Story Reader / 外伝シナリオ / EX04 響鳴のアリア / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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EX04-11 レクイエム

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あの青い惑星を見つめるたびに、彼女は不思議な感情を抱く

あの地球という青色の惑星は、人類を育むゆりかごだとか

ただ彼女にはそこが自分のルーツだという実感があまりない

生まれた時から雲の上、星くずの海にいるのだから

地球に住んでいた両親は、よく人類の過去の栄光を語っていた

人類が無知で愚かな時代だったと彼らは言った

だが人類が勇気に満ちていた時代でもあったと

人類が宇宙の全てに対して憧れていた時代だったと

その言葉の真の意味は理解できなかったが、人々が心の中に抱く真摯な気持ちは理解できた

誇り、愛着……そしてかすかな痛み

細く、悲しく、彼女の心を刺してくる

次第に彼女は地球に憧れを抱き始めた

その美しい青色の惑星は見る人全てを魅了する

空中庭園の眺望フィルターを通して静かに眺めているだけで、心の奥底の一番柔らかな部分が慰められるようだ

脚本に書かれている嵐は、空中庭園ではなく地球にある

脚本に書かれている虹は、空中庭園ではなく地球にある

かつての人類は、なぜあれほど切に重力の束縛から解放されたいと願ったのだろう?

――彼女には疑問だった

空中庭園で花を見ることはほとんどない。貴重な資源を観賞用の花に無駄使いはできない。あの夢か幻のようなものは、画集や脚本の中にしか存在しなかった

もし、叶うのならば――

彼女は、地平線から昇る太陽を自分のその目で見てみたかった

夜空にまたたく満天の星くずを見てみたかった

雨が地に落ち、やがて川となるのを見てみたかった

雪が舞い、大地が銀色に染め上げるのを見てみたかった

巡る四季、月の満ち欠け、春の嵐、そして冬の風が渡る音

実り豊かな畑、羊の群れが歩く草原

干し草に覆われた牧場、立金花が揺れる川の土手

エニシダの森、繁るブドウ園、荒涼とした海辺

脚本の中の景色は、本当に存在するのだろうか……

彼女はなんとしても自分の目で見てみたいと思っていた

……

……

……

どれほど時間が経過したのか、彼女はもうわからなかった

一瞬のようで、永遠のようだった

――【セレーナ】

その名前が聞こえた瞬間、胸を圧迫していた痛みが急に止まった

目を開けた瞬間、彼女はこれまでの出来事を全て思い出した

最初の約束は、今や悪夢となっていた

守りたいと思っていたものが、いまやその罪の源となった

最初は仲間の遺志を受け継ごうとしただけなのに

なんでこんなことになったのだろう

だが今は――やるべきことがあった

見知らぬ、でもどこか懐かしさを覚える人間が残した黒い針をつかみ、力いっぱい自分の動力源に刺し込む

これで、全てを終わらせよう

顔を上げると、大きな空には一筋の光

その時、ようやく彼女は全ての苦しみから逃れられたのだった

地上から空を見上げるって、こんな感じなんだ――

その痛みや恐れ、憎しみを忘れるほどの美しさ

空から降り注ぐ光を浴びて、全てが焼き尽くされるのを感じる

全てが消える前に、混乱して崩壊しかけている意識海に、黄金時代のある詩が浮かんできた――

一粒の砂に世界を見て

一輪の花に天国を見る

手の平に無限を捉え

ひと時に永遠を見る

残骸が、焼け焦げた大地に静かに横たわっている

赤潮の残りがまるでうじ虫のように、再び彼女を目指してにじり寄る

一部の赤潮がなんとか残骸にしがみついて、再び異重合凝縮をし始め、またもや異形の生物を作り出そうとしている

――片足で赤潮を踏みつけた

命を奪う赤潮は、彼女の足下で本物の水に変化した

彼女は立ち止まり、視線を落としてボロボロの残骸を見た。その様子はまるで、岩の隙間に懸命に咲く小さな花を眺めているかのようだった

???

もしも……

柔らかな声は風に乗って消えていく

答えが出たというように、彼女は身をかがめて、残骸の胸部の青い光に手を近づけた

セレーナ

……

ボロボロの躯体が激しく震えた

すると、その躯体にとりついていたパニシング異重合物はまるで命令を受けたように、野蛮な成長を止めて赤色の流水へと変わった。そしてセレーナの体からゆっくりと消えていく

セレーナ

……

彼女は指を上げ、再生された少女の機体の髪を整えようとしたが、結局その手をひっこめた。そして少女に触れようとはしなかった

異重合コアの破片は彼女の手の上で、塵となって消えていく

やがて彼女は振り返ることなく立ち去った