Story Reader / 外伝シナリオ / EX01 グランブルー / Story
すぅ――
はぁ——
隊長見て！ビーチですよ！ホログラフで見たのと同じ！
お、あっちのは何だ？ビーチチェアってやつか！？
この世界にまだこんな場所があったなんて……
プライベートビーチを備えた巨大な建造物の周囲は、とても静かだった
独特の香りの潮風。時折、顔にかかる波しぶきもまた、これが空中庭園のホログラフではなく物理的に実在するものだと思い知らせてくれる
ビーチの砂は細かく、体重で沈み込む靴の中に徐々に入り込んできて、足の甲がこそばゆい
これがセリカさんが言っていた「休暇」……なんだか楽しくなってきました
ビーチに潮風……確かにリラックスできそうです
ふぅ……
うーん……どうして眠気を感じるんでしょうか？
ええ……おそらく人間を模した感知センサーの自動反応だと思います。指揮官、センサーをオフにしてもいいですか？
休暇なんですから、ルシアも少しリラックスしましょうよ
全てを見透かされた少女のように、ルシアは突然もじもじし始めた
……ただ、戦闘が起こる可能性を憂慮していただけです
そうですか……えいっ！
隙をついてルシアの背後の浅瀬に回り込んだリーフは、ルシアに海水をかけた
あ！リーフ、何するんですか！
黄金時代の「ソンクラーン」――水かけの儀式の真似です。ルシアも一緒にやりましょうよ
ふたりの少女は浅瀬に入り、お互いに水をかけ始めた
関節に入った塩が結晶化して、メンテナンスで解体される羽目になっても知りませんよ。僕は忠告しましたからね……
？
……はあ、好きにしてください
そうして、ルシアとリーフに続いて、ソフィア、アイラも水合戦に加わった
カレニーナは一番最後に参戦したが、戦績はトップだった
……まさか、カレニーナのバズーカが火だけでなく水も吹けるとは
……
…………
今日この日まで、どれほどの時間がすぎたことだろうか……
もう長い間ずっと、ひたすら戦い続けてきた気がする
そんなことを考えながら、視線をずらすと——
カムイが大神威をサーフボードにしている……！？
クロムが必死に止めているようだが、見た限り、制止の効果はほぼないようだ
そもそも、大神威が水に浮くはずがない。……ほら、見たことか
そういえば、リーフとルシアはどこに……？
指揮官
ビーチに横になられてだいぶ経ちますが、お身体は冷えていませんか？
……それなら良かった。いい天気ですもんね
……では、お言葉に甘えて
砂を押しつぶすような音が聞こえた。おそらく、ルシアとリーフが隣に横たわったのだろう
……指揮官
もしいつか本当に、パニシングとの戦いが終わる日が来たら……
指揮官と私たちはどうなるんでしょうか？
新しい戦い……ですか？
少し複雑な気持ちです
ですが、どこにいても、誰に従っていても……
私はずっと指揮官の刃です。それだけは変わりません
……戦わずに済む日を迎えるために、戦うんですよね
指揮官はそんな日が来たら、どんな風に過ごしたいですか？
本当に平和を取り戻せるんでしょうか？そう願ってはいますが……
パニシングが消え、侵蝕体の脅威も消え去ったら……
データベースで見た黄金時代の「ショッピングモール」や「バカンス」、「SNS」というのも、また現れるんでしょうか？
……指揮官はどんな生活を送りたいですか？
「読書」でしょうか？それとも「仕事」？アイラによれば、指揮官には芸術家の素質があるみたいですよ！
アイラがそう言うからには、何か根拠があるんでしょう
指揮官がどんな絵を描かれるのか、私も見てみたいです
ホログラフや体感シミュレーションがなかった時代、人々が「特別な瞬間」を記録するには絵を描くしかなかったんですよね
指揮官だったら……どんな絵を描かれるのか、見てみたいです
……これまで「未来」のことについて考える機会は、ほとんどありませんでしたね
そうですね。私たちの未来は……一体どんなものなんでしょう？
未来……か
わからないね
少なくともファウンス士官学校の講師から、「未来」に関する解答を聞いたことは一度もない
気が遠くなるような時間と無数の犠牲を経て、ついに空中庭園は反撃時代の狼煙を上げた
最後に勝利するその日まで、空中庭園の全ての者は人類の礎として、自らの心身を捧げるのだ
人類が二度とパニシングに脅かされることがなくなったその日、我々の犠牲はようやく報われる
そのあとのことは、議長だろうと、講師だろうと、言及する者はいない
それに、ルシアが言っているのは「未来」というよりも「過去」のことだ
我々が二度と触れられることがない黄金時代。それを考える度に……
指揮官？どうされたんですか？
？
笑えること、ですか？
