おい、状況は?
任務はどうにかなったが……回収が間に合わなかった者もまあまああるな……
生き残っただけでも万々歳だぜ……
ここは構造体が集り、待機する戦場後方。戦闘を終えたばかりの構造体も、これから前線へ出る構造体もいる
皆の表情は、一様に緊張で強張っている。連戦に次ぐ連戦に、誰もが重苦しい圧迫感に潰されそうな中、ただひとり、目を閉じリラックスしている赤髪の女性は悪目立ちしている
……
あれが例の「死神」じゃないのか?
赤髪の死神……確かにそう呼ばれているな
失礼ね。私は死神なんかじゃないわ。撤回しなさいよ
噂話を本人の前でするのはなるほど失礼だが、大概の者は聞こえなかったふりをするだろう。だが、赤い髪の女性――ヴィラは、堂々と言い返した
は?事実だろうが。あんたの戦歴のことは皆知ってる。毎回あんただけが生還するんだ、おかしく思わないはずないだろう?
ヴィラを死神と呼んだ構造体も、負けずに言い返す
ヴィラは構造体としての経験はまだ浅いものの、すでに5個小隊を経験している。5つの小隊はいずれも侵蝕体によって全滅したが、毎回ヴィラひとりだけが生き残るのだ
補助型だか軍医だか知らないが、あんた修復用のナノマシンを独占してたんだろう。そうでもなきゃ――
ふざけるなよ、この野郎ッ!
侵蝕体との長きに渡る戦いは、あらゆる兵士の心を蝕んだ。誰もが少しずつ理性を失うなか、その構造体は直接ヴィラを侮辱し、ヴィラもまた怒りに任せて拳を叩き込んだ
手をあげるなんて……図星だったんだな!
おい、やめないか!
疲労のあまり見てみぬふりを決め込んでいた兵士たちも、いよいよ激しさを増す争いを止めに入らざるをえなくなった。だが、ふたりの殴り合いは、更に他人を巻き込んで拡大した
双方が武器を使っていないというのは、かろうじて理性の箍を保っていることを意味する。だが、構造体は拳でも甚大なダメージを与えることができる
私は死神なんかじゃない!あなたたち……あなたたちのせいよッ!
私は努力した!必死に、歯を食いしばって努力したわ……なのに皆、死んでしまった。それ以上、どうしろというのよ!!
クソッ、補助型のくせに……やたら強いぞ!?
殴り合う者たちの身体にどんどん傷が増える。ヴィラは顔に食らった一撃に耐えながら、相手にとどめのフックを打ち込もうとした
そんなに死神に会いたいのなら、今ここで会わせてやるわ……
やめないか!!
えっ……中尉!?
貴様らは自分のことをそこら辺のチンピラだとでも思っているのか!?貴様らの敵は誰だ!何度も言ってるだろうが!誰か、このふたりを独房にぶち込め!
トラブルの仲裁に入った士官は、ただちに火もとのふたりを処断した。ヴィラは何の反応も返さなかったが、もう一方の構造体は慌てている
待ってください!俺はこのあと任務があるんです!それに、先に手をあげたのは死神の方でしょう!
だから!死神じゃないって言ってるじゃない!
何だと……!
ヴィラは隙をついて構造体の鳩尾を殴ってから、思いっきり蹴飛ばした
やめろというのがわからないのか!どこまで軍規に違反する気だ?そいつを押さえつけろ!
ヴィラは他の構造体に確保され、拘束されて、独房へ入れられた
重たい扉が閉じた。ヴィラは頭を上げて真っ暗な空間を見渡し、気落ちしたように力なく笑みを浮かべる
暗い……それに、痛いわ
どうして……なんでこうなるのかしら……