……ううっ……はぁ
不意打ちを受け、白いハヤブサは全身から不吉な雰囲気を醸す黒色の怪物に吹き飛ばされてしまった
しかしそれと同時に、バンジの最後の弾丸が怪物の青色の光を放つ胸に的中していた
鋭い破裂音が聞こえ、異合生物の胸が蜘蛛の巣のようにひび割れた
黒い異合生物は鏡のように割れて、裂け目から塊が剥がれ落ちていく
その中から現れたのは――ボロボロになった構造体だった
それは見覚えがある姿だった……いつか、どこかで……あの残骸のような姿を見たことがある気がした
いつも気だるそうなバンジもこの時ばかりは目を見開いて、湖上の異合生物を見つめている
……
なるほど……そういうことか……
あれは国際宇宙ステーションで行方不明になっていた構造体だ……昇格者に利用されたらしい
皮肉だな……
……偵察小隊の情報室でデータをなんとなく眺めてた時に記憶に残ってたんだ。まさかこんなところで再会するとはね……
情報を発見したら、その情報をまとめて報告するのが偵察隊員の使命だ
前回の昇格者に対しては作戦前に、全ての偵察小隊隊員が昇格者の情報を頭に叩き込んでいた
ガブリエルと呼ばれる昇格者が国際宇宙ステーションから空中庭園の構造体を持ち出したことは、全ての偵察隊員にとって既知の事実だけど
なぜそんなことをしたのか、そんな必要があったのか、ずっと謎だった
このためだったのか……
ここにもうひとつの異重合コアの破片があったことにも驚きだ
巨大な異合生物は重傷を負ったことで動けなくなり、岸辺に膝をついている。大量のパニシングが空気中で異重合体として結集し、その外殻を修復し始めた
バンジ、万事休す、ってね
この敵は倒せないよ。もう少し時間を稼ぐから早く逃げて
……
……待って、何をしてる?
そのエリアポイントで何をするつもりだ?
認証しました
ポイント起動
周りを見渡したが、高い位置に立っているため、かろうじてパニシングに侵蝕されずに済んでいる
ここ以外はどこも赤潮だらけだ。前方には虎視眈々とこちらを狙う異合生物がおり、空中庭園が信号を受信するためのポイントを安全に設置できる場所はもはやここしかない
それを寄越して
戻ってくれ。僕が君を連れ出したんだから……君は無傷で帰さないと
……僕がバカだった
大量の異合生物があふれているような場所で、ただの人間が構造体の護衛なしで脱出できるはずがなかった
まったく……なんで地上に来るといつも厄介なことばかりするんだ?
見ず知らずのやつらのために命をかけるなんて、君はとんだお人好しだよ
湖の中央にいた異合生物は危機を察したようだ
咆哮しながらもがき続け、ボロボロの体を引きずってこちらに突進してくる
もう避けられない……
死に直面し、体内に大量のアドレナリンが分泌されている
目の前にはこれまで出会った人たちの顔が浮かんだ
あの時に答えられなかった質問も、今なら全部答えられる
例えば……
あの惑星をどう思う?
――赤道半径は6378.137kmで、西から東に自転し、太陽の周りを公転し、太陽系の内側から数えて3番目の惑星
わしらにはもう何もない。この大地に対する愛は、わしらにとって生きる最後の支えなんだ
最後の望みは、この土地に抱かれ、ともに永遠に眠ることなんじゃよ
ここにいれば、過去の思い出に浸ることができ、亡き友人たちの墓を眺められる
ここで生まれたんだから、ここで死ぬことを選ぶよ
――重力という名の愛で全人類を拘束し、離れることを決して許さない故郷
地上に残された人たちは、なぜ空中庭園に来れなかったのか?
残されたあと、どうやって生きていたのか?
地上に残された人たちは、私たちのことをどう思っているのか?
偽善もいい加減にしろよ。俺たちのためにやっているとでも?それとも人間の皮をかぶった家畜の群れが、目の前で焼かれるのを見たくないだけか?
