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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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カムイ·暉力·その2

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鳴り響く放送、不気味な監視カメラ。生態園の異変は、見えない手のように、ようやく緩みかけた被災者たちの神経を再びきつく締め上げた

束の間の安寧は一瞬で引き裂かれ、不安が波となって押し寄せる。ひそひそとした囁きと荒い呼吸音が人々の間に広がり、恐怖は瞬く間に伝播していった

?????

よう……こそ……

明るくなったサービスカウンターの奥から出てきたのは、旧式の執事ロボットだった。単眼の電子レンズは不安定な青い光をちらつかせ、ノイズ混じりの合成音声を発している

新メンバーの皆様……フェリモント生態園へ……ようこそ……私は、ここの執事ロボット……皆様にサービスを……提供できることを……光栄に……

老朽化し、損傷した機械体から漏れ出る電子音は、壊れかけの古いラジオのように歪み、途切れ途切れだった。あまりにも異様なその光景に、被災者たちの背筋に冷たいものが走る

カムイは反射的に1歩前へ出て、こちらと背後にいる被災者たちを庇うように立った。金色の瞳には、これまでとはまるで違う鋭い警戒心を宿していた

[player name]、下がって。旧式モデルの家庭用ロボットだけど、武装してる可能性は否定できない

……それと、侵蝕されてる可能性も

「侵蝕」――その言葉は、熱した油に落ちた火花のように、被災者たちの間で一気に炸裂した。恐怖に押さえ込まれていた沈黙は瞬時に崩れ、悲鳴と混乱が人々の間で弾け飛ぶ

機械体だと!?どうしてこんなところに……侵蝕されてるんじゃないのか!?ここは安全だって、あんたたち言っただろ!

ほら見ろ!!だから空中庭園の偽善者ぶった大人は信用できないんだ!!

誰かの手がジェロムの口を塞ぐ。続いて年老いた声の一喝が飛び、騒乱は力尽くでねじ伏せられた

静かにしろ!皆、落ち着け!慌てるんじゃない!ジェロム、お前も余計なことを言うな!

そう叫びながら、リュークは背後の女性や子供を庇うように腕を広げた。その声は震えていたが、被災者のリーダーとして必死に秩序を保とうとしていた

ここは空中庭園が案内した場所だろ。さすがに、身内まで罠にかけるような真似はしないはずだ

議論の声は途切れることなく交錯し、不安が更に濃くなっていく。自分はカムイの肩を軽く叩き、まずは落ち着くように合図した

その言葉を聞き、ここから逃げようとしてカムイに阻まれた数人の被災者はためらいながら足を止め、視線をこちらへと向けた

カムイが腕で作っていた防御線を越え、彼の前に立つ。カムイは驚いたように、そして怪しむようにこちらを見た。ひそめられた眉が、賛同できないと雄弁に物語っている

[player name]、気をつけて。俺の援護範囲から離れないで

それでもカムイはこちらの行動を阻止せず、注意を促しながら静かに戦闘態勢をとった。歩調を合わせて動き、ともに謎の機械体へと慎重に近付いていく

肩を並べて立ち、正体不明の丸々とした機械体と向き合う。その背後では、被災者たちが我々ふたりに守られる子供のように身を寄せ合っていた

執事ロボットの単眼がこちらを順になぞる。やがてその視線は、並び立ち、被災者を守る自分たちに止まる。不安定に明滅していた青い光が、数回瞬いたあと――

ピンク色へと変わった

ピピッ――

スキャン完了、2名の顕著個体を確認。現在、守護行動を実行中。行動パターン判定……無私、勇敢、高度な協調性を有する……

身分確認完了。ようこそ、新たな家族の「中核メンバー」たち……

家族?中核メンバー?

カムイの冷静だった表情に、ついに僅かな亀裂が走った。困惑と疑念が、その裂け目から滲み出すように広がっていく

彼は隣に立つこちらを見た。声は依然として抑制されているが、明らかな困惑が混じっている

このロボットは故障してるのか?俺と[player name]は、上下関係にある戦友だ。「家族関係」とかでは――

しかし、執事ロボットはそう判断しなかった。ピンク色だった単眼が、否定を示す黄色へと変わる

いいえ、主人の残した判断基準によれば……無私に互いを守る行動は、家族のみに確認されます

「家族」……?

