……こんなことを言うのは自分のスタイルではないが、なぜか自然にその言葉が口をついて出ていた
あの尋問室から自分の魂が飛び出して、今、ケルベロスとともに立っているようだ
血液がたぎり、心臓も激しく鼓動している。心の中に狂気のような喜びを感じた
…………
ヴィラはちょっと驚きながらも即座に判断を下した
ノクティス、21号、とどめよ!
地獄の番犬に追い詰められたブードゥーはすでに袋の鼠、俎上の鯉だ。敗北する瞬間はもう目の前だった
……だが、いつだって予想外の出来事というものは起こりうる
Laguz——
聴覚を遮断ッ!!
意味ないよ
抗いようのない強い力のせいで、21号は後ろへ飛ばされ、それからノクティスも飛ばされた。皆は一瞬にしてバランスを崩し、武器を落とし、その場に倒れてしまう
うわっ――おいっ――
……ぐっ……!
――あのヴィラですら動けないでいる
倒れていたはずのロランは、何ごともなかったかのように微笑みながら立ち上がってみせた
素晴らしい……本当に素晴らしいよ
ロランは優雅な足取りでやってきて、かぶってもいない帽子を取る仕草をすると、月の下、お辞儀をしてみせた。公演を終わらせたマジシャンといった風情だ
レディースアンドジェントルマン――ショーはこれにて終わりです
場を温めてくれたうえに、面倒ごとも片づけてくれて感謝申し上げるよ。でも、チケットを買ってなかったゲストには……ささやかな罰を与えないと、ね
ロランはブードゥーを捕らえはしなかった。ケルベロスとの戦闘後のブードゥーにもう戦う気力がないのは明らかだ。彼は余裕たっぷりに惨めなブードゥーを見下ろしている
チケット代を出してくれる?お嬢さん
お嬢さん……!?まさか、女なのか?
ブードゥーが顔を上げると機械のマスクの下の顔が見えた
……フォン·ネガット様はお前に満足なさるだろう
彼はどこにいるの?
……もう少し経てば、わかること
謎かけは好きじゃないんだ
ロランは拳銃を取り出し、ブードゥーの割れたマスクに狙いを定めた。ふたりの話し声がぐっと低くなる
おい!何を話しているんだよ!コッチにも聞かせろよ!
ノクティスがもがきながら、大声を上げた
このブードゥーっての一体どっから来たんだ?一体どういうこった。ロラン、ロランさんよ、お前、魔法少女なのか?魔法を解いて俺と戦えって――
ノクティス、うるさい
いわゆる焚き付けってやつだ。わかんねぇのか?煽って敵の考えを撹乱して……
お黙り
ノクティスがもがいていると、ブードゥーがこちらを見た。彼女は舌を出して自分の機械アームを舐めると、翼の下から炎を噴出させて空へと羽ばたいた
やがて、彼女の姿は崖の向こうへと消えた
面白い……実に面白い……ハハハハハハハ
ロランは高笑いして銃を収め、こちらを見た。そして、とうにこちらが21号とリンク中なのを知っているぞと言わんばかりに、21号を見つめた。21号は体を固くして威嚇した
面白いな……指揮官、真相を知ったら、あなたがどんな顔をするか見たいもんだよ……
真相……?
遠くからヘリコプターの轟音が聞こえた。増援のようだ
じゃ、ここらで失礼するよ
ワンワンさんたち、じゃあね
ロランはそういうと身をくるりと翻し、谷から去っていった
……行った
はあ、また無駄足か
……ぷっ……
ヴィラはたまらず吹き出した。動きがとれないなかで彼女は呵々大笑している。その様子は失敗した時の反応にはまるで見えない
アハハハハ――
まさか、ヴィラの頭がおかし……いや、刺激が強すぎたのか?
ハハハッ……アハハハッ、首席の……実力……
あーバカバカしい、やっと笑えたわ、よくもそんな奇妙なセリフを堂々と言えたものね
首席の実力――クククッ……
アハハハハハ――
……ブハっ、ははははははッ!!俺、そこに全然気づかなかったぜ!
何が面白いの?
サンシチにはちょっとわからんさ
ヴィラはやっと笑うのをやめた。どうやら彼女は今回の失敗にまったく落ち込んでいないようだ
でも確かに見事な反撃だったわ、首席。私にとってもね
あなたは本当に、私をますます興奮させるわね……
ロランの罠の拘束が消えると、最初にヴィラが立ち上がった
ふん、ただの電磁拘束装置ね。ブードゥーと戦っていた時に、こっそり仕掛けてたんでしょうね
つまらない小細工だわ
おい、ヴィラ、助けてくれよ!
そのままでいなさいよ、使えないおバカさん。あなたがちゃんと見張ってないから、こんな罠を仕掛けられたのよ
それは21号のせいだろうが!
言い訳をするところがどうしようもなく低能ね
夜風に混じって振動音が聞こえた。自分の血が脈打つ音だろうか?……違う、エンジン音だ
ヴィラは自分の武器を拾い上げた。彼女の長い髪が風に吹かれ、夜露に濡れた。遠くから1機の輸送機が荘園を越え、こちらへ向かって飛んでくるのが見えた