Story Reader / ペルソナコリドー / 一緒に遊ぼう! / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ゲームのために

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出てけよ!薬なんていらない!

オークス坊ちゃん、リチャード先生の言いつけ通り、薬をちゃんと飲まなければ病気は……

みんな嘘つきだ!この前は薬を飲み続ければ学校に戻れるって言ったのに、まだ家に閉じこめられてるし……とにかくもうあんな薬は飲まない、ゴホッゴホッ……

坊ちゃん……

オークスは幼少期から体が弱かった。高慢で偏屈な性格のせいか、友達もいなかった

ユニバーサルトイグループの社長である父がこの大邸宅に戻ることはほとんどなく、息子を心配する様子もなかった

しかし近頃、彼は楽しく学校に通えるようになった。毎日、家に帰ってきてからの笑顔も増えていたが……

残念ながら彼の病状は悪化し……通学も諦めざるを得なかった

もういいよ、用がないなら出てけよ……

一礼して部屋を離れようとしたメイドは、彼が喜ぶであろう今日の出来事を思い出した

坊ちゃん、今日坊ちゃんが検査されている時に、お友達がいらっしゃったんですよ……

みんなが来てたの!?なんで言わないんだよ!

珍しくオークスは興奮した表情を浮かべた。年相応の子供らしいその様子を見て、メイドの心も思わず和んだ

皆さん、心配していましたよ。それから、坊ちゃんが元気になられたら一緒に遊ぼうって……あの……何といいましたっけ……

『ノルマンヒーロー』、何回言ったら覚えるのさ

ああ、そうそう、そんな名前でした。それに坊ちゃんに頑張って欲しいと、プレゼントまで

プレゼント!?もしかして……

いい子にしてお薬をきちんと飲まれたら、プレゼントをお渡ししますね

ちょっと、僕を脅す気……?

ほんのちょっと苦いだけじゃないですか。坊ちゃんは苦いのがお嫌なのですか?

オークスはチッと舌打ちをすると、顔をそむけたまま手を差し出した

持ってきて……薬を飲むくらい誰でもできるさ

メイドは微笑みながら、錠剤と簡素な包装のプレゼントをオークスに手渡した

やっぱり『ノルマンヒーロー11』だ!もう発売してたんだ……でも……

一瞬輝いた瞳が、すぐに曇った。リチャード医師が病気に悪いとゲーム機を没収したからだ。新しいゲームソフトを手に入れても、彼は眺めることしかできなかった

先生は没収しろと仰いましたけど……忘れっぽいメイドが、掃除中、ベッドの下にうっかり何かを置き忘れてしまったかもしれませんね

本当!?

でも、遊ぶのは毎日少しだけですよ……それと……

「……リチャード先生には内緒」!

あっという間に冬になり、雪が降り始めた。だがこの豪華な黄金時代の大邸宅は寒さとは無縁だった

しかし、希望の灯は次第に消えていく

坊ちゃん……今日のお薬です……

オークスは見ることもなく薬を口に流し込んだ。あれほど嫌がった苦味にも、もう感覚が麻痺しているようだった

毎日の服薬も虚しく、オークスの病状は悪化するばかりで、今では歩くことすらままならない

狭い部屋に閉じ込められたオークスにとってゲームだけが唯一の支えだ。その中では冒険の世界が無限に広がり、なんでも話せる仲間がいる

彼はコントローラーを取ろうとしたが、めまいのせいでベッドの近くに落としてしまった。懸命に手を伸ばしたが、体を動かすこともできない

こんな使い物にならない体なんて……あのヤブ医者に頼んで、バイオニックにでも改造してもらった方がマシだ

オークスは両足をガンガンと激しく叩いたが、それでも微かな痺れしか感じられない

義肢治療の技術は発達していたが、オークスの病気は、一部を取り替えたところで治らないものだった

なんてことを仰るんです!そんなことをしたら……もう人ではなくなるんですよ!

黄金時代、ユニバーサルトイグループが開発したバイオニック技術は、構造体テクノロジーの先駆けだ。まだ認知度は低く、倫理的な面で大きな問題もあった

この善良な老齢のメイドはオークスに黙っていることがあった――リチャード医師がオークスの父に頼まれ、オークスのバイオニック改造の可能性について密かに調べていることを

(あの人たちはなんてことを……オークス坊ちゃんは人間だというのに)

フン……言ってみただけだよ。機械体なんて……人間を真似したただのオモチャだ

オークスはそんな馬鹿げた考えを振り払うかのようにブンブンと頭を振った

最近……学校の友達がこのゲームでランキング1位を目指そうって誘ってくれたんだ

それはいいですね、お友達と遊ぶのはきっと楽しいでしょう。先生も楽しいことをするのは身体にもいいと仰ってましたし

でも僕、断ったんだ……この体じゃ、ランキング1位どころか……父さんの会社が作ったゲームなのに、みっともないよ!

