その時がやってきた
一部の侵蝕体は叫びながら向かってきた。それらは手足を広げ、無数の爪が体に突き刺さった
女の子を腕の中にしっかり抱きしめる。鋼鉄装甲の傷がどんどん増えていく
た、太阿は……
止まる……ことはない……!
時間の流れがゆるやかになり、この世にいるのは太阿と少女だけかのようだった。風が吹き荒れる中、太阿は武器を振り上げた。武器は人のために作られた物。太阿と同じく
太阿にとって、それは使命であり、責務だ。機体はもう上手く動かないが、たとえその動きが止まっても、工場に戻され再建されるだけのことだ
しかしHNB1にとって、これは自己の意志であり、自分が守りたいものを守ること……
こんな虐殺しか知らない物と比べられてたまるか……私は戦うための信念を持ってるんだ。私は必ず勝つ!
太阿は平和な九龍環城を再び見たいと願った
人々が太阿を囲みながら笑い、九龍商会の塔の頂点は月の光で輝き、九龍劇場の演目を観て、子供たちがおどける光景を見たいと願った
九龍で働いていた時、とくに褒められるようなことはなかったが、唯一ともいえる力の源泉はそれだった
それが、太阿が特別だった原因かもしれない
うえぇぇん
な、ぜ、泣くの?
怪我、を、した?
うぅぅ……
泣か、ない、で
女の子の悲痛な泣き声を聞き、瞬時に怪我をしたのかと恐れたのだ。痛みや悲しみを感じないで欲しい。そう思いながら、太阿は前へと進んだ