あんたらの良心とやらには、その行動と同じく反吐が出るぜ
ここから避難させれば、あんたたちの良心は満たされるかもしれんが、俺たちの人生がよりよくなるなんてことはないんだ
今さら私たちを世界政府の民だというの?ちゃんちゃらおかしいわ
グレート·エスケープの時、私たちに何をしたか、忘れたの?!
あんたたちは私たちに銃を突きつけて、エデンの入口に近づけないようにしたじゃないの!
あんたらは私たちをゴミでも捨てるかのように残して行った。なのに今度は救うだなんて、冗談じゃないわよ!!
出ていけッ!
とっとと消えてッ!あんたらの偽物の憐れみなんて必要ない!
君らの目に、弱さと臆病さが見えたんでな
このままではことが起きたら、全てを自分たちが無能だったからだと、大きな罪悪感を抱えて生きていくことになるだろう
だから言っておいてやろうと思ってな――そんな必要はないんじゃよ
罪悪感を感じる必要はない
わしらは自分たちの道を選び、君らも自分たちの使命を全うした
ただそれだけのこと。これで十分なんだ
いつか地上の仲間と会えたら、お互いの見た奇跡を語り合い、一緒に歌を歌うの
それ以上にロマンチックなことなんて、ないと思わない?
そう、それよりもロマンチックなことなんてないだろう
時間も空間も乗り越えて、心の底で声が聞こえた。そしてあの名も知らぬ少女の質問に答えていた
まだお互いが見た奇跡を語り合う前なのに、ともに歌っていないのに
こんな憎しみと悲劇の結末で幕が下りるのは、あまりにも無念だ
だから少なくとも――最後にこのポイントだけは守りたい
そう思いながら腕の中の黒く長い針を強く抱えた
ぐっ……
機体の壊れる音がした
目を開けるとそこには、自分の前に立ちはだかるバンジの姿が見えた
異合生物の鋭い爪がバンジの右腕に突き刺さり、大量の循環液が噴き出ている
気にしなくていい……構造体はそんなに脆くないよ
君が怪我をしたら、君の隊員とクロム隊長にこっぴどく怒られるし
でも今はそんなことを言っている場合じゃなさそうだ
強烈な無力感と恐怖感で足に力が入らない
呆然としながら、盗み見るように怪物の胸に埋もれたままの壊れた人形のような彼女の姿を見た
彼女の両目は虚ろで何も映しておらず、最初に見た時と同じく、剥き出しの胸部は異様に明るく、不思議な青い光を放っている
異合生物の胸はすぐそこに、手が届く距離にあった
先ほどまでは遠くぼんやりとしか見えなかった少女の残骸は、今でははっきりと視認できた
彼女の顔をはっきり見た瞬間に、少し混乱した
この状態で彼女は生きているのか?
なぜそんなに苦しそうな表情をしているのか?
傍らのバンジも苦しみながら耐えている。どう見ても考えごとをするような状況じゃない中で、また記憶のループに引き込まれてしまった
閉鎖された宇宙ステーションの中、自分とグレイレイヴンの3人はその宇宙ステーションの中央に立っている
あのう……グレイレイヴンの皆さんですか?
あなたは……
ちょ、ちょっと……アイラさんですか?
ええ、第2考古小隊隊員のアイラよ
……なぜ彼女がこんなところに?
リーフ、リー……お知り合いですか?
……空中庭園中で話題の若手芸術家です。マーレイが……よく個展に行っていました
わ、私も、アイラさんの作品が大好きです……
……
私もあなたたちのことは知っているわ!特に……
……っと、おしゃべりは後にしましょう。大事なことを伝えるわね?
私は【——】という構造体を救助するために来たの
とても大切な、私の友人よ
昇格者の拠点でのグレイレイヴンの勇ましい功績は、執行部隊を通して広まっている。空中庭園にいる私の耳にも届いたわ
もし、あなたが昇格者と直接接触したのなら、もしかして、私と宇宙ステーションで交戦した昇格者にも会ったの?
