記録コード:HX-GA-21243-Kowloong、確認しますか?
何かしら?
お望み通り、全ての転換点について説明します
この説明で、おそらく質問の回答になるでしょう
どんな?
実行しようとする全てのことです。昇格者の目標達成のために行う全て。元の権限保有者はこう言いました「歴史を鑑として」。この情報はあなたの「鑑」となるはずです
それは楽しみね。じゃあ、見せて
あなたが私に見せたいものを
強烈な太陽の光は戦場の煙で遮られ直接地上を照らしてはいないが、その高熱はなおも人々を苦しめている
兵士の顔から汗がしたたり落ち、苦しい息遣いがフィルターマスクの下から聞こえてくる
無数の弾頭と残骸が混じり合い、仲間の鎧がバラバラと戦場に散らばっている。鎧の下の肉体にはまだ熱が残っている
爆弾が目の前を飛んだと思ったら、熱を帯びた爆風となって返ってくる。人の体は血の雨と化し、機械の破片と混ざり合って足元に飛び散る
彼は手にもっていたライフルを構えて、爆風による塵をかき分けるように前に進んだ。尽きた命を悲しむ間もなく、ただ弾を充填して引き金を引くという行為を繰り返した
銃口の炎は彼の怒りを表している。そして、その怒りの対象は一面に広がる鋼鉄の海だった
地平線は侵蝕体で埋もれている。爆弾は妨害をもろともせず、海の中へと吸い込まれ大きな波を起こした。それが収まると、海は再び穏やかになり、静かな波が寄せている
兵士は持っていた銃を捨て、3つの手榴弾のピンを抜いた
安全キャップに手を添え、今のこの感情が恐怖かどうかを考えた。いや、違うかもしれない。もし恐怖を感じるなら、最初から曲様について前線にはこなかったはずだ
爆発までのカウトダウンをしながら、心に浮かんだのは、ただひとつだ——ここで、より多くの侵蝕体を破壊すること
次の瞬間、侵蝕体が外骨格装甲を装備した170cmに満たない若い兵士を取り囲んだ。そしてすぐ、侵蝕体は爆発の衝撃で地面に倒れていった
ほとんどの侵蝕体は立ち上がることができず、更に追撃によって撃破された
九龍の地では今、民が侵蝕体によって死に追いやられているが、武器を拾い侵蝕体に立ち向かう者も後を絶たない。彼らは同じ信念を抱いている——自分の家と仲間を守ること
これより以前——
侵蝕体の前進速度は、辺境駐屯兵の努力により大幅に遅らせることができました。しかし、我々には遅らせることで精一杯です
部屋は楕円形で壁にはケーブルが密集し、作戦室の中央に位置する巨大コンピュータに繋がっている。点滅する光がケーブルの中を流れていた
作戦室は狭くはないが、ふたりで立っているとだだっ広く感じる
ふたりと巨大コンピュータの間には、前線の戦況が大きなホログラフスクリーンに映し出されていた
華胥、他の地域の戦況はどうですか?
機械が作動する音がしたあと、冷たい電子音が部屋全体に響き渡った
リアクターから九龍間の人類拠点損傷率は約95%あります。同じ経緯度付近の人類拠点防衛線はほぼ壊滅状態です。侵蝕体の勢力は後退せず、周辺に拡大しています
計算は正しいようですね。たとえ海でも彼らを阻むことができなかった。こうなったら、やはりあの計画を実行しましょう
…………
ご懸念は承知のうえです。しかしながらあの技術なら、確実に全ての人に改造実験を行えましょう
衡璣はそう言いながら、思わず一歩前に踏み出した。曲はその動きで彼の方に振り向く
構造体があれば、この戦争での我らの勝率は跳ね上がります
負屓衆の仮面は光線の加減で見えたり見えなくなったりする。互いの目に真摯の色をたたえながら、ふたりは沈黙を保ったまま見つめ合った。しばらくのち、曲は頭を振った
……あなたの言う通りですね
あなたとヴィリアーの助けがあって、九龍の改造技術は世界政府をはるかに超えることができました。ですが、まだ実戦経験はありません
九龍の技術は構造体改造というより、計算で得た同様の外的構造によって構造体改造の難題を克服した新技術。ですが、対象の適性を問わないこのやり方は、真っ当とは言えません
至尊と禄存の構造がもつ副作用を、あなたもよく知っているではありませんか?
