Story Reader / エターナルユニヴァース / 神寂黙示録 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

城を囲む川

>

――災いあれ、この魔血が流れる地獄に!

風雪にさらされてきた地獄の列車が再び動き出す。天使によって奪われ、聖堂の手に落ちてから数年、ついに「本来の進路」――地獄へと走り出した

地獄列車の運転室は初めて?

地獄の風景は見事よ。ちょうどいいわね。この「リピート」の機会に、ゆっくり堪能なさい

「死の騎士」は再び自らの座席に腰を下ろし、脚を組んで窓の外を見つめた

血の契約者グレイレイヴンと四騎士が列車を奪ったあの日から、しばらくの時が流れていた。今度は、こちらが「地獄の厄介事を解決する」という約束を果たす番だ

列車の下を流れるのは、白い霧に包まれたアケローン川よ

生死の法則が崩壊する前、アケローン川は生と死を分ける境界線だった

地獄に飽きた悪魔は、川を越えて向こう岸に渡る。そうすれば、再び人間の世へ戻ることができる

死の王が……囚われてからというもの、アケローン川は独立し、完全に静止してしまった。川に落ちた魂たちは、川底の「石」の痛みを絶え間なく味わうことになる

その魂も果てしない苦痛の中で新たな「石」になって、川にその身を沈めるのよ

……そういうことね

かつて、人間は至高の御方に抗うために悪魔と手を組み、聖堂へと牙を剥いた

――鞭が鳴り響き、車輪が轟く。馬が跳ね、馬車は荒れ狂ったように突き進む。兵は先陣を競い、剣と槍が閃光のように交錯し、屍が山のように積み重なった

「死の騎士」はそっと目を閉じた。そうすることで、あの時の血戦が、再び眼前で繰り広げられているように感じられる

その後、人間界には永遠の白昼という罰が下された。地獄は生死の法則が断ち切られ、アケローン川はただの死に絶えた水溜まりとなった

そして、ともに戦った側近たちも、死の王の敗北とともに、極刑を受けることになったわ。死水となったアケローン川に沈められ、その身をかき混ぜられ、やがて「石」になった

運悪く落ちた間抜けどもはさておき、私たちを育てたアケローン川に流れているのは、私たちの骨と血。かつてのアトランティスの悪魔もここに沈んでいる

彼女は再びしっかりと目を開けた

「家……」

なぜかしら……その言葉を耳にする度、いつも得体の知れない違和感を覚える。私が人間として生きた数多の生の中に、それが一度たりとも存在しなかったからなのか

かつて私は人間界の戦場で命を落とした。争いの火種は、何も実らぬ塩害地を巡るくだらない領土争いよ。ふたりの貴族が我を張り、ついには挙兵し……もはや茶番劇よね

あの時、私はまだ17歳……世間知らずの若い兵士だった。自ら望んで前線に進んだの

彼女は肩をすくめた

お察しの通り、すぐに地獄へ直行よ

地獄は人間界よりうんとマシだった。前のアトランティスの領主がまだ健在だった頃は、ね

彼女は人間界に戻ることを望まぬ悪魔たちを受け入れ、焚火の谷に収容した。解き放ってはならぬ者を封じ、アケローン川を統べた

彼女は慈悲深く、冷静で、人間たちが称えるあらゆる美徳を備えていたわ。そして、私をも拒まず受け入れてくれた

でも同時に、彼女は狂ってもいた。愚かで破滅的で、死の王とともに人間側につき、聖堂に盾突いた。30年前の聖堂討伐の戦いに加わり、枢機主神を殺したの

彼女は彷徨う魂に安息の地を与えた。そして同時に、彼女に従う魂に罰を与えてアケローン川に投じ、「石」として沈めた

……最後は、彼女自らアトランティス領主の座と「地獄の渡し守」の役目を私に譲った

結局のところ、全ては彼女次第よ。私は彼女の行動を認めてはいないけど、それでも彼女の指骨を口に含み、飲み込んだ

軽々しく彼女を評価しないで頂戴。そもそも、彼女を裁く資格のある者なんて、誰ひとりとして存在しないのよ

さぁ、そろそろアトランティスに到着するわ

彼女の視線をたどると、焚火の谷の底に威容を誇る建物が静かに佇んでいた

――騎士の身分で、聖堂の力を背にした宿敵の前で何ができるだろう?魔城の中央には人魚が立ち、アトランティスは天使たちの守護を受け、鉄壁の要塞と化していた

――アケローンの水はその濠であり、その城壁でもあった

アハハ、なるほどね!あの愚か者が、アトランティスをこんなにも惨めな姿に変えたのね

彼女は戦場を見下ろしながら、静かに目を細めた。そこには、勝利を疑わぬ確信の微笑が浮かんでいた

――列車に乗って現れた復讐者はアケローン川を越え、焦土の辺境の更に奥にそびえる地獄へとたどり着く

グレイレイヴン、今ならまだ引き返せるわよ

確かに契約には地獄の厄介事の解決が含まれているけれど、列車の奪還でもう私は満足してるの。だから無理に付き合わなくていいわ、ひとりでケリをつけられるし

聞いたことがあるでしょう?悪魔が人間の皮を剥ぎ、骨を砕くおぞましい物語。これからあなたが対峙するものは、その100倍、1000倍恐ろしいものよ

その勇気、気に入ったわ、血の契約者さん

領主、大将と一緒に列車をジャックしただろう?それなのに、まだ大将に天使を倒す力があることを信じられないのか?

