よかった……倒してくださってありがとう……
分身が倒れれば……本体の力も大きく削がれるでしょう……
これで、全てが……終わる……
僕たちの勝利が……兄さんたちの力になるのか……
華胥は微かに表情を和らげた。まるで、何かに別れを告げるような柔らかな笑み
クロム……ゲシュタルトと同原の……私の本体は、真の九龍にあります……
川に沿って……お行きなさい……
空間が振動して壁が崩壊し始め、自分の足下さえも定かでなくなっていく。彼方には、朧げながらも馴染みのある人影が見えた
クロムは少し立ち止まり、振り返った。そして、消えつつある華胥の分身を見つめる
いい…………ものですね………………人間…………とは……………………
夜は明けていた。グレイレイヴンが甲板で待っている。制御を失った船はバランスを崩し、大きく上下に揺れている
……これにて任務完了、ですね……では、僕は任務報告をまとめますので、通信はここまでにしましょう
本当にリーと話さなくていいのか?
皆さんが空中庭園に帰投されてからにしますよ。今は情報の整理が最優先ですから……それでは、また
……
……彼は言わなかったが、私は危ないところを彼に救われた。危うく夢に沈められるところだったのだ
なぜ……お前たちは夢に閉じ込められなかったのだ?
空中庭園の構造体だからか?なにか技術的なものが……
いいえ、嘲風。空中庭園にその種の技術はありません
では、なぜ?
それは……あの夢が、美しくなかったからだ
クロムは嘲風の肩を軽く叩き、手を振った。そのままグレイレイヴンの方へと向かい、指揮官と言葉を交わす
カムイも後に続こうとしたようだが、すぐに引き返してきた
これ、やるよ!俺たちストライクホークの隊員バッジ!
私に?
もし九龍衆を辞めるんだったら、うちに来いよ。結構合うと思うぜ!
おーい、みんなー!!
カムイはバッジを渡すなりクロムに走り寄り、グレイレイヴンの面々と一緒に騒ぎ始めた
嘲風はそっと、ストライクホークの隊員バッジを握りしめる。徐々に白む空の下、思い思いにはしゃぐ面々を見つめながら――
その仮面の下の目を、わずかに細めた
カムイはクロムの背中を思いっきり叩いた
……最後はグレイレイヴンに助けられました……ありがとうございます……
いえ。皆、目的は同じですから
終わりましたね……この船もやっと、本来あるべき場所へと帰ることができる
……ええ、「九龍商会」の真の牙城。この船が最後に停泊したであろう場所へ……
「真の牙城」?
ここの「九龍」は人を惑わせるだけの夢にすぎません。偽りの航路を巡り続けているだけです
偽りの航路が海図から消えた今、無限夜航も終わり、船は本来あるべき場所へ帰港するでしょう……
おい!みんな、見ろ!!
船首の先、薄暗い雲に突き刺さる天の光が見える。そして、奇妙な形の巨大な塔が現れ…………地平線を真っ二つに分断した
…………