……むやみに走り回らないで……
……いつも勝手にどこかに行くから、心配するじゃない
森の小道に女の子たちの声が響いた。木々の間から差し込む、実際には存在しない日差しが頬を暖かく照らす。だが下半身は冷たい湖に浸かっているように寒い
早くおいでよ……
ふたりのぼんやりとした影は追いかけっこをしており、そのうちのひとりの影が振り返って、手招きした
手をつなごう
21号はすぐに追いかけたが、その影は小道の先に消え、声だけが聞こえる
21号のスピードは非常に速い。見え隠れするその影が進む方向を21号は正確にとらえ、まさに追い付こうとしている
幻が目の前に現れ……自分は夢の中にいるのかと錯覚し、全身の震えが止まらない。目の前の景色が明るくなったかと思うと、次の瞬間、また消える
ほろ苦い感情が湧き上がり、汗がリンクデバイスから頬を伝う。自分自身が空中庭園にいるのか黒野の監禁部屋にいるのか、それとも本当にこの場所にいるのかわからなくなった
こんなことを繰り返していると、自分を見失いそうになる。だが白い構造体は前進している。この全てが真実であることを力強く伝えてくれている
雲に隠れて辺りが暗くなった。空気と埃が舞い上がって吹き荒れる。まるで灰色の波のようだ
女の子の姿が消えた最後の場所を見回した時、21号は錆びた大きな鉄の扉の前に立っていることに気づいた
吹きすさぶ夜風のなか、頭上に不気味な光が現れ、巨大な鉄柵に囲まれた小屋のような影が21号を覆った
怪しげな光の正体、それは満月の光だった。月の光が屋根やぐねぐねとうねる壁の傷、散乱した瓦礫を照らしだしていた