やっほー!目的地についた!
ナナミとアルカナはパワーの高速飛行で半日ほど飛び続け、来る前に見つけた信号源の座標に到着した
ここからは自分たちで探さなきゃ……よいしょっと!
アルカナ、大丈夫?乗り物酔いしてない?
お気遣いありがとうございます、機械体は乗り物酔いなどしませんから……セージ様、ここは覚醒機体がいるような場所とは思えませんが
うん……「OAKES」が無事だといいんだけど。レッツゴー!
アルカナは廃墟と化した街を見渡した。周囲には銃弾に倒れた機械体が散乱している。パニシングに影響されたものや普通の機械まで破壊され、うち捨てられていた
これらの機械体が間違った道を歩み、セージ様の啓示を受ける前に機能停止してしまうのは……残念でなりません
アルカナは首を振り、廃墟に転がっていた錆びた機械体の頭部を抱きかかえた
いえ……機能していたとすらいえませんね。造られてから壊れるまで、彼らは人類の道具にすぎなかったのですから
アルカナ……
覚醒機械と名乗る我々の集団でさえ……真の機械覚醒を完了していません。セージ様、あなた以外は
ですから、あなたが何を考え、何を愛しているのかを我々も理解すれば、いつかあなたと同じ領域に達することができるかもしれません
そっか……アルカナもそう思う?
アルカナは頷いてナナミの視線を受け止めた
機械教会の指導者代行として、皆の「ママ」として、私には皆のためにこの答えを見つける責任があります
私が覚醒できれば、真に理解する信者としてあなたがいつか宇宙の果てまで旅をする時も、ずっとお傍におります
スキップしながら前を歩いていたナナミは、自分の足跡を振り返りながらニッコリと笑った
でもナナミはね、機械教会のみんなが私に従わなくてもいいと思うの。むしろ、ナナミやみんながお互いに友達になれるだけでいいのにって思う
みんなが同じ思いを持って機械教会にいてくれたらいいな。単に覚醒をするためだけじゃなく、ここで本当に自分の好きなことを見つけてほしいの
せっかく機械から生まれた命を手に入れたんだから、世界をうーんと楽しまなきゃ
いつかナナミとは違う方向で、新たな機械の覚醒の道を開拓する誰かが教会に現れるかもしれないし
アルカナは足を止め、ナナミの言葉の可能性を考え込んでいたが、結局は首を振った
セージ様、やはり私にはあなたの考えが理解できません
機械教会のメンバーは、セージ様によって愚鈍な道具から自我を持つ「命」になれたのです。真に覚醒するためには、あなたの道に従わなければ
皆、セージ様の思想や意志に背くことも、異なる道に進むこともありません……誰もセージ様の導きから離れることなどないでしょう
誰の導きかなんてただのきっかけでしょ?ナナミがいなくても、アルカナがみんなを率いて、少しずつ集まってきたじゃん
山道を進むにつれ、次第に足下が悪くなってきた。ナナミはアルカナの手を引いて険しい丘を進んだ
でもセージ様の導きがなければ……私たちは取り返しのつかない過ちを犯すところでした。あなた様が予見した、あの最悪な未来へ向かおうとしていたのですよ
教会の規模が大きくなるにつれ、アルカナは本部で長い間過ごすようになった。機械の体で大地を歩くことには不慣れになっている
でもアルカナがいなければ、みんながここの機械体みたいに鉄屑になってたよ。こうやってナナミたちが覚醒機械を助けに、今日ここへ来ることもできなかったはずだよ
ナナミはこれから誰かを助けられるかもしれないけど、ここまでにみんなを救ったのはアルカナでしょ。それってアルカナ自身が望んだことだよね?
私自身が望んだ……?
でもその願いも、セージ様の啓示から生まれたものです。あなたの導きなくしては、私たちはひとりで進むことはできなかった
ナナミはいたずらっぽい笑みを浮かべ、人差し指をアルカナにつきつけた
オッホン。それじゃあ……セージ·マキナのナナミ様が、アルカナに「ナナミの意志に従うのではなく、全て自分の意志に従うように」と命令したらどうするかな?
あなたに……従わず……私は……
アルカナはたまらず全アルゴリズムを駆使して、ナナミからの問いの仮説を立てたが、それは彼女の理解できる限界を超えていた
ゴメンゴメン!ちょっとジョークを言っただけ……アルカナ、真に受けないでよ~!