いや、それは重要ではないわね。私が唯一気になっているのは、その拠点で彼女の痕跡を見つけたかどうか……
宇宙ステーションで彼女に会ったはずよ
彼女は私の大切な親友なの
彼女の名は……
異合生物の刃はなおもバンジの肩に刺さっており、バンジはそれを相手に抜かれないよう懸命に押さえつけている
その瞬間、考えるより早く体が動いた
バラバラに分散していた記憶の断片がようやくつながった
宇宙ステーションで彼女に会ったはずよ
彼女は私の大切な親友なの
彼女の名は……
セ……
その刹那、記憶の中のアイラの声と自分の声が重なった
その名前を読んだ瞬間に、異合生物の動きが止まった
続いて、その喉から激しく悲痛な叫び声がほとばしった
同時に胸に埋もれていた少女はかすかに動き出している
虚ろだった目には光が宿っていた
異合生物の外殻を修復するために異重合凝縮を続けていたパニシングの速度も落ちたようだ
閃くように――悲しげなクジラの歌声も、彼女を縛りつけている鉄の棘も、全てはセレーナの孤独な戦いの象徴だったことを瞬時に理解できた
彼女は唇を動かしていたが、発声モジュールが完全に壊れたのか、何も聞こえない。セレーナは必死に異合生物の胸から、その傷だらけの手を伸ばしている
そこに言葉は必要なく、目があった瞬間、ふたりは自分たちの状況と立場を理解した
あとは、それぞれの最後の使命を全うするのみだ
グレイレイヴン!グレイレイヴン、聞こえるか?緊急事態が発生した
ストライクホークの眠り鳥め、ようやく真面目になった
――何をそんなに慌てているんです?
君たちの指揮官が――
指揮官?
指揮官が何だ?!
いや、指揮官は無事だ。落ち着いてくれよ。防御装置は限界を超えてるけど、血清はまだ十分にある
……取り乱して失礼。ハンス総司令官が先ほど最後のエリアポイントを起動し、空中庭園が軌道変更して砲撃準備に入りました。あなたは指揮官を連れ帰る途中ですね?
そう、まさに君たちの指揮官を連れて虎の穴から逃げ出したところさ
虎の穴とは?何があったんです?
……
バンジは一瞬沈黙して、やがて話し出した
わからない、でもあれは赤潮の源流だと僕は思う
そう判断した理由を伺いましょうか
周囲のパニシング濃度が異常に高いこと、強い自己保護意識、そして周辺のパニシング異合生物の行動パターン……
まるで地球の生態系における、蜂の巣のようだった
言葉で説明するのは難しい。具体的な測量データと統計データを今から送るよ
データを受信しました……これも異合生物なのか?
リーは送られてきた画像を見て、眉をひそめた
確かにあなたの言う通りですね。あなたは戦闘中でもデータを集めていたのですか?
僕は狙撃手だし、戦場を観察してデータを常に収集するよ
それで一体何をしたんです?赤潮の源流を見つけました、狼狽して逃げていますと僕に知らせてきたんですか?
僕が何かをしたんじゃない。君たちの指揮官がしたんだよ
君たちの指揮官がその異合生物の体に――最後のエリアポイントを設置したんだ
敵の体にエリアポイントを設置したって!?
空中庭園はすでに座標を設定し、こちらの上空に向かって砲撃準備に入っている。そして4つ目のエリアポイントも起動された。まだ挽回できる
僕の考えてること、わかるよね
リーは慎重に頷いた
わかりました。あなたと指揮官の状況はどうですか?
僕?問題だらけだよ。意識海も安定してるし、侵蝕度も限界値以下に抑えられている。ひたすら眠いんだけどね
一応注意しておきましょう、もし今寝たら二度と起きることはないでしょうね
ええと……冗談だよ
全然笑えません。そういうのは指揮官を安全に連れ帰ってから言ってください
ラジャー
……まだ問題なく指揮官の援護はできますか?
うん……ひとりの人間を守るくらいは余裕で
わかりました。戻ったらすぐにあなたもメンテナンスできるよう手配しておきます
それと……指揮官を守ってくれてありがとうございます
お礼を言うなら指揮官にね。先ほどのデータを見たらわかるよね?