特に説明はしなかったが、ルシアもそれ以上訊ねなかった
だが、誰もが物分かりがいいというわけではない
指揮官～～～！何話してんの？
申し訳ありません、お邪魔しないよう何度も言ったのですが……
ほら！指揮官が俺のこと怒ったりするわけないでしょ！
だからといって、邪魔していい理由にはならないだろう……まあ私も、何をお話しされているのか若干気になってはいるのですが
すると、他の面々も引き寄せられるように集まってきた
勝利のあとのこと、ですか。考えたこともありませんでした
私も
でも、パニシングがなくなったら、アジールは停車できるようになる？
そしたらジャミラが言ってたみたいに、アディレの皆は自然がいっぱいの場所で……
ご先祖さまと同じように、自分たちの故郷をつくって、皆でご飯を食べられる
本当に、そんな素敵な未来が来る？
……ううん、指揮官の言葉を信じる
皆で集まってどうしたんですか？
未来のことについて話してるんです
未来？なんですかそれは？
リーニキってばニブチンかよ！パニシングがきれいさっぱりなくなったあと、どうなるかって話！
誰がアニキだ！……パニシングがきれいさっぱりなくなったあと、ですか？
それこそが、僕たちの最終目的ではありますが……そのあとのことについては、確かに考えたことはありませんでした
ええ。我々は構造体ですから、生態的寿命の問題もありませんし
理論上は誰もが生き延びられるでしょう。ただ……
……全員の目線が、自分に集まったのを感じる
……何か言わなくては
皆の強張った表情をほぐすために
指揮官は俺たちと長ーい時間一緒に過ごしてきたんだ！
俺は指揮官を超絶めちゃんこ信じてる！
ええ、地上での戦いは順調と言っていいでしょう。安全エリアの確立も現実味を帯びてきましたし
……話を戻しましょう。その先の話です
そういう話題なら、生きる「黄金時代データベース」こと知識豊富な私にお任せあれ！
？
確かに、適役がいましたね
おお、じゃあ早速教えてくれ！パニシングがなくなったら、思いっきりゲームやりまくれるよな！？
そうねぇ……それは実現できそうね
黄金時代のゲーム産業の生産率を考えれば、あなたが遊んでも遊んでも遊び尽くせないほどのゲームに出会えるでしょうね
工兵部隊が再建しなきゃなんねぇ建築物も山ほどあるだろうから、期待はできねぇけどな
カムイ、もう少し真面目に考えてくれ……
リーさんは？リーさんは何をしたいですか？
僕は……考えたこともありませんが
強いて言うなら、マーレイが空中庭園の仕事を辞め、危険にさらされることのない生活を送ってくれたらと思います
とはいえ、無理強いする気はありません。空中庭園の仕事もマーレイの意志でやっていることですから
ですから、考えたこともないんです。……パニシングがなくなるその日に生きて立ち会えたなら、それで僕の人生はゴールです
それなら、皆でリーの未来について考えてみましょうか？
指揮官も一緒に考えましょう
ちょ、ちょっと……
皆でわいわい言いながら、リーを黄金時代のさまざまな職業に当てはめてみる
お医者さんは？性格的にぴったりだと思うわ
無理ですよ。医学訓練なんて受けたことありません
パニシングがなくなれば、医科大学のような施設もできるでしょう
構造体も入学できるんでしょうか……
戦闘データみたいに、直接意識海に色んな知識を「入力」すればいいじゃない
それはそうですが、ブリーフィングのように皆が一緒に教室に座って、有用な知識を聞くのもいいでしょう？
それは非効率的ですね
ふぅん？じゃあもしかしてリーのやりたいことって、戦争と関係がある仕事だったり？
『月夜の魚売り』のカシディロスみたいな双銃の暗殺者？
それは非合法でしょう
危機を乗り越え、秩序が再建されれば、法制だって整うでしょうから
危ないことは、もう二度とやりたくありません
……
……思いもよりませんでしたが、案外向いているのでは
確かに、水泳選手は流体力学的な知識も必要みたいですし
いかにも、リーさんが研究しそうです
……
皆が盛り上がっていたその時……
誰だ！
止まりやがれ！！
瞬く間にクロムは大鎌を展開し、放り投げた。カレニーナはバズーカを担ぎ、煙幕を放つ
皆はすぐ散開し、捜索網を展開して10m単位の捜索を始めた
指揮官、あそこです
リーの指差す先には大量の乱れた足跡。砂まみれの、プラスチックのような残留物もある
リーフが屈んで、残留物のスキャンを始めた
……循環液、ですが……おかしいですね……。このタイプの循環液は、免疫時代初期の構造体のものです
ですが、成分が色々追加されていて、今の私たちの循環液の50%近い性能を持っています
そうだと思います
指揮官、追跡しましょう
見過ごせないね
