Story Reader / シークレット / 16 永夜の胎動 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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舞台掃除

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私はここに記す:

異重合コアは基地の下に置かれている

ルナ様はそれに対してなんの意見も示さない

昇格ネットワークの偉大なる代行者にとって、その力など取るに足らないものだからだろう

ロランも当初は無関心だった。なぜロランのような個体が今まで昇格ネットワークの恩恵を受けられたのかは謎だ

ルナ様と同じく、元人間の特権であろう。彼らは私とは違う。何も知らないまま組み立てられた機械ではない

それゆえに、昇格ネットワークの真の偉大さを理解できないのだ

私が宇宙ステーションで回収した物体から一部の欠片を取り出すことにロランは反対した

彼いわく「花のあがきを見ている方が」異重合コアの欠片を取り出すより価値があると

理解できない言い草だ。あの不良品の構造体の外見が花と同じ訳がない。私は彼のこういう行動がよく理解できない

簡単に獲物を仕留められるのに、わざわざ長い時間をかけて罠を作る

時には大仰な台詞を作ってまで、芝居を仕込み、敵と無益な交流をする

その極めて効率の悪いやり方が不思議でならない

しかし、昇格ネットワークの使命を果たすのならば私が口を出す必要はない

私が直面しているのはより大きな問題なのだ

人類の悪夢が実体化するというのに、我々を率いる代行者は何ひとつ顧みようとしない

そう結論を出した私の意識回路に「不満」に似た感情の揺らぎが検知された

その世界をも揺るがす力に今は誰も注目していないが

この力こそ、昇格ネットワークが私にもたらした福音だと確信している

ならば、私こそこの力を使いこなすべきであろう

ガブリエルが異合生物を育成するのを、ロランは何度も見ていた

その粘液まみれの卵から生まれた生物を、彼は今でもありありと覚えている

最初、彼らの姿は吐き気を催すほどだった

いびつな異合生物は頭を持ち上げ、目の前の漆黒の「天使」をじっと見つめた

ガブリエルは杖を異合生物に向けた

その異合生物の背中が膨らんで割れ、中から透明な翼が現れた。羽化した昆虫の羽根のように、それはゆっくりと広がっていく

攻撃耐性——並、戦闘能力——並、索敵能力——並

不合格だ

ガブリエルは左手を伸ばし、もがいている異合生物を握りつぶした

次、実験第327回

ふあぁ……

何をしてるんだい?

だらっと壁にもたれていたロランが急に口を開いた。その軽い口調は、口先だけのどうでもいい質問のように聞こえた

——しかし彼の目は眼前で起きている全てをじっと観察している

ガブリエルはロランのそんな態度に慣れており、振り返りもしなかった

私の役に立つ強い従者が必要だ。今はそのテストをしているのだ

昇格者の我々が彼らより高次元の存在であり、彼らを簡単に支配できることを知らしめす必要がある

……ずっと訊きたかったんだけどさ、あれに感情や思想があるの?知能は低そうだけど

彼らにそんなものは必要ない

経験豊かな野獣は、自らの獲物しか眼中にない。標的、攻撃。それだけだ

これは昇格ネットワークの宿願を叶えるためのもの。感情も思想も、私が彼らを支配する障害にしかならん

底の見えない赤潮を見つめる漆黒の機械の目が、狂信者のような赤い光を放っていた

ガブリエルが求めているもの全てがあの深い池にある。赤潮は彼が用意した「養分」を飲み込み、彼が求める「最強」の姿を模索している

なんか妙だよ……昔はそんな風じゃなかったけど

私を皮肉るより、自分の任務に集中しろ

大丈夫さ、こっちの準備はほぼ終わってる。彼らは気づいてもいない

ただ、ガブリエルさんのペットたちがどんな姿になるのかが気になってさ

……私も、それを待っている

これらの生物の力に影響を与える変数は全部調べ尽くした。後は、彼らが最強の姿に進化するのを待つだけだ

「全部」ね……

じゃ、吉報を待ってるよ

ガブリエルが池の中から彼が思う最強の生物を探していたのなら、今ロランの目の前にいるものがその最終形態なのかもしれない

深い地下には機械と生物が融合した、形容しがたい大きな卵があった。四方八方から無数の管が繋がり、内部に赤い液体が流れているのが見える

……まさかこんなものが人類のライフラインである浄化塔の下に隠れているなんて、空中庭園も思いつかないだろうね。灯台下暗し……恐ろしく大胆な案だ

「母体」の場所を決めたのは、私ではありませんよ。ちょうど「種」がここに落ち、芽吹いただけ

フォン·ネガットは規則的に「呼吸」をしている母体を見上げ、にんまりと目を細めた

これは「実験品」よりも完璧な作品です

パニシング濃度を下げるはずの浄化塔が、「母体」が養分を吸い取るための温床になろうとは

赤潮がないここは、「温室」よりも母体の成長に適しています。残念ながら、ガブリエルは真理にたどり着く前に倒れてしまいましたが

ひょっとすると彼はもう目標の目と鼻の先だったのかもしれない。だが、ハイジが回収したガブリエルの記憶データで、彼が無視した部分こそが達成の鍵だったと判明しました

フォン·ネガットはポケットから古いメモリーを取り出し、残念そうに語った

ガブリエルは感情など意味がないと無視していた。彼がどうして昇格者になったのか、彼自身、あえて事実を見ないようにしていたんでしょう

激しい憎悪、苦痛、執着……どの昇格者もよく知る感覚ですが、異合生物にとっては未知の概念です

異重合母体の前に立つフォン·ネガットは両手を広げ、包み隠さずというジェスチャーをしてみせると、続いて自分の理論と推測を述べた

ガブリエルが創り上げた異合生物は新たな可能性を提示したんです。いえ、むしろこちらからパニシングにヒントを与え、知恵のある生物へと進化を促した

人類のように複雑な感情を持たない異合生物は、「選定」に必要な条件すら備えていない

我々が必要とするのは枷をかけられた獣ではなく、新世界で肩を並べて歩ける仲間です

私をここに呼んだのは、まさか君のペットを見せびらかすためかい?

