——!!!
ふう……これで終わりだな?
目の前の侵蝕体を倒し、隊員たちはようやく息を吸い込んだ。生死の奪い合いの緊張感に、呼吸すらも忘れていたのだ
ボーっとしてんなよ。ブツが床に倒れてるじゃんか!
今回の任務は黒野の「荷物」を運ぶこと
荷物は、補給と同様に投下される。中身が何なのかは知る由もないが、パッケージには小型の浄化器が取り付けられていた
そしてカムたちは、荷物の回収時に侵蝕体の群れに襲撃された
あ、うん。お前らも手伝って……うっ……
他の隊員もカムに続いて荷物を整理しようとした、その時だった。突如、耳をつんざくような悲鳴があがる
あがががあがあああああああああああ!!!
おい!?どうした!?
悲鳴は絶叫に変わる。その兵士は地面を転がりながら、自分の喉と腕を掻きむしっていた
やがて、顔色が紫色になった。どうやら息ができないようで、装備を片っ端から取り外し始めた
おい、やめろ!こんなところで装備を解くなんて、おかしくなっちまったのか!?
ああああああああああ……痛い痛い痛い!痒い痒い痒い!
あああああ……!!!
隊員が取り囲むが、どうすることもできない。カムは兵士を必死に揺さぶり、なんとか正気に戻そうと試みる
痛いのはどこだ!?さっきの作戦で怪我したのか?それとも持病か!?
うっあ……わからない!わからないよぉ!カムぅぅぅぅぅ!
全身が痛くて、力が入らない。脳みそは沸騰して吹き出しそうだ……!
兵士は凄まじい痛みに耐えながら、そう言った。カムがその手に触れるが……信じられないほど、熱い
おい、そうだ……血清!早く血清を持ってこい!
血清ならここにある!早く打て!
カムが血清に思い至る前に、別の兵士がもう行動していた。彼らにとって、これは決して初めてのことではないのだ
原因は一向にわからないが、ごくたまに、部隊の仲間にこの症状が表れる
黒野の本部に問い合わせたところ――「できる限り多くの血清を注射する」という回答が返ってきただけだった
だが、その方法も効かなくなってきたようだ。血清を注射したものの、症状は治まらない
カム……カム……
どうした?
あ……あ……俺たち、って……ついてないよなぁ……
おい、何言っている?なんだこのバイタルは……おい、起きろよ!
畜生!!!!
——
黒野との契約で、カムの部隊員の亡骸は、全て黒野に引き渡すことになっている。そこでカムは、荷物と仲間の亡骸を一緒に渡した
チッ……わざわざ荷物を運んで来てやったのに、町すら入れないのか
契約事項だ。無理矢理侵入したら、発砲するぞ
カムは町のゲートで止められた。運んできた荷物だけが町の中に消えていった
わかったよ。ところで、アイツはどうなる?死体を渡すってことは、検死とかすんだろ?
だから、動くなと言っている!
どういうことだ……?
カムは気づいた。相手の警戒は、なにも契約だけによるものではない。これは――生理的な反応だ
カムは一歩進むと、守衛は一歩後退し、銃を更に力強く握る
そういえば、先ほどの死体の引き渡しの時もそうだった。取りに来たヤツらは、まるで爆弾でも入っているかのように、神経を張り詰め、慎重に扱っていた
おい、答えろ。アンタら、何を隠してる?
カムは拳を握って、守衛に近づく。だが、守衛は規則に定められた口頭警告をすっ飛ばして、いきなりカムに発砲した
クソ、来るなって言っただろうが!
チッ!
これ以上騒ぎを大きくするわけにはいかない。カムは問い詰めるのを諦め、銃声に追われるように町から離れた
一体仲間に何が起きたのか、ゲートの守衛は何を知っているのか
そして――自分と仲間たちは、この先一体どうなるのか
カムの頭を疑問が渦巻いている
町の監視台にはひとりの男が立っていた。男はカムが町から遠ざかっていくのを確認し、通信装置のボタンを押した
マオだ。「モンスター」たちが町を離れたのを確認した
……
運用開始から現在にいたるまでの短期間のうちに、これほどの「事故」が起こるとは……胸が痛むな
そのうえ、最近は頻度も上がっている。「モンスター」はもう長くは持たんだろう
回りくどいのは結構?……そうか、では率直に。彼らをあの場所に行かせるのはどうかな?
……
ああ、特殊保安部隊の一員として、俺が責任を持って片づける