2日目
冷たい雨と分厚い雲が天幕によって遮断され、室内には温かな金色の光が広がっていた
数日前、侵蝕体から逃れながら風雨に曝されて過ごした日々が、まるで質の悪いコメディの悪夢だったかのように思える
穏やかな眠りから目を覚ました人々は、生態園の疑似陽光を浴びて、思わず感嘆の声を上げた
うわぁ……!これ、本当に黄金時代の技術なの?太陽と一緒だ!
[player name]、俺に言ってる?
十分だ。機体機能は全快してないけど、これからの仕事には支障ない
疑似陽光に目を輝かせるジェロムと、起きたばかりなのに、すでに万全の状態のカムイ。そのふたりが同時にこちらへ視線を向けた
……子供扱いすんなよ
……?[player name]、昨夜何かあったのか?
ッ……
後ろめたさがあるのか、ジェロムは反射的に視線を逸らした。カムイの問いかけるような眼差しを避け、素早く別の方向を見る
ッ……
拗ねたように小さく鼻を鳴らすと、少年はそのまま遠くへ視線を投げた
朝を迎え、慌ただしく休憩スペースを片付ける人々の様子を眺めながら、カムイと目を合わせる。言葉は交わさずとも、考えていることは同じだった
どうにか一夜は越した。だが、支援がいつ来るかもわからない以上、居住エリアの整備は急務だ。少なくとも当面、皆が安心して暮らせる場所を確保しなければならない
その時だった。突然鳴り響いた機械音が、周囲の会話を遮る。長く沈黙していた生態園の放送システムが、再び起動したのだ
ほどなくして、丸々とした執事ロボットが現れた。場違いなほど陽気な音楽を伴う登場に、全員の視線が一斉に集まった
皆様、おはようございます!生態園での生活、2日目でございます。現在、いずれの権限も解放されておりません。素晴らしい明日を迎えるため、ともに家を再建いたしましょう!
「認証」タスクを引き受けますか?指定のタスクを完了すると、進捗に応じて権限が解放され……
執事ロボットが繰り返す説明を遮り、居住エリアの解放条件を訊ねた
「家長」よりタスク要請を検知。「巣作り」シリーズタスクを更新……家族メンバーは、居住エリア内の障害物撤去作業を完了してください
タスク開始前に、システム規定に基づき、主人からの「整理整頓」に関する映像を再生いたします
……ねぇ、ここに引っ越してきたばかりのことを覚えてる?あの時も、酷いありさまだったわね。でも、あなたと一緒なら、どんなに大変でも甘い時間に変わった……
背中合わせで、肩を並べて……地面に散らばった瓦礫を片付けながら、ここに私たちの未来を築いていった。埃まみれのあなたも愛おしかったわ
……ゴホッ
電解液を飲んでいたカムイが、思い切り噎せた。激しく咳き込み、慌てて呼吸を整えたあと、彼は周囲を見回した
そして、人々の中に立つ自分と目が合った
表情を変えず、作業用の手袋を差し出す
……いつでも大丈夫だ
執事ロボットの案内に従い、撤去作業に協力する意思を示した被災者たちとともに、指定された作業エリアへ向かった
目の前に広がる居住エリアは長年放置されていたらしく、至るところが老朽化し、破損している。まるで廃墟のようだった
倒壊した壁、剥き出しの室内構造。瓦礫が散乱する作業エリアで足を止め、カムイと被災者たちの方を振り返った
[player name]、俺ひとりで十分だ。構造が不安定に見えるし、安全面に懸念がある
カムイの忠告を軽く聞き流し、「大丈夫」と合図して内部へと足を踏み入れた。一瞬言葉を失ったカムイも、すぐに後を追って中に入る
やっぱり危険すぎる。[player name]、せめて俺の後ろに
彼はそう言ってこちらの前に回り込み、行く手を阻む岩や瓦礫を払いのけていく。廃墟のような建物の外周を進み、やや広々としたホールへ足を踏み入れたところで立ち止まった