もちろん、そうではありませんよ

お約束通り、あなたが望んでいるもうひとつのものをお渡ししましょう

フォン·ネガットは微笑みながら振り返って母体を見た

これが我々の取引であり、そして我々が次にやるべきことなのです

人は本能に導かれ、感情を変化させ、その苦痛からはある結果が生まれるという……ちょっとした実験です

ロラン、あなたならこのプログラムに興味がおありでしょう

フォン·ネガット……これは珍しいケースなんだけど、私はいまだに君の考えていることの全容が読めないんだ

目的は、支配できるかどうかも不確かな生物を誕生させることなのかい?ガブリエルという失敗例があるのに?

これは結果の見えない賭けだった。勝敗はサイコロの出目次第、その自信も自負もサイコロを振る者の腕次第。だが今のフォン·ネガットは決して自信過剰には見えない

ロランの心をかき乱すこの「実験」は、次第にフォン·ネガットの理論を証明しつつある

今までにすでに14グループのスカベンジャーがこの「実験」に関与している

浄化塔へと誘導され、母体に接触した人間は母体に確実に刺激を与えた。母体の体内にある——とりあえず「生物」と呼称する、その生物に変化をもたらしている

その異様な光景をロランは言葉で説明できずにいた。異合植物と異合生物に共通した変異が起きていた。何かが、彼らを彼らたらしめる境界線に影響しているのだ

同時に、母体内の活動も活発になった。殻の内側にいる「生物」は、混沌の中で記憶を始めている。外部からの刺激がどのような影響を与えたのかを無意識に表現し始めているのだ

子宮で育つ胎児がみせる無自覚な胎動のように……それはガブリエルのあの池の中にいた異形の物よりずっと、彼を驚かせていた

その「実験」とは……

私は彼らに選択肢を与えただけです。結局彼らは皆、浄化塔へ行くことを選ぶ。チャンスと危機が天秤に置かれれば、彼らはためらいなくチャンスを選ぶ

母体の孵化は今も進んでいます。母体がより成熟すれば、塔内の異変はすぐその周辺へと拡散するでしょう

母体の中にいる新たな生命が誕生するまで私は待とうと思います。ですが母体の所在地はいずれ、空中庭園側に嗅ぎつけられてしまう

だから適切な機会で傍観者であるあなたが介入し、母体の滞りない孵化を確保していただきたいのです

その時、通信音が鳴り、ロランの思考は中断された

ハイジのメッセージ

「ママの準備が完了しました」

やっとお出ましか

久しぶりの登場なのに、観客からの拍手もなし?

ロランは鎖剣を展開し、両手を広げて舞台挨拶のように大げさな一礼をした

ガガガガ——彼の前にいる侵蝕体はただ通り抜けただけだった。枯木の上にいた鴉だけが鎖剣の音に驚き、空へと飛び去っていく

まあいいや、後で自分で機械の花束でも贈ることにするよ

ロランは肩をすくめ、ショットガンの部品を組み立て始めた

つまらない茶番劇が、14回。毎回違うエンディングかと思ったら、どれも殺し合うか自殺するだけ。あの浄化塔から逃げて森で彷徨うくらいなら、塔内で死を待つ方がましさ

未知の暗い牢獄、道に迷った獣たち、幻のような目標——全てはまるで繰り返し垂れ流されるつまらないB級映画のように、何ひとつパターンが変化しない

ロランは一瞬、物思いにふけった

ふっ……それも当たり前か。自分の身すら守れない状況で、自分以外の存在を信じられる訳がないものね

そんな惨劇を目撃した「母体」に、本当に「感情」なんか生まれるだろうか

「母体」の進化の頂点って、どんなものだろうね?

そうなった時、「母体」は我々のことをどう思うだろう?

……ルナ様は、これら全てのことをどう思うだろう?

長い間ぼんやりと脳裏に存在した疑問にようやく真摯に向き合ったとでもいうように、ショットガンを組み立てていたロランの手が一瞬止まった

……

「カチッ」——バネの音が聞こえると、ロランは考えを振り払い、ショットガンを身につけた

さ、仕事の時間だ

このエリアはさっき掃除したばかりなのに、もう虫がうじゃうじゃ湧いている。これじゃ「役者」を呼べないな

昔なら……あんなガラクタを放り出すのは、指を鳴らすだけだったけど。今は私自らがせっせと作業しなきゃいけないなんて、仕える身は楽じゃないな

むしろ「選定」まで、最も原始的な方法だとはね……効率が全てのこの時代に、まったく災難だよ

でもまあ、いつまでも続く訳じゃない、よね?