輸送機が音を立てて目の前の空き地に停止した。真っ黒な制服を着た構造体たちがよくわからない武器を手に、ケルベロス小隊を取り囲んだ
21号とノクティスは警戒して緊張しているが、ヴィラはどこ吹く風だった。彼女は軽蔑したように黒野所属の構造体を一瞥した
君たちの任務はすでに終わった。速やかに武器をしまい、待機するように。ここからは我々が引き継ぐ
一切の質問を受け付けない冷たい声音だった
ヴィラは怒り心頭といった様子のノクティスをとどめ、相手に対抗するようにつんと顎を上げた
その口調、やめていただける?私たちはあなたがたの番犬じゃないの
相手は顔色ひとつ変えず、冷たい口調で話し続けた
更に、君たちの今回の作戦の詳細は高レベルの機密となる。その機密を万が一漏らせば……
黒野の退屈な言葉など聞く気もないようで、ヴィラは後ろの輸送機をちらりと見て目を細めると、何かを言おうとした
しかし――
ヴィラの表情が微妙に変化した。最初に浮かべていた嘲笑うような笑顔が、ただの冷笑に変わった
ええ、わかったわ
いつものヴィラじゃない。21号はそう感じたが黙っていた。ノクティスも何かを感じたようで、珍しく沈黙している。それは3人が暗黙の了解をした何よりの証左だった
次々と輸送機が着陸し、黒色の構造体と黒服のスタッフが続々と現れた。彼らはバリアリールを張り、除染エリアや痕跡実験室、仮設住宅を造営している
彼らはルナを捜索する任務の終了を宣言した。「ルナ探索」任務はもう放棄されたも同然で、スタッフたちはこの場所を隔離し、フォン·ネガットの探索を始めるのだろう
3人の構造体は黒野のスタッフに囲まれ、「新たな敵」に関する情報を要求された
21号は振り返り、後ろの荘園を見つめる
ここで起きたこと……
過ぎ去ったとしても、忘れはしない
ヴィラが任務報告をしている間、21号はひとりで木の側に佇んでいた
……もう行く?
うん
うん
少し離れた場所の輸送機から続々と黒服が降り、遠隔リンク用の信号強化装置を運んでいる。ヴィラとノクティスは隣にいる作業服姿の人間のスタッフと話している
そこから更に遠く、ルナがかつて暮らしていたあの荘園は、月に照らされて静謐に包まれていた
責任?私への責任があるの?
保証するよ。全てきっと解決するから
君の疑問には、後でできる限り答える
……21号、わかった
うん?
21号の返事は早かった。ずっと、こちらが話し出すのを待っていたのだろう
[player name]、まだ私の問題に答えてくれてない
白い髪の構造体は先に口を開き、単刀直入に聞いてきた。いつもの彼女通りだ
あの後、ふたりの女の子、どうなった?
ルナ!!
ルナ!戻って!
あなたを守る。あなたを守りたい――
その感情、わかんない。21号理解できない
でも……さっき、[player name]が頭の中にいた時、初めて……似たような気持ちになった
これは他人の気持ち?それとも21号の気持ち?わからない
……隊長
それとノクティス、死んだらつまらないから
でも私には、ずっと感情がない
真似ごとだけで、新しいものは作り出せない。21号の機体、もともと壊れてる
人間の……部分?
あの子たち、どうなったの?
21号は再びその質問をしてきた
彼女たちはあの危機から無事逃れ、もっと大きなパニシングの災厄からも生き延びた。運命がふたりを隔てたがどちらも生きている。それは、本当に21号が欲しい答えだろうか?
居場所……
21号は目を閉じ、意識海で荘園に戻ったふたりの女の子のことを想像した。想像ではふたりはパニシングのない、普通の生活を送っている
暖炉の火や木馬、花や女の子が好きな人形などが置いてある場所で
絨毯の上では猫があくびをしており、オルゴールから音楽が聞こえる。窓の外では小鳥がさえずり、春の到来を知らせている
21号の想像の中、女の子が日差しを浴びて、ベッドから起きた。それから、うーんとのびをしてから鏡へと歩いていく
鏡には自分が映っていた。真っ白な寝間着を着て、髪にはピンク色のリボンの髪留めがついている。スレーブユニットの形をしたぬいぐるみも持っている。それはもふもふで、まん丸だ
危険から身を守る術を何も持たないといった自分の顔は、まるで他人のようだった。でも21号はその想像の中では、危険なことは起きないと知っている
21号は笑顔を浮かべた。他の女の子のように、真っ白で無垢なデイジーのように
……
女の子皆がみな、デイジーのように笑うわけではないけれど
鏡に映る21号の姿が急に変わり、だぶだぶの入院着を着た格好になった。やせ細った体、真っ白な顔
……
21号は目を開き、全ては現実に戻った
……
21号おかしい。21号に、人間の匂いがない
21号にはもっと受容し、勉強し、自分自身を知る時間こそが必要かもしれない。たった1回の任務のみで、21号がこういった事象を完全に理解するのは難しいだろう
ヴィラが彼女なりのやり方で、自分の隊員の面倒をしっかり見るだろう
Video: 520版本结尾CG
リンクデータが収集されました。遠隔リンクが切断されます
もう行く?