カムイに守られながら、周囲の構造を確認する
つまり、[player name]の判断では……
カムイの考えを補うように言葉を添えた
居住エリアの安全を皆に告げたあと、ふたりでホール外の作業エリアへ戻った。簡単な役割分担を決めたのち、本格的に作業を開始した
半分に折れた梁が、2棟の建物の間を塞いでいる。カムイは1歩前に出て、それを持ち上げようとした
……
梁をゆっくりと持ち上げると、下敷きになっていた部分には苔が生えており、足を滑らせたカムイはバランスを大きく崩した
それを見て、ためらうことなく1歩踏み出し、即座に彼の体を支えた
全身に力を入れているカムイは、言葉に応じる余裕はないものの、動きは確かにこちらの指示に従っていた
姿勢を立て直し、体の一部の重量をこちらに預ける。そして失いかけていたバランスを取り戻し、梁を支え直した
しかし、カムイを支えたその瞬間――思いがけず、互いの体が密着してしまった
カムイが、はっと息を呑む。一瞬、何をすべきかわからなくなったのだろう
こちらの声に促されるように、カムイは我に返った
……ああ、うん。[player name]、気をつけて
ふたりで力を合わせて運び出した、それほど重くない梁を地面に下ろすと、カムイは大きく息をついた。彼は無言のまま、先ほどの感覚を反芻するように立ち尽くしている
――近すぎた
力を込めた筋肉の緊張、呼吸に合わせて吐き出される息遣い
本来なら理性によって排されるはずの熱が、あの瞬間、触れ合う肌を伝ってカムイの中に駆け上がっていた
ふたりで支える梁自体は決して重くなかったが、すぐ傍にいる「その存在」は、カムイが自身の心臓の鼓動をはっきりと意識するほどに重かった――
汗だくで立ち尽くすカムイを見て、思わず手を伸ばし、額に滲む埃混じりの汗をそっと拭おうとした
[player name]……?あ、いや、大丈夫……
反応が一瞬遅れたカムイは、またしても適切な距離を取った
しかし、その声色が彼の内心を物語っていた。口にした言葉は抑制されているものの、どこか緊張した響きを帯びている
……ごめん。続けよう、[player name]
彼は頭を下げ、手の甲で額の汗を拭ったあと、これまでの周到で礼儀正しい立ち姿に戻った
自分の手は宙で一瞬留まり、やがて苦笑しながら引っ込めた
撤去作業は、最初のうちは順調だった。居住エリアから多くの廃材を運び出していたが、時間が経つにつれて進捗は遅くなる
数時間の労働で、皆の動きも重くなった。体は埃まみれ、手袋は破れてしまうほどだ
そんな疲労の中、ジェロムが小さなバケツを抱え、飛び跳ねるように作業エリアへ駆け込んできた
[player name]、カムイ兄ちゃん!手伝いにきたよ!
続いてリューク、ベルニー、老若男女、そして身動きできる負傷者までもが、次々と作業エリアへ集まってきた
執事ロボットが言っていただろう。「認証」タスクは、ワシら「家族」で協力するものだ。ただ座って待っているわけにはいかん
被災者たちは袖をまくり上げ、作業エリアへと進む。カムイのもとへ向かい、ぐらつく建材を一緒に支え始めた
俺も手伝うぞ
俺もだ
最初はひとり、次にふたり……そして更に多くの人々――リュークが連れてきた被災者たちが、シャベルやツルハシを手に、撤去作業の列に加わっていった
これは俺に任せて!
彼はこちらの手から小さなバケツに入った廃材を受け取り、ふらふらと作業エリアの外へ運んでいく
みんな……
疲れを隠せない顔で、カムイがこちらに視線を向ける。その眼差しが、言葉にならない問いを代わりに投げかけていた
[player name]……俺には、わからない
自分たちの家を……築く?
