俺は黒野の兵士になった。暮らしぶりは悪くない
そして……
そう、クソ師匠。絶対に追いついてやるからな
部隊の集合の場所にいたカムは、自分の端末からメッセージを送信した。本当は直接通信で会話したいのだが、師匠が応答したことは一度もない
チッ、師匠め……一体なにやってるんだ……
カムの1番の目標は、生き残ること。そして2番めの目標は「師匠」だ。カムとマオは、町で出会った
カムがマオを「カモ」と見定めて襲いかかったところを、返り討ちにされたのだ。それからマオは、カムに「生きる」ための方法を教えるようになった
フン、返事なしか。いいぜ、手柄を立てて這い上がってやる
カムは大剣を背中に戻す。ふと、不機嫌な顔でコソコソ話している同僚が目に入った
お前ら確か今日の警邏だよな?なぜここに集まっている?
そう言うけどさ、ここは移動基地だぜ?明日にはもういないんだ、何を警邏することがある
兵士の言う通りだ。地獄のテストをクリアしたあと、カムたちは移動車両の小隊に配属され、丸2カ月もの間、郊外で任務に当たっていた
町の保安担当だとばかり思ってたのに、まさか突撃係とはね……軍人より危ないんじゃない?
その代わり、配給は充実、装備も優良、仲間のお前らも優秀だ。まあ、俺には及ばないけど
カム、この野郎……!タイマン勝負だ!
おっ?また負けを更新するのか?
仲間同士のケンカは日常茶飯事、いくら騒ぎを起こしても叱責されることもない。何せカムのこの部隊は、上官の隊長すらいないのだから
任務は毎回遠隔通信で下され、血清等の補給は空から投下される
タイマンはとりあえず置いといてさ、さっき何話してたんだ?
ああ、少し前の任務のことだよ。カムも覚えてるだろ?放棄された都市の……
棄民のことか?
棄民というのは、どこの都市にも籍がなかったり、追放された犯罪者たちのことだ
酷なことだが、多くの人間がこのやり方を受け入れている。一般人も、棄民本人も
カムはその日のことを思い起こした
黒野の車だぞ!取り囲め!血清と食い物があるに違いない!
おおおお!
何だあいつらは!近づけるな!
カムの部隊の車両は、移動中に大型の障害物に行き当たり、先へ進めなくなってしまった。仕方なく車を下りて障害物をどうにかしようとしたところ……それが棄民の罠だったのだ
兵士たちが応戦の準備を整える間もなく、棄民たちが発砲を開始した。車両はあっという間に弾痕だらけとなり、兵士たちは車両を守るので手一杯になってしまう
気でも狂ったのか?黒野の正規部隊だぞ!?
黒野だろうが、世界政府だろうが、関係ない!物資を寄越せ!
なに!?
正規部隊ではあるが、所詮は実戦経験の乏しい新兵。ましてや目の前の敵は侵蝕体ではなく、人間だ
一瞬たじろいだ部隊は、そのまま混乱に陥った。棄民の誰もが、これでとりあえず明日を迎えられると思ったその時――
どけッ!
ぐっ……!
えっ……?
カムは彼らの希望を徹底的に叩き潰した。彼はいつの間にか間合いを詰め、棄民のリーダーを一刀両断していたのである
おい…………
カム、何をしてる!?
それはこっちのセリフだ!早く撃て!
カムに檄を飛ばされた隊員たちが、慌てて棄民を銃撃する。統率者を失った棄民たちは、あっという間に散っていった
死傷者はあったが、物資の損失は皆無だ
血清も食料も奪えないんじゃ……あいつらすぐ死ぬぞ?
まさか、同情してるのか?こっちだって何人か死んだんだぞ
いやさ、ただ……もし何かが違ったら、俺たちもああいう風になってたかも、って
同世代っぽいやつもいたな
……アイツらの運が悪いだけだろ
嫌な世界だ
そう言うと、男は血清を打ち、別の血清をカムに投げて寄越した