再びこちらを向いたカムイと、一瞬だけ視線が触れる。彼は避けるようにすぐ目を逸らし、背後の被災者たちへ視線を移した。その瞳には、再び澄み切った理性的な光が宿っている

[player name]、コイツをここに留めておくのは、安全上のリスクになると思うんだけど……

執事ロボットは、こちらのやり取りに意識を向けていなかった。故障していると思しき単眼が、激しいノイズを伴ったホログラム映像を投影し始める

これより、主人からのメッセージを再生いたします

映像は劣化しており、かろうじて判別できるのは、旧時代の研究員用の白衣を纏った女性の姿だけ。時の浸食によって容貌は定かではないが、その眼差しには深い慈愛が満ちている

外の世界がどれほど壊れ果ててしまっても、あなたは必ず帰ってきてくれると信じていたわ

たとえ今、あなたの目に映っているのが雑草に覆われ、人影ひとつない廃墟だとしても悲しまないで。そして、信じて――私たちはきっと、もう1度「家」を築けるって

願いと役目をひとつずつ果たしていけば、またこの地に生命と灯火を根づかせられるわ。かつて、ここを一歩一歩築き上げた、あの頃と同じように

――そこで、映像は突然途切れた。先ほどまでの情愛に満ちた声の余韻を断ち切るように、執事ロボットの無機質で抑揚のない電子音が続く

規定に基づき、「中核メンバー」が帰還した場合、メンバーは「認証」を受ける必要があります。行動によって貢献度を獲得し、それに応じて本生態園の各種権限が解放されます

こちらの疑問に対し、執事ロボットは明確な回答を返してきた

システムが定義する「家族のみが完遂できるタスク」を遂行してください。進捗に応じて権限を解放します。なお、基本タスクの完了までは最低限の生命維持機能のみ解放されます

「家族メンバー」が家を再建する意志を持ち、互いに支え合い、寄り添い続ける真心を示した時――フェリモント生態園は守り続けてきた全てを皆様に託します

カムイは表情を変えることなくひと通り聞き終えると、そのまま静かに考え込んだ

いきなりの問いかけに、カムイは僅かに反応が遅れた

え?ああ、そうだな……

この認証プログラムは冗長で、効率が悪い。それに、生命維持機能の権限解放が関わってるとなると……

合理的に考えれば、「家族」以外に対する防衛プロトコルが組み込まれてる可能性が高い。それは、ここにいる全員の安全にも関わる

その分析を聞きながら、再び考え込む

今ここで、執事ロボットを無力化することはできる。この「家族ごっこ」に付き合う必要はない

でも、生態園の完全な管理権限を奪取するには、[player name]の協力が必要だ

カムイと同時に振り返り、背後にいる疲弊しきった被災者たちへ目を向けた。まとまりなく集まった人々の間から、不安を孕んだ囁きが聞こえてくる

まさか、移動するのか?外はまだ豪雨だぞ

じゃあどうすればいいのよ?[player name]さんとカムイさんだって迷ってるわ。このロボットは危険かもしれないし、もうここにはいられないんじゃ……

もう物資も食料もないんだぞ?この天気で移動なんて、外には侵蝕体がいるかもしれないってのに……もう歩けねぇよ!

しっ!声が大きいわよ!

こちらの視線に気付いたのか、ひそひそと話していた人々は、更に声を潜めた

指揮官、他にいい解決策はないか?

