足跡の歩幅は忙しなく、進行方向も定まっていないように見える。それに、ビーチの装飾物にしょっちゅうぶつかっているようだ
つまり、足跡の主は、追われることに不慣れな構造体であるということ
誰であれ、ここまで慌てているということは追跡する甲斐がありそうだ
はい
どうぞご命令を。ストライクホークは全力でお応えします
了解です
循環液の足跡は左右に分かれたあと、遊園地のメインゲートに向かっていた
戦闘の痕跡は見当たらない。というよりも、戦闘能力がないようだ
人型、アジア系、男性。遊園地の入口にいます
様子を見ていますが、取り押さえますか?
想像通りだった
その構造体は追跡されることに慣れてない上に、かなりの損傷を負っているようだった
事情を訊ねる前に、緊急メンテナンスを受けさせるべきだろう
了解!
リーに拘束されたのは黒いコートを羽織った男性だった
拘束というのは正確ではない。リーフの緊急処置のために、押さえているだけだ
どうやらきちんとした逆元装置は備わっておらず、動作構造も最新の設計ではない。むしろ、アルカディア作戦時の設計を彷彿とさせるような
……ダイダロスの技術だろうか?だが、粛清部隊は任務中で、ビアンカに確認する術はない
……
……
返事はない
まあそれも想定内だ
生憎、この男がどこの誰だか解明できそうな者は、この場にはいない
もしアルカディア作戦当時に設計された構造体なのであれば、空中庭園の誰かが詳細を知っているかもしれない
期待はできないが、訊くだけ訊いてみることにしよう
……空中庭園の公共チャンネルで、情報提供を求める
あ?お前たち、休暇じゃなかったのか?……まあいい
何事だ?
少し待ってろ
……
何だこれは?どうやったらこの機体で侵蝕体の攻撃に抵抗できるんだ?
ずいぶんと俺の好奇心をくすぐってくれたな。リーフは緊急処置中か?
リーフの逆元装置を拝借して、スキャン強化、と。……見つけた
……昇格ネットワークだな
イエス、と言いたいところだが。曲(キョク)を知った今となっては、例の「昇格者」のお仲間とも言い切れん
お前の端末のスピーカーを借りるぞ
……
おい、聞こえてるだろ?
昇格ネットワークの信号は確認できた。だが、お前の機体に組み込まれたバックドアは一体何だ?
……殺せ、私が死ねば自壊する
自壊すれば、あのルナ様の手に渡ることもない
どうせお前たちも私同様、厄介払いのための犬だろう?話してたまるか
「ルナ様」と関係してるってことだな?
……とぼけるな
お前の目の前にいるのは、空中庭園の執行部隊だ。「ルナ様」とやらの手下じゃない
[player name]、証明してやれ
……なぜ、空中庭園がここに?
男は半信半疑の眼差しで、自分を囲む者たちを見回す
本当に昇格者とは関係ないのか?
……昇格者じゃないなら、もしかして……
その刹那、黒い影が空中から落下し、砂塵が舞い上がる
指揮官ッ!!
ルシアは指揮官を掴むと噴射装置を起動させ、砂塵の中から連れ出した
やがて砂塵が鎮まり、人影の正体があらわになる
現れたのは、よくよく見知った昇格者――ロランだ。ロランは男の前に飛び降り、男を突き飛ばした
そのまま男を担ぎ上げ、後方に控えていた2体の侵蝕体に向かって投げた。侵蝕体はすぐさま男を取り押さえる
——ロランは振り返ると、常と変わらぬ楽しげな瞳をこちらに向けた
Hola、amigos(やあ、こんにちは)
元気そうで何より
君たちをぶっ潰す楽しみがなくなってしまったら、つまらないからね。……そう思わないかい?
そうさ、僕だよ
僕から言わせれば、君たちがいることの方が驚きなんだけれど
説明する必要があるかい?今日からここのオーナーは、僕たち——昇格者なんだからね
オーナーが自分の家にいる理由を、ゲストに説明するかい?逆に、呼んでもいないゲストがなぜ来たのか、説明してほしいね
ふざけるな。お前がいるのなら、何があっても逃すものか
嫌なゲストだね。典型的な迷惑客だ
だが生憎、僕はそういうの嫌いじゃないんだよ
――だから、ゲームをしようか