氷の湖の封印を解き、「スノードーム」を完全に浄化できたら……一緒に模様替えをしましょう
床は木がいいですか?それとも石?カーテンの色はどうしましょう。入口の低木は子羊か、小鳥の形に整えるか……全部あなたと一緒に決めたいんです
準備が整ったら、記念に舞踏会を開いて……オディールたちと一緒に踊るんです
だって、家は……家族と築く、帰る場所ですから
楽しみにしています
暖炉の火が、瞼に優しい重みを落とす。大切な人の傍では、張りつめていた体も自然と緩んでいく
暖炉の火が、瞼に優しい重みを落とす。大切な人の傍では、張りつめていた体も自然と緩んでいく
少し、眠くなってきましたね
このまま少しだけ眠りましょう……
静寂の中、呼吸がゆっくりと重なっていく
宮殿の清掃が終わるまで、誰も邪魔することはない。姫君と大魔法使いには、ほんのひと時――寄り添って休む自由が与えられているのだから