その口調は穏やかで、冷静だった。目の前の状況は決して打つ手がないわけではない。それでもカムイは揺るぎない信頼の下、その判断をこちらに委ねている

被災者たちの目には未来への迷いと、現状への恐怖が浮かんでいた。正直、この天候での移動は現実的ではない

生態園の主要構造は堅牢で、天幕にも大きな損傷はない。しばらくは、この劣悪な状況をしのげるだろう。隅に設置された浄水循環システムも、まだ稼働できるように見える

ここがか?理想的な駐屯地とは思えないけど……

利点と欠点を天秤にかけているのか、カムイはしばらく沈黙した。やがて小さく頷き、手にしていた武器を収めた

熟考の末、判断を下した

……わかった。現状だと、これ以上にいい案はなさそうだし、あんたに協力して……

彼の冷静な表情に、どこかぎこちなく、形容しがたい感情が僅かに浮かぶ。どうやら、このタスクが少し気恥ずかしいようだ

どこか懐かしさを覚えるその反応を、自分は見逃さなかった

「家族ごっこ」のタスクを遂行する

合意を得て、ほっと息をつく。そして、不安と焦燥に沈んでいた被災者たちに目を向ける

先ほどまでのざわめきは沈黙に変わり、全員がこちらをじっと見つめていた。まるで、ひとつの決断を待っているかのように

ここを、ひとまず仮の住まいだと思おう。もう夜の雨の中を移動する必要はない

こちらの言葉を受け、老人が皆に最終的な決定を伝えた

人々はなお静まり返っていたが、数秒後、ひそひそとした声が上がり始める。それは次第に、不安と恐怖を押し流すように大きくなり、人々の瞳に再び光が宿っていった

それからタスクの詳細を確認したが、現実はそう甘くない。すでに日は落ちており、今日中に居住エリアを解放するのは難しい。今、最優先すべきは夜を越せるスペースの確保だ

それから数時間、カムイは忙しなく働き続けていた。瓦礫を片付け、害虫を駆除し、その動きは冷静で無駄がない。止まることのないコマのようだった

カムイの肩をポンと叩き、1本の電解液を手渡す

[player name]、ありがとう

礼儀正しく手を伸ばし、受け取る。だが、指先が触れ合った瞬間――

カムイはまたしても感電したかのように、びくりと手を引いた。勢い余ってボトルを落としかける

な、なんでもない……

ボトルを握り直したカムイの表情は、すぐ抑制されたものへと戻る。そして背を向け、再び作業に戻っていった

……さっきのは何だ?排熱システムの出力が、異常に高い……

夜は更け、外では雨が密に降り続き、厚い雲の奥で遠雷が低く響く。生態園の照明は自動的に落とされ、休憩スペースでは、静かに燃える焚き火がパチパチと音を立てている

ここは空中庭園の即応範囲外にある。そのため、日が暮れる前にカムイと話し合い、決めていた

この先数日間は、ふたりで交代しながら見張りを行い、被災者たちの安全を守ると

揺れる火の光が明滅しながら、物思いにふけるカムイの横顔を照らしていた

背後からの足音に気付いたのだろう。カムイは即座に振り返り、警戒の色を見せた。だが、相手が自分だとわかると、強張っていた肩の力がふっと抜けた

[player name]、まだ起きてたのか?交代の時間には、まだ早いけど

ふたり分の飲み物を手に、彼の隣へ腰を下ろす。カムイは一瞬ためらい、それからさりげなく体をずらし、比較的綺麗なスペースを空けてくれた

外周の警戒ラインは確認した。執事ロボットも今は正常な待機状態で、攻撃的な兆候は見られない。当面の脅威はないと思う

電解液のキャップを開け、カムイに差し出す。今度は、慌てることなく受け取った

機体機能に多少の損耗はあるけど、許容範囲だ。それよりも[player name]、「家族ごっこ」のタスクについてだけど……

カムイは、焚き火に照らされたこちらの横顔を見つめる。その口調は、あの無意識のためらいさえなければ、業務計画を確認するように真剣なものだった

今の俺の状態が、タスク進行に不利にならないか心配なんだ。「家族」を演じるには、何をすればいい?

