ヴィラ、すまないけど血清の状況のモニターから目を放せないの。新しい患者の方を頼める?
ええ、わかりました
生身の兵士だろうが、構造体になりたての者だろうが、まずはこういった支援キャンプで戦場の雰囲気に慣れることから始める。これは規則であり、実地訓練の一環でもある
改造手術によって構造体になったばかりのヴィラもそうだ。補助型の彼女はトレーニング中であり、ここに運び込まれる人員の治療に当たっている
運ばれてきたのは皆、構造体ね……酷い傷だわ
目の前には、臨時ベッドに横たわる構造体。構造体にとってはほぼ無意味な処置しかできないが、生憎ここにはもう余剰の構造体用治療カプセルはないのだ
合計4体……うち重傷2体、他の2体は意識不明……
とりあえず、痛覚関連のシステムを落としましょう……
お、落とさないでくれ……
構造体のうちのひとりが、ヴィラを制止した。構造体はヴィラの手を掴み、痛覚システムを落とさないよう懇願する
どうして?こんなひどい傷……痛覚の許容限界を超えているでしょう?後続処理だって破損パーツを強制剥離する必要があるし、どれほどの痛みを伴うことか……
意識海の偏差が心配なら、まず安定させる処置をしますから。よくあるケースですから、心配しないで
大概の負傷者は知覚をシャットダウンすることによるさまざまな後遺症を恐れるが、医学的観点から言えば、痛覚を落とさないことこそ最悪の選択だ
だが、それでも構造体は頭を横に振った
知覚を失いたくないんだ。何も感じられないまま……体をバラされてしまうなんて……
恐ろしい……
そうは言うけど、尋常な痛みではないわ。おそらく失神してしまうでしょう
どんなに痛くても構わないから……お願いだ、痛覚を落とさないでくれ
わかりました。そこまで言うなら…………では、治療を始めますね
機体のほとんどの演算機能を操作に集中させる。ヴィラが持ってきた補助機械も、構造体の破損箇所の解体を始めた
ぐ……あああああああああッ!
ヴィラはナノマシンで修復を行いながら、痛みを軽減しようと試みるが、少しの効果もないようだ。苦痛に歪む構造体の顔を見ていられず、ヴィラは顔を背けた
まるで自分も同じ治療を受けているように……ヴィラも痛みを感じているような錯覚に襲われる
ぎゃああああ……!!
もう少し、頑張って……
——
ようやく、治療が終わった。構造体は安静状態だが、ヴィラは痛みに襲われる感覚から抜け出せないでいる
総員、注目!
ひとりの士官が大声をあげ、医療スタッフが一斉に注目する
前線の人員が不足しており、このキャンプより数人を前線へ送る必要が出た。志願する者はいるか?
誰もが力なく首を振った。この場で侵蝕体の恐怖に晒され続ける時間は、皆の熱意と自信を根こそぎへし折るに十分だった。逃げ出すことはできないが、前線に行く勇気もない
……
キャンプ内は静まり返り、医療器具の稼働音と負傷者の呻き声が時折響くだけだった
では……
私が行きます
士官が抽選を行おうとしたその時、ヴィラが挙手した。士官の視線が赤い髪の女性構造体を捉える
私に行かせてください
士官の視線を真正面から受け止め、ヴィラは再度意思を表明した
機種番号BPN-13、補助型。名前は――ヴィラか
士官はすぐにヴィラのファイルを見つけ出し、承認スタンプを押した