君たちの指揮官が命がけで一挙両得のチャンスを手にいれたんだから
空中庭園の宇宙からの広範囲砲撃を一点集中砲撃に変えるように総司令官を説得できれば、全てが解決するんだ
それは君らの任務だよ。指揮官の努力を無駄にするなよ
承知しています
リーフ、緊急事態です。あなたの演算能力でこれと同じモデルを構築してもらわなければ
ハンス総司令官
グレイレイヴンの、今度は何だ?
空中庭園はまもなく我々の直上軌道に到着する。30分以内に撤退命令が出るだろう
たった今、指揮官から現在キャンプに戻る最中だと連絡がありました
今は脱走兵の情報など不要だ。だが君らの指揮官にこれ以上愚かなことをさせぬように。今ここに戻れば砲撃にさらされる。[player name]には側面方向に走れと伝えろ
指揮官は何をすべきかおわかりです。それが僕たちも今、ここにいる理由です
指揮官は作戦中に大型の異合生物と遭遇しました。同行していたストライクホークの隊員が戦闘中に大量のデータを入手しています
そのデータを基に、我が隊員のリーフが赤潮に関する複数のモデルを作成しました
……続けろ
リーが端末を操作すると、ハンスの前にデータが投影された
こちらはストライクホークのバンジ隊員が赤潮の源流を偵察した際に調査したものを整理した、パニシングの分布図です
ご覧のように、赤潮のパニシング濃度は最奥部に行くほど高くなり、この地点で……ピークに達しています
リーはバンジから送られてきた最後の画像を見せた。ホログラフのリモートセンシング画像の中央には、真紅の赤潮で形成された湖が映っていた
そこには、あの不気味な黒い異合生物も映っている
それを一瞥すると、ハンスは頷いた
もういい、画像を閉じてくれ
リーは頷き、リモートセンシング画像をデータ図に切り替えた
そして、こちらは赤潮の流速データです
濃度の中心エリアは同時に流速分布図の中央エリアです。赤潮はここで流れを加速して周囲に広がる。まるで……血液を全身に送り込む心臓のようです
最後に、こちらが中心エリアの異合生物の行動パターンの統計モデルです。この黒い異合生物が声のような音を出すと、それに従い赤潮が広がるというパターンが確認されました
君の結論は
赤潮には発生源が存在します。そしてこの黒い異合生物こそが赤潮を蔓延させた張本人です
この異合生物を消滅さえすれば、赤潮の栓を閉じたようなものです。全てが解決すると思われます
我々の指揮官は直感的に最善の手段を取ったようです――つまり、最後となるエリアポイントをこの大型異合生物の体に設置したんです
空中庭園がまもなくこの地の直上に到着しますが、宇宙攻撃計画の変更を提案します。火力を集中し、指揮官が設置したこのエリアポイントを重点的に砲撃していただきたいのです
これで赤潮を殲滅できるという確証は?
リーの声はややトーンダウンした
確証と言われればありません……しかし総司令、あなたは高い権限をお持ちです。我々が知りえない、赤潮に対する首席技術者の推測もよくご存じなのではありませんか
――これは要は異重合コアの残留物です。ですが宇宙ステーションでの異重合コアとの戦闘記録を見ると、宇宙からの砲撃ではその存在を完全には破壊できない
僕がご覧に入れたのは客観的な事実と数字だけです。宇宙からの広範囲攻撃は最初から完璧な計画ではありませんでした
空中庭園の発射効率、地球の大気の厚さ、気体による散乱率、赤潮の面積及びパニシングの活性化などの要素をあわせて考慮すると――
――宇宙武器の威力は強いですが、それをエリアに分散させると、各エリアの面積上のレーザーエネルギーが急激に低くなります。それでは赤潮殲滅の保証は難しい
ですが一点集中砲撃ならレイピアで心臓をひと刺しするように動きを止められる。心臓が止まればあとは、死体を片づければいいだけです
……
……
ご自身が仰っていたことです、総司令官、今は迷う時ではありません
時間がありません。総司令官、どうかご英断を
ハンスはつと頭を逸らした
空中庭園に繋いでくれ
作戦指揮局、ハセン議長を
お繋ぎしました、ハンス総司令官
地上の状況はどうだ、ハンス?