カムイの視線をまっすぐに受け止める。焚き火の光を映した彼の瞳には、礼儀正しさとともに、微かな困惑が浮かんでいた

[player name]……正直、よくわからない

カムイを促し、周囲を見渡させる。そこには静かに眠る人々の姿があった。疲れていびきを立てている者もいる

[player name]の言いたいことは、つまり……

カムイは自身の胸に手を当て、静かに息を吐いた。その様子に動揺はなく、落ち着いている

家族、か……

行動パターンだけを見れば、今の状況はあのロボットが定義する「家族」の条件に合致してる。でも、まだその感情を理解することも、実感することもできない

それが原因で、みんなの足を引っ張らないといいんだけど

起きるかどうかもわからない事態を案じるその言葉は、あまりにも真摯だった

……早くそうなることを願うよ。その方が、これからのタスク遂行にも有利だし

カムイは立ち上がり、埃を軽く払ってから時刻を確認した

[player name]、交代の時間だけど……今日のあんたの疲労を考えると、このまま休んだ方がいい。今夜はこのまま俺が見張るよ

連日の疲労が、ついに抑えきれなくなったのだろう。意識海に渦巻く濃い倦怠感が影のようにまとわりつき、カムイの口から長い吐息が零れ落ちた

ふぅ……

……もし見張り中に何かあったら、すぐに起こしてくれ

揺れる焚き火が、カムイのシルエットを縁取る。彼は足音を忍ばせ、眠る被災者たちのもとへ向かった

ほどなくして、カムイの静かな寝息が聞こえてきた。穏やかな糸のように、皆の規則正しい呼吸の流れへ溶け込んでいく。完全に気を抜いたのだろう、相当無理をしていたはずだ

いまだ燃え切らない薪が、微かにパチパチと音を立てる。その静けさの中に、砂利が擦れるような小さな音が混じった

振り返らず、端末画面の淡い光を顔に受けたまま、声を潜めて言う

影の中から、あの少年が姿を現した。その顔には昼間と同じ頑なさと警戒心が張りついていた

チェッ、つまんないの。あんた、耳いいんだな

……違う、わざとじゃないよ

盗み聞きという行為に後ろめたさがあったのか、少年の声が一瞬弱々しくなった

あのさ、カムイ兄ちゃんって……何か病気だったりする?あと、あんたとカムイ兄ちゃんって、家族なの?

あんたがホログラムの人と話してるのを見たんだ。その人が言ってただろ、「感情の乱れ」がどうとかって。その時のあんたの顔が……

ああいう顔は、誰かが死ぬ時にしか見たことがない。リュークのジイちゃんとか、ベルニー兄ちゃんが同じ顔してた

それに……

少年は何か決定的な証拠を掴んだかのように、やけに真剣な表情で、必死に答えを導き出そうとしていた

カムイ兄ちゃん、前と全然違うんだ。俺たちを避難させる時も、ここまで連れてきてくれた時も、全部カムイ兄ちゃんが決めてたのに

でもあんたが来てからは違う。ずっと意見を待ってるし、あんたの言うことを気にしてる……それって、特別な関係なんじゃないの?

好奇心を抑えきれないのか、ジェロムはこちらの顔を覗き込み、核心を突く問いを投げてきた

あんたたち、家族なんだろ?

なんだそれ。大人の話って、いつも回りくどいんだよな

はぐらかされたのが不満だったのだろう。少年は口を尖らせ、ぶつぶつと文句を零した

リュークのジイちゃんと俺みたいに、一緒に暮らしてるんじゃないの?

一瞬考えた。空中庭園での任務は過密で、顔を合わせることすら少なく、「一緒に暮らす」と呼べる時間はなかった

でもさ、空中庭園ってデカい宇宙船だろ?それはナシ。俺が言ってるのはひとつの家でってこと!

ジェロムは両腕を広げ、身振り手振りで家の形を作ってみせた

ふぅん、そうなんだ……

そうだよ。リュークのジイちゃんとも、ベルニー兄ちゃんとも、血は繋がってないけど家族だ。今まで何度も色んな場所を移動してきたし……家族は一緒にいるもんだろ?

そう答えた瞬間、少年の表情が目に見えて曇った

移動の度にさ、色んな理由でみんなバラバラになっちゃうんだ。今回は運がよかったけど……移動を繰り返すうちに、最初は一緒だった人が、別の場所に回されたりもした

それから連絡も取れなくなって……それでもマシだよ。移動の途中で病気になって死んだ人もいたし、襲われて、はぐれて……そのまま行方不明になった人もいる

……なぁ

少年は間を置いてから、こちらを見上げた

もし、いつかカムイ兄ちゃんと二度と会えなくなっても平気?

俺も、家族と離れたくない

少年の視線が、背後で眠り続ける被災者たちへと向かう。その中でリュークが寝返りを打ち、体勢を変えた

ジイちゃんは、もう歳だし……体もあんまりよくない。今回襲われた時だって、諦めようとしてた

助かったのは、カムイ兄ちゃんのお陰なんだ。それなのに八つ当たりしてさ……反省してる

……

焚き火を挟んで向かい合っていた少年は、それきり口を閉ざした。寝息と雨音、そして薪が弾ける音だけが静寂を埋めていく

……

……それが本当ならいいんだけど

話、聞いてくれてありがとう

先に寝るよ、おやすみ

自分の言葉を、ジェロムはまだ手の届かない空想として受け取ったのだろう。これまで歩いてきた泥濘のような現実が、差し出された未来を素直に信じさせてくれなかったのだ

彼の望む「家」は、あまりにも遠い。ジェロムはその想いを夢の中に託した