……つまりこういうことね。あなたのために注意を引いて、援護してあげるくらいの余裕はあるけど、この死に損ないのカラスの面倒までは見れないから

おい!ワシだって……

ワタリガラスは必死に翼をばたつかせて、抗議の意を示した。それを気にも留めず、死の騎士は槍を持ち上げ、その切っ先を焚火の谷の中央へと真っすぐに向けていた

あら?私の兵が出迎えるようね

槍の先に見えたのは、焚火の谷に陣を敷く悪魔軍だった。その隊列はすでに乱れ、長き戦いの果てに、もはや隊列を保つ力すら残されていないように見えた

アトランティスを守れと命じたあの時から……今までずっと耐えてきたのかしら?

皮肉なことに、万悪の根源とされる悪魔にとって、魔城を占拠した天使こそが、まさに悪の化身たる侵略者なのだ

アケローン川の下に広がる山谷では、悪魔こそが故郷を守るために立ち上がった戦士だった

当然よ。彼らは、実に見事に務めを果たした

見える?あの軍旗を掲げて先頭に立つ者

あれがケルベロス、私の最も忠実な部下で、焚火の谷の門番よ

死より甦った騎士?いかにも士気が上がりそうな話ね。でも、少しばかり古臭いわね

……まあ、古くてもなんでもいい。所詮この世界なんてそんなもの。最後まで生き残った者だけが、物語を紡ぐ権利があるのよ

準備はいい?私たちも参戦するわよ

そう言って運転室の扉を勢いよく引き開けた。ギィィと軋んだ音が決意を物語っていた

荒れ狂う風と濃い霧が、こちらの髪を激しく揺らす。それでも、目に燃えるような鋭い光を灯しながら、騎士の後続をただ黙って待ち続けた

……お節介で、すぐに英雄ぶりたがる。まったく、人間らしいわね

じゃあ、時間の無駄はもうおしまい

「死の騎士」はそっと手を差し出し、運命共同体である血の契約者を引き寄せると、勢いよく宙へと身を投じた

行くわよ、血の契約者!

焚火の谷の深奥、幾多の試練を乗り越えてきた軍隊が今再び魔城へと新たな攻撃を仕掛けようとしていた

忠義の者は変革の兆しに気付いておらず、ただ殺戮というスパイラルの中で与えられた、変わることなき役目を粛々と果たしていた

ビビって俺についてこれねぇってんなら……とっとと失せろ

焚火の谷を越えられるイカした馬と、金貨がタンマリ詰まった袋を持って行きやがれ

あんな聖堂の犬どもにビビってるチキンにゃ、安心して背中を預けられねぇからな!

魔城を血祭りに!首を死の王に捧げよ!

悪魔戦士たち

死の至高なる威光のために――

咆哮が重なり合い、血で奏でられた鎮魂歌となって、焚火の谷の空に轟いた

殺れやァ!!!

焚きつける熱風が、腐乱死体の臭気をまとって顔をなでる。まさしく、死の匂いだ。地獄に満ちる空気であり、魂を養う糧でもあった

戦士たちはすでに勝利への興味を失っていた。聖堂もまた、血が川のように流れ続ける光景をただ眺めていた

そして陣列の向こうでは、忘れ去られた言葉が恐るべき呪詛となって響いていた

どうしてよ……せっかくアトランティスを取り戻したのに、まだ私を縛ろうとするの……?だって全部、もとは私のものなのに……

使者……あいつらを死なせて!

焼き尽くせ!!

人魚に操られた眩い稲妻が戦場を切り裂くように走り抜けた。狼の爪が振り下ろされると同時に、秘法門が開いた

醜悪なる白き天使が門から這い出てきた。遠目にはイナゴの季節に湧く、虫の卵の群体のように見えた

わざわざ這い出てくんなって……どうせ今日は、テメーらの命日だよ!

皆殺しだッ!!

死の騎士とともに、焚火の谷の側までやってきた。魔城の輪郭が徐々に明らかになっており、遥か彼方には、山の背をなぞるように赤い雲が垂れこめている

アトランティスの尖塔は上空を流れるアケローン川に向かってまっすぐに伸び、まるで人間界を突き刺そうとしているようだった

アトランティスでは、悪魔の大軍が天使の白き奔流と絡み合いながら、激しい死闘を繰り広げていた

戦士たちよ……略奪せよ!この戦場を蹂躙しなさい!

