Story Reader / 外伝シナリオ / EX05 迷境ノ疵 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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EX05-7 森の家

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ドアロックの外れる音とともに扉がゆっくり開いた

視界が歪み、目の前に夢のような景色が表れた

綺麗に片づいたリビングには窓からの日差しが明るく差し込み、パンの焼けるいい匂いが充満している。小さな埃が日光に照らされて、キラキラと舞っている

奥の部屋からは女の子たちの声が聞こえ、全てが静かで美しいひと時だった

目の前の光景に脳が追いつかない。しかしこれは自分の身に起こった本物の記憶であるとはっきり感じ取っていた

自分と完全にリンクしている21号にもその感覚が伝わった。彼女は呼吸を止め、意識海に湧き上がる感情に焦燥と困惑を感じている

そして彼女は無意識にリビングに足を踏み入れた

——

彼女が敷居を跨いだ瞬間、全てが消えた

日差しもリビングも、女の子の声も消えた。目の前にはぼろぼろの……残骸だけがあった

21号はリビングを見渡した

さっきのは、何?

いい匂い。たくさん匂いがした。暖かかった

室内を見回す21号の目に、テーブルの上に立てかけられた写真立てが見えた

時間の経過で木製のフレームはボロボロになりガラスもひび割れている。その黄ばんだ写真を見た。知っている。長い歳月を経てなお、ここに映っている人たちを知っている

自分は他の意識海で彼女たちを見たことがあるのだ

多くの推測が頭の中をめちゃくちゃに飛び交うなか、なんとかひとつの答えを見つけようとしたが、できなかった

記憶……これはルナの記憶

それがただひとつの答えだった

ルナの記憶が、自分の頭の中に――

華胥?

ファウンスの槍システムを通じ、指揮官リンクに侵入します。反転コントロール、起動しました

ここはかつて昇格ネットワークと最も近かった場所。あなたのような人間の意識が存在していい場所ではないわ

「記憶の再生」の間、お前は記憶の渦に引っ張り込まれる。情報が多すぎて体の制御はそっちのけになり、周りで起きていることも感知できなくなる

簡単に言うと、お前は突然、予兆もなく断続的かつ混乱した記憶の中に陥いるようになっちまったんだ

お前に……忘れられた……あるいは気づかなかった……お前が……重要だと思わなかった過去……

お前が忘れた……重要じゃない過去――

狂気、憎しみ、破壊欲……集噛体による意識汚染――この時に、頭に流れ込む――ルナの思念

大量の記憶の断片が、お前の意識上で繰り返される

「繰り返される」

「繰り返される。繰り返される。繰り返される。繰り返される。繰り返される。繰り返される。」

「繰り返される繰り返される繰り返される繰り返されるくくくククリリリリリリリリカカカカカカエエエササササレレレレルルルルルルルル」

これは昇格ネットワークの意志……

私の運命

脳内にいくつもの顔が高速で現れ、狂ったように混ざり合い、切り替わり、迫ってきた。そして彼らは理解できない言葉を話している

決壊したダムのように多くの声と映像が頭に流れ込んだ。記憶の洪水に流され、黒い死の海に漂うようだ。手を伸ばし助けを求めようとしても、触れるのは空気だけだった

ルナ……

辺りが暗闇に侵蝕され、空中に収縮してゆく一点の光だけが見える

お……お姉ちゃん……

痛みのせいで意識が強引に現実に戻された。目の前にいるのは集噛体でも、瀕死のルナでも、ルシアやアシモフでもない

ガラスに映る灰色の瞳だけが見える

……あなた、狂った。混乱して、私、気持ち悪い

21号は手に持っていたガラスの破片を捨て、地面にたまった循環液を拭き取った。ガラスに映る彼女の瞳も見えなくなった

その時にやっと状況を理解した。21号がガラスの破片で自分自身を刺したのだ。彼女の袖から、循環液がポタポタと滴っている

痛みで、あなた目覚めた

ごめん?

なぜ今、この言葉を言われたのかがわからず彼女はその単語を繰り返した

21号は首を振った。彼女の傷口は見えないが、循環液が流れ出すスピードからもかなり損傷がひどいようだ。だが彼女はその痛みを感じないかのように、冷静を保っている

21号、戦闘に影響はない

写真の人、知ってる?

彼女たち、あなたをここに、来させた?

次、何をする?

特殊な手がかりを見つけたのでしょう?任務座標からは離れた場所で、しばらく留まっていたのが見えました

トラブルを解決してから手がかりを発見した場所へ彼らを導き、探索を続けてください

黒野が曖昧な態度だった原因が今になってやっとわかった。彼らが言う「手がかり」は意識海の異常波動でも、第三者が残した痕跡でもなかった

目の前の全てのもの――現在と過去が交互に明滅する

ここはルナがまだ人間だった時、そしてパニシングがまだこの星に広がっていなかった時に暮らしていた場所なのだ

これは任務?

21号、わかった。[player name]の任務

……うん

胸の人工心臓の鼓動が、数千km離れた空中庭園にいる自分の鼓動と、不思議にシンクロしていた