短髪の構造体は黄昏の中に立ち、その影は温かな光に沿って長く伸びていた
私たちは、この時間を逢魔時って呼んでるんだ。鬼が出やすい時間のことだけど、人と鬼が同時に現れる時間でもある
……なんで黙ってんの?まさか、ビビってる?大丈夫だって、私がいるから
安心しなよ。今日私たちを邪魔する気が利かない連中は、馬に蹴られるどころか6つの拳で顔面をボッコボコにされるんだから
構造体は得意げに鼻を擦って笑みを浮かべ、こちらの肩に腕を回した
機械のアームから手渡された綿菓子をひと口食べると、白い砂糖が顔にべったりとついた
アハハ、変な食べ方!……で?私を誘った理由って何?
八咫は両手を後ろに回して緊張を隠し、ランニングシューズで地面を軽く擦った
持ってきたチケットを彼女に渡し、世界政府芸術協会が開催するイベントについて説明した
えーっと?……コンステリア内を3周走る……
街をたった3周走るだけ?ナメてる?
彼女は改めて手元のチケットに目を向けて、不思議そうにタイトルを読み上げた
挑戦……手を繋いで……コンステリア内を3周走る
えっ……こんなのアリ?
いや、別に。手を繋ぐだけだし、私は絶対に負けないから
好きなアームを選んで繋いでいいよ。いっぱいあるから
そうだ、アンタを抱きかかえて走るのは?それでも条件は満たせそうだし
あっ、じゃあアンタを放り投げて着地点でキャッチするってのは?遠心力を利用して、放物線を……
……だって、公共の場で大勢の人に見られるんでしょ?……まぁ、好きにすればいいけど……
いつもなら自然にボディタッチをする八咫だが、今はなぜか恥ずかしがっている。そっと差し出された手を握ると、彼女はそのまま何も言わずに走り始めた
[player name]ちゃん、遅れないようについてきて!遅れたら、引きずって――
最初は戸惑っていた短髪の構造体は、走り始めると気持ちが開放されたのか、走りながら振り返り、笑顔で励ましてきた
あと1周![player name]ちゃん頑張れ!へばるなー!
外骨格の助けを借りずに構造体のスピードについていくなんて不可能だ。ありがたいことに、八咫はスピードを調整してくれていた
途中で引っ張られたり、引きずられたりしながら、なんとかふたりで3周を走り切った。兵士としての忍耐力と素質でかろうじて乗り切った
挑戦クリア、おめでとうございます!賞品をお受け取りください!おふたりとも、よく頑張りましたね!
ちゃんと見ていましたよ、ずっと手を繋いでましたよね!とっても仲がいいんですね
幸いなことに、スピードが速すぎたせいで軽く宙に浮きながら引きずられていたことには気付かれなかったようだ
芸術協会スタッフはニヤニヤしながら、綺麗にラッピングされたチョコレートを賞品として差し出した
走ったあとで、ちょうど小腹が空いていた。包みを開けようとした時、八咫に止められた
待って、先にそれを食べないで
ほら、これあげる
八咫が投げてきたお菓子の袋を受け取ると、中から甘い香りが漂ってきた
チョコレートだ――しかも手作りの
大切な人にプレゼントを贈ったり、感謝の気持ちを示したり……それがこのイベントの目的でしょ?
義理とか本命とかってやつは好きに考えて。まぁ、これひとつしか作ってないけど
最初に言っておくけど……私、こういうの得意じゃないから。何度か挑戦したけど難しくて、お店で売られてるような綺麗な見た目にはならなかったけど……
……でも、味は保証する
はぁ……こんな日が来るってわかってたら、もっとちゃんと鍛錬したのに!
構造体は珍しく動揺し、アームが交互にその短い髪を乱した
袋から手作りのチョコレートを1粒取り出し、ゆっくりと口に入れた
八咫はじっとこちらを見ている。両手をぎゅっと握りしめて、感想を待っていた
3周を走り終えても息が上がらなかった構造体の顔が、真っ赤になっていた。夕陽のせいではないとしたら……気のせいだろうか?
綿菓子よりも甘い?
たこ焼きより美味しい?
……ならよかった。これって、マラソンよりも心肺機能を鍛えられるね
満面の笑みを取り戻した八咫と並んで街を歩いた。彼女は手の中でチョコレートを弄びながら、少し物思いに耽っているようだった
昔……御園学院でも、イベントの前に好きな人のために一生懸命お菓子を作る子がいた。私はほとんど参加できなかったけど
今回、自分で作ってみてわかった。徹夜しても、なんだかんだ言いながら喜んでた子の気持ちが
昔は後悔することがたくさんあった。それに、できなかったこともたくさん……
私の後悔を埋め合わせてくれたのは……[player name]、またアンタだった
まぁ、過去は過去だし。感傷的になるのは私らしくないな
彼女はすっきりとした表情で顔をパンパンと軽く叩き、振り返って誘いの言葉を紡いだ
まだ時間はいっぱいある!これからふたりで、誰にも邪魔されない素敵な場所に行かない?