鉄と血が染め上げる戦場の上空から、ひときわ高らかな呼び声が響き渡った。それに応えるように、ワタリガラスが不吉な啼き声を上げる

?!

悪魔の将軍は自分の耳を疑った。思わず見上げたその先で、炎のような赤い人影が轟音とともに大地へと降り立った。その者は双頭槍を支えにしながら、静かにその身を起こす

魔城の各部隊に告ぐ。私が再び指揮する、敵陣を突破せよ!

ヒャハ!この醜いやつらにワシらの力を見せつけてやれぃ!

力強い声が谷間にこだまし、夜明けの到来を告げた

死の騎士の呼び声は、天使たちの注意をも引きつけた。ひときわ醜悪な白い天使が、声の主を目がけて襲いかかってきた

彼女の隣で、焚火の谷に場違いな自分を自覚しつつも、的確に行動していく

生き血を宿した弾丸が銃口を離れた瞬間、四方へと散り、鋭利な死の破片と化す。その一発一発が、歩く屍のような天使たちの身体を容赦なく引き裂いていく

騎士の双頭槍が唸りを上げて振るわれる度、燃え盛る刃は斬り裂かれた白い皮膚を纏い、やがて戦場の中でひときわ眩い白い旗と化していった

まるで太古の神が再び姿を現したかのように、あるいは、聖堂が天地を創りし最初の時代に遣わされた使者のように

騎士は武器を高く掲げ、穂先を陣の正面に向け、高らかな雄叫びを上げた。その声は、どの悪魔の咆哮よりもはっきりと戦場を貫いた

死の騎士と血の契約者が戦列に加わった!見よ、決して孤軍ではない!

魔城が今より1000年の時を越えてそびえ立った時、聖堂にはこう記されるだろう――

地獄に刃を向ける無知な獣どもに与えられる結末は、死のみ!

戦士たちよ!槍を振りかざして、盾を突き破り――

アトランティスの城門へ、進め!!!

アケローン川の渡し守、不滅の悪魔の領主、そして、「死の騎士」

彼女が帰還した

炎のごとき旗を掲げ、刃のように鋭い叫びを放ち、魔王の福音をこの地に知らしめた

シャシャ!もう戻ってこねえかとよぉ!

最高潮だろ!どうだ、この歓迎パーティ、なかなかイカすだろうが!

忠臣は鉄の腕を振りかざし、群がる天使を一撃で貫いた

悪魔戦士たち

領主様だ!

領主様が帰ってきた!

悪魔戦士たち

やれ、やっちまえ!魔城を奪還するんだ!!!

黒鉄の鎧が、惨白の奔流を裂いて道を開く。雷鳴のような足音を響かせながら、悪魔の戦士たちが蹂躙する。人間界より帰還した指導者に迷いなく従いながら

死の騎士は常に一歩先を進んだ。誰よりも早く、魔城の城門を目指して

馬に乗って追従しなさい!血の契約者!

飛ぶように馬にまたがった。蹄鉄が天使の亡骸を踏み砕く音が心地よく響く

悪魔戦士たち

魔城を血祭りに!首を死の王に捧げよ!!!

悪魔!殺ス!殺ス!!

抹殺!!!

長い年月、轟くことのなかった歓喜の咆哮が、屍の山と血の海をかき分けて、寄せては返す波のように戦場を揺るがした

天使たちもまた、戦列の先頭に立つ燃え上がる炎のごとき人影に気付いた

……渡シ守?

グアアアアッ!

双頭槍が寸分の無駄もなく白い人型を貫いた。人型は騎士の顔を確かめる間もなく、汚れた水の塊と化した

聖堂の犬が、私の名を口にするなんて億年早いのよ

天使の大群の悲鳴が魔城の外に響き渡った。静かに確実に、恐怖が魔城を支配し始めていた

士気を上げた悪魔の戦士たちは、咆哮とともに歓喜の歌を響かせた。彼らは勝利の喜びを胸に、閉ざされた城門へと猛進していった

油断しないで。あの魚女のこと……

そろそろ、ご登場よ

死の騎士が言葉を終える前に、硫黄の雨が降ってきた

混沌渦巻く戦場の最前線、その先の城門の前に、魚の尾を持つ神秘的な女性が立っていた

……

彼女は少しだけ空を仰ぎ、降り注ぐ火の雨をその頬で静かに受けとめていた

魔女ハイタン……

自嘲、不満、忍耐、そして憤怒……長年沈んでいた記憶の澱が、一瞬にして死の騎士の脳裏に蘇った

あの列車への潜入を、そして、聖堂から盗まれた卵のことを思い出す

アトランティスでの幾千の夜と、戦いの果てに散っていった先人たちを思い出す

数えきれぬ錯綜した運命と、自らの手で終わらせなければならない結末を思い出す

私が、戻ったわよ