疑念と思考の蔦が、彼の冷静な表情を覆う。そのせいか、足の不自由な老人が足を引きずりながら作業エリアに入ってきたことにも気付いていなかった
[player name]、水分補給をしてこい。ここはワシらに任せろ
カムイくんも疲れただろう、休んでこい
自分とカムイは、一瞬言葉を失った。周囲から差し伸べられる手を見渡し、胸の奥がじんと熱くなるのを感じながら笑みを浮かべる
だが今の彼は、目の前の人々の熱意にどう応じていいのかわからない様子で、しばらく言葉を詰まらせたのち――
みんな、ありがとう。作業中はくれぐれも気をつけて。何かあればいつでも呼んでくれ
その声を合図に、静まり返っていた廃墟に作業の掛け声が飛び交い始めた。ふたりきりでは気が遠くなるような作業も、皆が力を合わせることで、驚くほどの速さで進んでいく
昂る声に押し上げられるように埃が舞う。これまで抱いていた猜疑心や立場の隔たりは、この瞬間に跡形もなく消えた。流れる汗の全てが、「家」を取り戻すために注がれる
やがて、最後の廃材が運び出される。皆の協力によって「居住エリア内の障害物撤去作業」は、日が暮れる前に無事完了した
カムイは壁にもたれ、大きく息をしている。自分も同じように埃まみれのまま座り込み、呼吸を整えた。すると居住エリアの外から、突然陽気な行進曲が鳴り響いた
丸々とした執事ロボットが、長いリボンを引きずりながら迎賓係のようにやってきた。時折火花を散らしていた青い単眼は、今やピンク色のハートのエフェクトを瞬かせている
撤去作業に尽力してくださった皆様に、心より感謝いたします!皆様はタスクを成し遂げただけでなく、家の再建に向けた、揺るぎなき礎を築かれました
皆様の団結力の下、目標タスクの達成をお祝い申し上げます。居住エリアの使用権限は、ただいまをもって全家族メンバーに付与されました
パチパチパチ……
沈黙を保っていた群衆の中から、どこか気まずく、心細い拍手が響いた
限界まで疲れ切っているせいか、誰もロボットに反応する余裕などなく、ジェロムの拍手だけが妙に目立ってしまった。周囲を見回し、彼はばつが悪そうに手を止める
これにて……
再び、陽気で場違いな音楽が鳴り響く。執事ロボットは冷え切った空気も気に留めず、群衆の中央へと滑り出る。迎賓係というより、高級ホテルのフロントマネージャーのようだ
「巣作り」シリーズタスク、第1段階完了です。これより、最も手に汗握るタスク――家族メンバーの部屋割りを開始いたします!
その言葉に、疲労で沈んでいた群衆の中から小さな歓声が上がる。互いに顔を見合わせながらも、皆の瞳には隠し切れない期待が宿っていた
それでは順番にお並びいただき、部屋割りの登録を行ってください
ようやく安心して過ごせる部屋が目の前に示されたことで、被災者たちはひとり、またひとりと腰を上げ、列を作り始めた
まずは、リュークさん
カードキーを受け取ると、長い年月が刻み込まれたリュークの顔に、綻ぶような笑みが咲いた
次は子供たちですね。お受け取りください
ジェロムが真っ先にカードキーをひったくると、他の子供たちがわっと押し寄せた。奪い合うように追いかけっこが始まり、そのまま廊下の向こうへと消えていく
カードキーが配られていくにつれ、被災者たちの顔には喜びが満ちていく。もう、隙間風の吹き込むテントで身を寄せ合う必要はない。ついに部屋と呼べる場所を手に入れたのだ
最後のひとりへの配布が終わると、執事ロボットはこちらの前へ滑り寄ってきた。それまで流れていた軽快な音楽が、急に緊張感のある旋律へと変わり、照明も数段落とされる
スポットライトが自分とカムイを照らす中、執事ロボットが機械の腕で、金色のカードを厳かに掲げた。カードにはピンク色のふわふわとしたキーホルダーがついている
「巣作り」シリーズタスクの第1段階における顕著な貢献を称え、生態園システムの評価により、家長のおふたりには「未命名部屋」が割り当てられました
主人による備考は以下です――ダーリンのメイン寝室{226|153|165}
「未命名部屋」という名前だけでも十分に引っかかるというのに、その備考だけでは到底納得がいかない
[player name]、部屋の名前については一旦置いておこう
カードキーはひとつしかないのか?
カムイは執事ロボットへ冷静に訊ねたが、その声色に僅かに滲む焦りが、彼の本心を物語っていた。握りしめているのがカードキーではなく、厄介な代物であるかのように
はい。VIPクラスの「未命名部屋」は最大で2名様までのご利用となります
別々の方が、[player name]も俺も十分に休めるんだけど……
[player name]のプライベートを確保するためにも、俺は一般クラスでいい。子供部屋にベッドが余ってるなら、そこでも……
執事ロボットのピンク色の単眼が、瞬間的に黄色の光を放ち、拒否を示す警告音が響いた
申請を拒否します。住居エリアは満室、収容能力はすでに限界に達しています
中核メンバーによる部屋変更または居住の申請を検知すると、システムは「家庭崩壊」の高リスク状態と判断します。この状態が継続された場合、家族関係の再評価が必要です
執事ロボットの体が、こちらへ向き直る。警告色へと変わった単眼は、そのままカムイを捉え続けていた
再評価が実施された場合、「認証」タスクの進捗がリセットされ、解放済みの権限が回収されます。併せて、貢献度の獲得にも制限が課されます
淡々と並べられる、あまりにも重い結果。それを聞いてもなお、カムイは眉を寄せたまま対策を考えているようだった
……タスク進捗のリセットは重すぎるな
[player name]、他に何か案はないか?
