遅いっすよ、クロム隊長
はぁ……はぁ……
クロムの隣には笑顔のカムイ、そしてカムイに支えられ、かろうじて立っている嘲風。口にはせずとも、皆が同じような夢を見ていたことをクロムは悟った
よかった、3人とも無事で
マーレイ……現状は?
簡単に説明すると、あなた方はグレイレイヴンを追って制御室に入った途端、罠に陥った。今はシステム「華胥」の擬似意識海に閉じ込められている状態です
ここは擬似意識海か……では、先ほどのあれは……
「華胥」が作り出した幻像でしょう。幸い、僕には類似の状況の対応に当たった経験があるので
まさか、あの出口……あなたが作ったんですか?
はい……でも、あなたたちが自力で出口から出られるとは思ってませんでした……なんとか接続する方法を見つけようとしてたところです……
私も驚きました。まさか、あなた方が……夢から逃れられるとは……
曲?なぜここにいる?
あれは曲様ではない……華胥だ。この船を支配しているシステムだ
アンタらの首領とおんなじ顔じゃん
おそらくは相貌をコピーしたのだろう。ここはシステム自身の意識海だからな、姿を変えるくらい造作もないことだ
これは……私の分身にすぎない。私が本体をあらわにするのは、最高権限の所有者とともにある時のみ
……華胥、なぜ我々に夢を見せた?他の者同様、制御下に置くつもりだったのか?
いいえ、制御するつもりなど毛頭ありません。私は単に夢を創るだけの機械。あなた方がゲシュタルトをお求めのようだったので、ゲシュタルトの力をお見せしたまでのこと
ゲシュタルトは夢を創る機械じゃないだろ
ええ、私はただの複製品です。真のゲシュタルトは遥かに強力……ですから――
どうぞ、実力をお示しになってください。私を打ち負かすことができたなら、お望みの場所へお連れしましょう
どうか、夢を終わらせて……この船を解放してください……
それはつまり、あなた自身がしたことではないというんですか?
……どうやら、我々はずっと勘違いをしていたようだ……華胥は、ただのシステムにすぎず……船を支配下に起き、全てを混沌に陥れたのは、曲様自身……
……
そういうことなら、そこを抜け出す方法を見つけるだけでいいですね。戦う必要はありませんよ、クロム
マーレイ……そうはいきません……
どうして?
華胥は本気だ
曲は我が意識海の別の場所で、私のために戦っています。私の本意ではなくとも、彼女の気持ちを無碍にすることはできません
ストライクホーク……空中庭園からの客人よ。私に抗う機会をいただけませんか?敗北する機会を……
華胥、戦うならば全力でかかってくるがいい
……?
戦意のない相手と、刃を交えたくはない。それに、ただのシステム相手に負けるわけもない
全力で抗うがいい。私も全力をもってお相手しよう。あなたを、この世界から抹消する……
……ありがとうございます
クロムの言葉を聞き終えた華胥は、大きく息を吐く。そして、何もない空間から長刀を引っ張り出した
クロムも、大鎌を取り出して展開した。嘲風とカムイはふたりの戦いを邪魔しないよう、後ろに下がる
そして、次の瞬間――刃と刃が激しくぶつかった