アルカナは無言で首を振り、ナナミに向かって丁重に頭を下げた
いえ、セージ様のその命題は非常に意義のあるものです。私は……よく考えてみます
何か思いついたら、ナナミに教えてね!
アルカナは前を歩くナナミを見て、遠い昔のことを思い出した。崩れかけた教会に捨てられた自分が初めて見たものは、ある少女が偶然に残した絵だった
アルカナと呼ばれる存在が考えるようになったのは、その日からだ
はい、わかりました。どんなに時間がかかっても
ナナミは自分の端末を取り出すと、座標情報を映し出した
うん、そろそろ目的地だね!え、待って……
セージ様?
見て!「OAKES」のランクが5位にまで上がってる!もうすぐナナミを超えちゃうよ……スゴすぎ!
ナナミは順位を抜かれそうなことに悔しそうな一方、喜びで浮かれてもいた
この新しい仲間もナナミと同じで……きっとゲームが大大大大~好きなんじゃない?
ナナミ、彼といいお友達になれそう!アルカナ、早く行こうよ!
ふたりはほどなく目標の覚醒機体を見つけたが……
イイエ、ワタシハ『ノルマンヒーロー11』ハキライデス……電子ゲームモ、キライデス
会うや否や「ゲーム大好きだよね!?」と問うナナミに、「OAKES」という名の機械体は特に反応もせず、コントローラーをカチャカチャと操作していた
う……なんでよおおおおお!!
どんな大きな危機を前にしても楽観的な笑みを浮かべるナナミが、この時ばかりは失望して嘆いた
アルカナにはこの部屋が外の廃墟に比べて豪華な造りに思えた
初期型の小型浄化塔が設置されているとは……道理でここはパニシング濃度が低いのですね。でもこんな技術は一般家庭にはないはず……自作されたのですか?
アルカナが「OAKES」に訊ねても、彼はまったく聞こえないかのようにコントローラーを操作し続けている
セージ様……見たところ、この同胞の覚醒レベルはあまり高くないようです
アルカナは失望を隠しきれず首を横に振ったが、どうであれ、この機械体を説得して機械教会へ連れ帰るべきだと考えた。彼女は姿勢を正し、目の前の機械体にささやいた
改めて自己紹介を。私たちは自我の意思に目覚めた機械体が構成する、機械教会の者です。セージ·マキナ様の指導により、覚醒機械の未来を探しています
機械教会ではパニシングや人類の脅威を心配する必要はありません。ここを離れ、自由になれるのですよ
機械は理性的だ。アルカナは、この機械体の思考回路が損傷していない限り、自分の提案に同意すると確信していた
オ断リシマス……『ノルマンヒーロー11』デ、ランク1位ヲトルマデハ、ココヲ離レマセン
がっかりしていたナナミは彼の言葉を聞いて元気を取り戻した
やっぱりゲームが大好きじゃん!
違イマス。ゲームニハ何ノ感情モアリマセン。コレハタダノ……仕事デス
そう話す間にも機械体はまたゲームをクリアし、ランクは2位に更新された。1位のナナミとのスコア差ももう僅かだ
アナタタチノ提案ハ無意味デス。『ノルマンヒーロー11』デランク1位ニナルト、私ノ人格データハ削除サレ、ロジック回路モ、完全リセットサレマス。――私ハ死ニマス
覚醒した機械に死という概念はほとんど存在しない。長い寿命と交換可能な部品によって、彼らは死を考慮する必要がない。アルカナには理解できなかった
それは……セージ様に対する冒涜です。セージ様の導きで、私たち機械体は幸運にも生命を得ることができたのに。なぜそんなことを?
機械体は「フン」と鼻を鳴らし、説明もせず、再び画面の中の戦闘に集中した
アルカナが再度問いかけようとした瞬間、ナナミの言葉がそれを遮った
「OAKES」……オークスってあなたの名前じゃなくて、この男の子の名前なの?
ナナミは部屋の中の写真立てを手に取った。そこにはふくれっ面の小さな男の子と機械体が一緒に写っており、その背景はまさにこの部屋だった
写真立てには「OAKES MIADI」という名前が書かれていた