「感情の乱れ」を経て冷静かつ理性的だったカムイが、この件に関しては珍しく戸惑いを見せ、助けを求めるように視線を向けてきた
家族関係の円満を維持し、団結と愛に満ちた大家族を築くため、該当する部屋に割り当てられた2名の「中核メンバー」に求められるのは……
同·棲·で·す
最後の部屋割りを見守っていた人々の間から、思わずどっと笑い声が湧き起こる
カムイくん、そろそろ諦めたらどうだ?「円満な家庭」のためにもさ、ハハハ!
そうよ。[player name]さんは嫌がってないじゃない。意地張らないの
ピンク色のふわふわとしたキーホルダーが揺れるカードは、まだカムイの手にある。それまで冷静を保っていた彼の顔に、ついに気まずさが浮かんだ
……
仕方ないと言うように肩をすくめ、彼の手からカードキーを受け取る
黙り込んだカムイは、一瞬で損得を計算しているようだった。やがてこちらを見て、頑なに張り詰めていた顎のラインが、ついにふっと緩む
そして、小さく頷いた
わかった、そうしよう
安全確認完了。[player name]、入っていいぞ
カムイは警戒を怠らない衛兵のように、部屋の隅々まで徹底的に確認した。ようやく「入室許可」をもらい、部屋の中へと足を踏み入れる
年月の経過で多少荒れてはいるものの、調度品の配置からは、かつての丁寧な造りが感じ取れる。暖色の明かりに包まれた空間の中央に、異様に広いダブルベッドが佇んでいた
1日の疲れは抗えない重力のように、大きなベッドへと体を引き寄せる
一方で、カムイは見張りでもするかのように、背筋を伸ばしたまま立っている。その厳めしさは、柔らかく温かなこの部屋の空気とまるで嚙み合っていない
十分な休息を取ってもらうために、あんたの安全を確保する必要がある
カムイは、真面目な表情を崩さなかった
[player name]はベッドで休んでくれ。俺は床でいい
……わかった
逃げ道を完全に塞がれたカムイは、ベッドの端に身を横たえた。体は不自然なほどにまっすぐで、両手は腹の上に揃えられている。微動だにせず、まるで彫像のようだ
あんたの邪魔にならないといいんだけど
サイドランプの明かりを消そうと、手を伸ばす
その言葉を最後に、部屋は闇に包まれ、視界が完全に閉ざされた。何も見えないと、他の感覚がやけに研ぎ澄まされる
暗闇の中で、カムイの金色の双眸だけが開いたまま、行き場を失い彷徨っている
よほど疲れていたのか、自分はすぐに深い眠りへと落ちていった
……
――規則正しい呼吸音が、カムイの耳に届く。それでも彼は微動だにしなかった
……
やがて、ごろりと寝返りを打った振動が、柔らかなマットレスを通してカムイに伝わる
各機体データ、セルフチェック……全て正常?……じゃあ、どうしてだ?
排熱システムの出力が高すぎる……
闇夜の中、再び寝返りを打った相手の腕が、鉄板のように硬直したカムイの体に回された
今度は避けられず、カムイは勢いよくベッドから跳ね起きた。その拍子にサイドランプが倒れ、暗闇に突然、柔らかな明かりが灯る
……そういえば、生態園に侵蝕体が侵入してないか、巡回するのを忘れてた
みんなの安全に関わる。[player name]は先に休んでくれ。巡回が終わったら見張りをやっておく
カムイは少し掠れた声でそう言い残し、扉へと向かった。サイドランプの柔らかな光はそこまで届かず、彼の表情も感情も、全てが夜の闇へ溶け込んでいく
[player name]と、みんなの安全を最大限確保するためだから
そう言い終えると、カムイは部屋を後にした。ほどなくして、窓の外から焚き火の揺らめく光が立ちのぼる
昨日と同じように、カムイは焚き火を起こし、大剣を抱えながらその傍らに腰を下ろした。夜の冷たい空気を吸い込んでは、体の熱を逃そうとしている
なんで慌てて出てきたの?
背後から、幼さの中に少し渋みを帯びた声が聞こえた
誰だ!?
驚いたカムイは瞬時に警戒態勢へ移行し、鋭い反応とともに怒声を放つ。その勢いに、声をかけたジェロムの方が身をすくめてしまった
俺だよ、ジェロム!カムイ兄ちゃん、落ち着いて!