状況が変わりました。グレイレイヴンの指揮官が独断専行し、我々が075号都市の地下で見つけた巨大異合生物と同種の生物を発見したようです
彼が送ってきたデータによると、この異合生物の性質も集噛体に近いと思われます
パニシングのエネルギー流動量から、この異合生物が赤潮現象の原因である可能性が極めて高いと判断しました
グレイレイヴン指揮官は最後のエリアポイントをこの異合生物の体に設置しました。広範囲の攻撃を一点集中に変更、赤潮殲滅のため全火力を同異合生物に向けるよう提案します
ハセン議長が答える前にニコラが遮る
……ハンス、君の行動は現地総司令としての権限を超えているぞ
作戦内容を考えるのは空中庭園だ。君の任務ではない
君は計画に基づいて任務を遂行さえすればいいんだ
承知しております、ニコラ司令
広範囲砲撃は科学理事会が熟慮のうえで出した最適な攻撃だ。確かにこの攻撃で完全に赤潮を殲滅できる保証はない。だが、これが最も安全な戦術なんだ
しかしながら議長。科学理事会が本計画を立案した時には、まだ先ほどのデータがなかったはず
現在集めうる最新のデータに基づき、合理的かつ臨機応変に対処すべきかと
戦場における一切は変化し続けるため、予測は不可能です。私はただ最新の情報に基づき最適と思われる提案を申し上げるまで
他の意図はないんだな?
……
データを全て転送してくれ。すぐにアシモフに見せる
アシモフにつないでくれ
お繋ぎしました、議長
アシモフ、地上部隊から送られてきた最新のデータだ。意見を聞かせて欲しい
眠そうな表情のアシモフがモニターに現れた。彼は目を細めながらちらりとデータを見て、一瞬で眠気が吹っ飛んだように表情を変えた
ハハッ、面白い。実に面白いな……こうなってみると、第4のエリアポイントの座標が重要だ
君もそう思うか。地上からも広範囲砲撃を一点集中砲撃に変えて、第4エリアポイントを重点的に狙うようにと提案があった
実際、その判断は送られてきたモデルに基づいたもので極めて合理的だな
集噛体の体内にあった異重合コアの破片、あれが赤潮の発生源だろうということは、俺も推測していた
ただ、集噛体は消えたのに、なぜ赤潮に依然として蔓延するためのエネルギー源があるのか……それが理解できなかったんだ
新しい動力源があったとはな……
まったく面白い……このデータは……
アシモフ、悪いが今は研究に没頭できる状況じゃない
ああ、すまなかった、議長
作戦の変更は可能だと思うか?
客観的に言うと、俺たちは赤潮のことをあまりにも知らなすぎる。広範囲だろうが集中砲撃だろうが、結局はギャンブルだ
広範囲砲撃はしょせん俺たちが演算した最も安全な計画のひとつにすぎない
ギャンブルか……わかった
よくお考えください。一歩間違えば取り返しがつかなくなります
議長ご自身のことではなく、地球全体が、ですぞ
どちらもギャンブルならば、人間側にベットしよう
ハンス総司令官につないでくれ
ハンス
はい、議長
広範囲砲撃の一点集中砲撃への変更を許可する。座標解析が完了すれば、空中庭園の直上通過時に、グレイレイヴン隊が設置したエリアポイントに向けて宇宙武器による砲撃を行う
すぐに地上の全部隊に伝えます
話はまだ終わっていないぞ、ハンス
1回目の砲撃後、20分ほど様子を見る。もし赤潮への抑制に効果がなければ、2回目の砲撃を行う。2回目は、無差別の広範囲砲撃だ
2回連続の砲撃は空中庭園の全エネルギーの9割を消耗する。そうなれば動力減少により、空中庭園の防衛力が大きく弱まるのは避けられない
その意味はわかるだろう。だが私はやる価値があると思っている。君が前にも言ったように――地上の人民も我々の同胞だ
君は作戦変更命令のみならず撤退命令も下達するように。小隊を率いて安全な場所に移動してくれ
委細、承知いたしました