視界がぼやけ、意識が引っ張られていく
[player name]……今度会ったら……
マインドビーコンが離れ、意識海の中の21号の顔が光に飲まれていく
ふと、記憶の奥底にしまいこんでいた光景がよみがえった
あの警戒する幼い獣のような、灰色の瞳
かつてすれ違ったことがある
迷境に入る前に、すでにそこには痕があったのだろうか?
……次会ったら、挨拶する
リンクから離脱すると、ヘッドマウントを取り外した。髪は汗でびしょ濡れになっている
顔を上げると、狭い部屋にいるのは自分だけだった。ガラスの向こうに立つ数人の人影は、まるで地獄の扉を守り、訪れる者の喉笛に食らいつく悪霊のようだ
足首を縛る鎖をガチャガチャと鳴らしながら立ち上がった
……
防爆ガラスの外にいるフル装備の構造体たちがこの自分の動きに反応し、武器を構えた
……
立っていると目眩に襲われた。長い航海や遠隔リンクをした時によく表れる症状だという。背中や治りかけの肋骨、それにこめかみと全身にも痛みを感じている
手足を伸ばしながら、もう一度この場所を見渡した
リンクする前とほとんど同じだ
……もういい、座るんだ
ひとりの構造体が前に出て、武器を向け、室内のスピーカーから低い声が聞こえた。その重そうな装備のせいで彼の足音も重く、地面から振動が伝わる
座って頬杖をつきながら、黒野に自分の処遇について訊こうと思ったが、顔すら見せてくれないアンドロイドのような者に……聞いたところで無駄だろう
短い「休憩」中に、頭が高速回転し始めた
黒野の今回の任務は「ルナの探索」ではなかった。この町は彼らが事前に選んだ場所であって自分が見た幻覚も、おそらく彼らの計画の一環だ
ルナの記憶を見る……
黒野はずっとそれを疑っており、自分をコントロールしようとしたのだろう
黒野はかなり自分について詳しく知っているようだ
指揮官と構造体のリンク時の意識海の記憶データを見ることができるなら、自分が知らない間にルナの記憶に「触れていた」ことを、黒野が知ってもおかしくはない
しかも自分は記憶のループ再生を自分ではコントロールできない状態だ……
いや……たとえ知らぬ間にあの昇格者の記憶と繋がっていたとしても、人間の頭から構造体の記憶データを抽出できるとは思えない
彼らの野心は驚くほど深い
今回の任務にはまだ多くの謎がある。ロランをあの場に誘導した昇格者……ケルベロス隊があの昇格者に出会ったのは偶然?ヴィラの行動からも、そう単純なことではなさそうだ
あの戦いのあと、ルナはあそこに行ったのか?では彼女と戦ったのは何者だろう?あの町に入ってから、自分の幻覚もよりはっきりとした。きっと、何か関係が――
頭の中に無数の疑問が渦巻いた。でも、いちばん重要な問題の答えはこれだった
とにかく疲れた
ルシア……リーフ、リー……
頬杖をついていた手がパタッと倒れた。一瞬、微かな風が吹いた感覚があった――密閉された空間でそれはありえない
その風はそのまま、ぶ厚い防爆ガラスも厚さ7cmの鉄板でできた部屋の壁もすり抜け、外へと逃れた
風は枯木や廃屋を越え、無数の白い十字架が立つ名も無き墓を過ぎる。隅で揺れる白いデイジーは、連れていって――そう風に訴えているかのようだが、無力な風は何もできない
風は上へと駆け上った。町は下に小さく、全ての過去は流れの中にある小さな埃のごとく、まるで広大な迷境の中にあるひとつの疵のようだ
3万フィートの上空で、町は点滅するシグナルへと変わった
……
世界政府任務作戦指揮センター
司令
なんだ?
秘匿チャンネル、メモリモジュール3-302Xを
見つかったのか?
見つかりました。命の危険はありませんが、強行突破は困難です
空中庭園の管轄エリア外……ふん、簡単だな
あちらは欲しい物を手に入れたと思っているだろうが、事実は逆だ――
こちらが欲しがっている物を、目の前に置いてくれたわけだ
ここまでだな
「あちら」の施設を急襲する理由にはまだ足りない
いかがしましょう?
この所在地で任務を偽造し、センターのIDからケルベロスのチャンネルに送れ
彼女ならわかる
つまり……
これ以上の質問は不要だ
……承知いたしました。さきほどの会話は、なかったことに
よろしい。「さきほどの会話」なんてものは存在しない