……ジェロムか。まだ寝てなかったのか?
その正体に気付くと、張り詰めていたカムイの表情は、温かな焚き火で溶かされるように穏やかなものへと変わった
あいつら、寝相が悪くてさ。歯ぎしりとか、いびきも酷くて全然眠れなくて。焚き火が見えたから、ちょっと気分転換に出てきたんだ
少年はカムイの向かいにあぐらをかいて座り、頬杖をつきながら、どこか思い詰めた様子のカムイをじっと見つめていた
カムイ兄ちゃんはなんでここに?何かあったの?
……いや、別に何も
波ひとつ立たない湖面のようなその表情に、ほんの僅かに波紋が広がる。向かいに座る少年は、その微細な変化を見逃さなかった
病気になってから、前よりビシッとはしてるけど……相変わらず嘘が下手だな。俺でもわかるもん
ベルニー兄ちゃんから聞いたよ。カムイ兄ちゃん、[player name]と同じ部屋になったんでしょ?それで、慌てて飛び出してきたってことは……
少年は興味津々といった様子で、彼なりに最も重要だと思う問いを投げかけた
喧嘩したんでしょ
してない。俺と[player name]の関係を勘ぐるな
しかし、説明をすればするほど、余計にややこしくなってしまう
別に勘ぐってるわけじゃないよ。喧嘩するほど仲がいいって言うし……俺はまだ子供だけど、だからこそ、あんたたちよりわかることもあるんだよ
で、何があったの?
少年はニヤニヤと、下世話な興味を隠そうともせずに笑っている
誤解だって。俺と[player name]は戦友で、それ以上でもそれ以下でも……
真剣な表情で弁明しようとするカムイだったが、彼自身でも整理しきれていない言葉が引っかかり、口が止まってしまった
あのさ、もう自分に嘘つくのやめたら?
本当にそう思ってるなら、出てこなくてもよかったじゃん。同じ部屋だったのがベルニー兄ちゃんだとしても、ここに来てた?
……それは、違う
カムイは、ずっと喉につかえていた答えを口にした。しかし、その答えを出した途端、別の戸惑いが生まれる。その答えが向けられる問いは、一体何なのだろうか
大丈夫だって
ジェロムは、わざとらしく大人ぶった表情を作ってみせた
父さんに言わせれば、カムイ兄ちゃんの反応は普通だと思う
本当の愛は、一瞬ためらうことなんだって。触れたいのに、思わず手を引っ込めるみたいな
[player name]を大事にしすぎなんだよ。だから、
多分、そんなこと考えてるんじゃない?相手が家族みたいに大事だからこそ、慎重になってるんだよ
先日のアシモフを真似るように、少年はカムイへ「診断」を下した
慎重に……
カムイは金色の瞳を伏せ、自身の手を見つめながら呟いた
その話も、両親から?
今の話は……
日記で読んだんだ。ずっと前にいなくなったから、ふたりのことは日記でしか知らないけど
……悪い
ジェロムは立ち上がり、服についた灰を払い落とした
いいって。確か、母さんの日記にも書いてあったよ。誰にでもこういう時はあるって。だから、そんなに慎重にならなくてもいいんじゃない?
ほんと、大人って面倒くさいよな。感情のことまで、俺みたいな子供に言われないとわからないとかさ。さて、ジイちゃんに見つかって怒られるのもイヤだし、もう寝るよ
見張り、頑張ってね
少年は軽い足取りで、居住エリアのホールへと戻っていく。その背中はすぐに廊下の曲がり角に吸い込まれ、見えなくなった
揺らめく焚き火の側に残されたのは、カムイただひとりだった
温かな火の光に照らされ、彼の金色の瞳に常に立ち込めていた霧のような「隔たり」に、ついに誰にも見えないほどの微かな亀裂が走る
本当の愛は、一瞬ためらうこと……触れたいのに、思わず手を引っ込めるような……
言葉はうわ言のように唇から零れ落ち、瞳の中で揺れる金色の炎に静かに溶け込んでいく。カムイは顔を上げ、執事ロボットが割り当てたふたりの部屋に視線を向けた――
解決できたっぽいけど……あんた、なんでここに?寝てたんじゃないの?
少年はこちらをじっと見てから、焚き火の側にいるカムイへと視線を移し、首を振った
はぁ……面倒な大人たちだな。おやすみ、[player name]
忍び足で自室へ戻るジェロムを見送り、静かに息を吐く。そして、焚き火の側で舟を漕ぎ始めている構造体のもとへ向かった