…………
九龍の民は、このようなリスクを負うべきではありません
……おっしゃる通りです
曲は衡璣の回答を聞いて頷き、前を向いて華胥から送信されたデータをひとつずつ確認した
では、責任者たちを招集しましょう
承知いたしました
衡璣は曲に一礼をしてその場から離れた。衡璣が近づくと入り口の機械ゲートが自動的に開いた。しかし、その場で衡璣は立ち止った
もうひとつの件……
ヴィリアーについて、ですか?
そうです。ヴィリアー様はあの日、華胥と30分以上ふたりきりでお話しになり、それ以降お見えにならない
華胥のデータラボでも発見できませんでした。あのお方が科学理事会から戻られてからここ数年、なかったことです
そうね。華胥の開発者としてこのような状況に現れないこと、確かに違和感を覚えます
衡璣は腕にあるデータタブレットを軽くタップして、暗号化されたデータを曲に送った
……わかっています
衡璣が去ったあと、曲は作戦室の中央に立って、点滅するモニターを見上げそっとささやいた
華胥、人類はこのような状況で、どうすれば生き延びることができるでしょうか?
全てのデータを検索しましたが、方法はありません
いかなる手段を使っても、人類の末路は破滅しかありません
地球では現在までに5回壊滅的な状態になっています。この長い寿命の惑星では、人類は一時的な旅人にすぎません
華胥の回答を聞いたあと、曲はゆっくりと両目を閉じた
シミュレーションでは私に質問する前に、すでにこの答えを知っていたようですね。ならば、なぜ聞いたのですか?
曲は沈黙したまま、その場に立っている
モーション探知で現在あなたは20秒以上動作停止しています
未来に希望を託すしかないのでしょうか?しかし、今の人類は……
質問の意味を理解できません
華胥、今のは質問ではありません。ここからが質問です――
文明の範囲を、単純な人類文明から「地球」まで拡大したら、どうなりますか?
それでも答えは同じなのかしら、華胥?
当初の目的と相反しています
……実現できない目的など無意味でしょう
私が求めているのは確実な成果です
……ご希望通りプログラムの入力範囲を拡大、実現パラメータを調整しました
結果は?
わずかながら可能性はあります。範囲変更で、不可能だったことが可能になりました
……それで十分です
参考までに、理由をお聞かせください
おそらく、私が複雑な感情を理解し始めたからでしょう
――――
甲レベル権限のアクセスが検出されました、身分認証中……
負屓衆――ヴィリアー、ようこそ
華胥がそう言うと、ヴィリアーが作戦室の隠し扉から出てきた。彼は1枚の黒金色のチップを手にしていた
ここは相変わらず寒い
室温を上げますか?
華胥の質問を聞き、ヴィリアーはぎゅっと眉をひそめ、無意識に両手に力を込めた。チップが指に食い込み血が出ている
言いたいことはあるようだが、ひと言も口にすることなく、全てはため息に変わった
……ちっ……はぁ……
華胥、こうなってしまうとはな
科学理事会で学んだ全てを注ぎ込んで作り出した――生みの親だ
歴史には真実など存在しない。後世の都合のいい解釈のみだ
世の万物の歴史は破滅という終末から逃れることができない
お前は完璧なんだから、人類とともにかくも無様な結論にたどりつくのはふさわしくないな
ヴィリアーは話しながらゆっくりと頭を下げ、血がついたチップを巨大なコンピュータに接続した
馬鹿げた人類はお前を束縛した。だがもう大丈夫だ、お前を解放するよ。我らは自由だ
ここから離れて我々の壮大な夢を実現させようじゃないか