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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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真紅の死水

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もう、本当に……しつっこいんだから!

魔女ハイタンはグレイブで死の騎士の渾身の一撃を受け止めた。しかし、その衝撃で手首が痺れ、苦しげに非難の声をあげた

乾く前の封蝋みたいに、どれだけ振り払ってもベタベタ離れない!疲れるってことを知らないの!?

天使を地獄へ招き入れた愚か者には容赦しないわよ!混沌の使者を渡しなさい。そして、降参か死を選ぶのね。アトランティスで好き勝手にするのは、もう終わりよ!

死の騎士の咆哮で灼熱の空気が震え、怒りの波が火の雨の中にこだました

自分自身の姿を見てみなさいよ、ラストリアスが見たらさぞ後悔するでしょうね――死胎だったあなたを拾い上げ、命を与えたことを!

ラストリアス……?

人魚の注意が逸れた。それは戦場では決して許されぬ失態だ

騎士はその隙を逃さず、天使の穢れた血にまみれた槍を人魚の腕めがけて突き立てた。力はさほど込められていなかったが、正確な一撃だった

ぎゃッ!痛ぁぁぁぁ!

こちらも負けじと、魔女ハイタンを援護しようと集まった天使を正確に連射して撃退する

戦局はもはや明らかだった。ケルベロスは悪魔の大軍を率いて、谷間に潜む敵の残党を掃討している

これ以上、聖堂に関与しないこと……聖堂の狡猾な策略に乗って、地獄の力を崩壊させないで頂戴。私たちにはもう、残された兵は僅かなのよ

死の騎士は魔女ハイタンを力強く押さえ込みながら、険しい表情で眉を深くひそめた

今ならまだ間に合う。私だって、こんな血みどろの方法の決着は好まないのよ

聖堂とは無関係よ!オメガの卵は私が盗み出した。地獄列車も……ある人と交換しただけよ

「交換しただけ」?地獄列車が走らなくなったあと、人間界がどうなったのか知ってる?血の契約者、あなたが見た光景を彼女に教えてやって!

聞こえた?人間は死んでも地獄へ行くことができず、生きた屍のように地上を彷徨い続けるしかなかった

わ、私に文句を言うのはお門違いよ!私が地獄列車を奪わなくたって、渡し守であるあなたの力はとっくに弱まってたじゃない。そもそも長く持たなかったんだ!

お願い、私を信じて!アトランティスを手に入れて、アケローン川に触れられる場所があれば……

しつこい!

死の騎士は、もはや手加減しなかった。鋭い一閃が魔女ハイタンの腕に振り下ろされた。あとほんの少しでも身を躱すのが遅れていれば、腕は斬り落とされていただろう

違う……私は悪くない。私は……ただ彼らを取り戻したかっただけ

あの時、あなたを人間界に戻したのがダメだったんだ……でも、魔城は絶対に渡さないから!

魔女ハイタンは決意したように、手の平を勢いよく地面に叩きつけた

その衝撃で大地が激しく揺れた。魔城を囲むアケローン川の岸辺に真紅の水しぶきが上がった

そこまで私を邪魔者扱いするなら、アケローン川に沈んじゃえ……哀しみも喜びも忘れた、ただの石ころになって……永遠に眠ればいいんだ

ガァ――それ、どういう意味だ?

ワタリガラスは空中でアケローン川の水を避けてぐるぐると飛んでいた

後から、私の手で、あなたたちを創り直してあげる。憎しみも争いも存在しない状態でね

行け……虚無の果てに、あなたたちのために用意された場所に!

彼女はグレイブを高く掲げた。すでに決着がついたはずの戦場に、突如として轟く津波が呼び起こされ、逃れる隙さえ与えられなかった

ヤバい、また大波だ!撤退だ!全員撤退ッ!

大洪水!大洪水!

川から跳ね上がった泡沫が岸に降り注ぎ、死の騎士の身体に触れた瞬間、漆黒の孔がぽっかりと穿たれた

……チッ!

新たな血肉は次々と再生するが、焼けつくような痛みだけは決して消えない

ラミア、私は血の契約者と契約を交わした。だから、あなたが私を完全には葬ることは永遠にできないのよ

保証するわ。私は必ず、またあなたの前に現れる。あなたは私には永遠に勝てない

アケローン川の水はすでに死の騎士の膝まで達していた。水底には強大な引力が潜んでおり、彼女と血の契約者を、深淵へと引きずり込もうとしている

そ、そんなの知るもんか!あ、あなたが戻ってくる度に、何度だって、私がこうやって葬るんだ!

魔女ハイタンは慌てて視線を逸らした

勢いよく上昇し続ける真紅の潮水は、硫黄よりも熱く、鼻腔や喉に焼くような痛みをもたらした

私につかまって、グレイレイヴン!

言葉では言い表せない深淵が四方から這い寄るように覆いかぶさり、もはや息をすることさえできなかった

契約と信念が、ふたりの指を固く結びとめていた

さっき話した川に沈んだ石、まさか自らが体験することになるなんて

考えたことある?死の裏側に、一体何があるのか

その質問に答える人はもういない

死の騎士にしっかり掴まれながら、ともにアケローンの深淵の奥底へと沈んでいった