坊ちゃん……

そうだ……機械体を、僕自身が機械体になれなくても、もしスコアアップの「道具」として使えれば……

ねえ、父さんに連絡してよ。会社で最新の機械体をちょうだいって……僕がもうまともに動けなくっても、それなら許されるでしょ

ほどなく1台のユニバーサルトイ社が新開発した知的機械体が邸宅に届いた。機械体が各方面に投入されていた黄金時代、専門分野に特化した機械体も大量生産されていた

初期設定完了。コンニチハ、アナタガ私ノゴ主人様――オークス様デスカ?

そうだよ。へえ、こんな鉄クズでもちゃんと話せるんだ……さすがうちの会社の新製品だ

本機体ノ通称ヲ「鉄クズ」デ登録シマスカ?

いや……名前なんていらない。お前はただの道具、わかった?

機械体は人間を真似て頷いた。これはオークスが理解できないことのひとつだ……人間の真似をすることに何の意味があるのだろう

承知シマシタ。命名ヲ、スキップシマス……私ハドノヨウナオ手伝イヲイタシマショウ?

面倒だな……自分で判断できないの?知的機械体なんだろ……

私ガ、自分デ判断ヲ……?

機械体は難しい演算をしているのか、しばらく反応を示さなかった

壊れたのか?もういいや、それは置いといて、お前に仕事をやるよ

モチロンデス。ドンナ仕事デショウカ?

機械体はようやく理解できる命令を聞いて、先ほどの問題の優先順位を、ひとまず後回しにした

オークスは嬉しそうにゲーム『ノルマンヒーロー11』の箱を開け、機械体の前に置いた

ねえ、これが何かわかる?

コレハ『ノルマンヒーロー11』デス。今年発売ノゲーム機「TR-1200」の『ノルマンヒーロー』シリーズノ、ゲームソフトデアリ……

おいおい、データベースを読み上げなくてもいいよ……このゲームで遊んでほしいんだ

確認シマス……仕事内容ハ、私ガ……ゲームデ遊ブ、デスカ?

技術の発展とともに、知的機械体は人間の生活のあらゆる場面で人間の仕事を分担し、支援した。だが「ゲームで遊ぶ」という仕事はこれまでなかった

確認確認って……僕の言う通り、このゲームをやればいいの。そして、ランキング1位を取るんだ!

確認シマス。任務完了ノタメ、侵入スル必要ガアル対象サーバー内ニ、チート対策システムガアリマス。コレハ違法行為デス……

機械体が言い終わる前に、オークスは機械体の頭をコツンと小突いた

バカ!誰がハッキングしろって言った……これを持って!

オークスは持っていたコントローラーを機械体の手に押し込むと、自分の両手を開いて見せた

これは何だ?

ゴ主人様、アナタノ手デス

オークスは機械体の手を指さした

じゃあこれは何だ?

コレハ、私ノ手ノパーツデス

違う。今日からお前の手は僕の手だ。わかった?

お前はその手を使って、僕の思いつく考えや操作を試してみてほしい……人間のやり方でね

本機ノ知能シミュレーションプログラムヲ、直接電子デバイスニ接続スレバ、演算時間ヲ大幅短縮シ、最適解ヲ得ラレマス

そんなことをして何の意味があるんだよ……

意味トハ、ナンデスカ?

オークスはイライラを我慢できず、機械体の頭部をゴンゴンと叩いた

よく聞け、僕はあいつらに最高優先の命令をプログラミングさせた。オンラインランキングで1位を獲得したら、操作記録が保存されて、お前の人格データは全て削除されるんだ

僕は「自力で」1位を取りたいんだよ。だからお前は最初から最後まで僕の道具なんだ。わかったか?

オークスは機械体を怒鳴りつけながら、最後の自尊心を保とうとしていた――それは彼が自分に許した最大の「チート」だった

機械体にはなぜオークスが意図的に効率を下げ、自身に多くの制約を課すのか理解できなかった

しかし彼はただの機械体だ。自分の行動に意味を求める必要はなく、プログラムコードで設定されたやり方に従って動くだけで十分だった

機械体は主人から渡されたコントローラーをそっと握り、指示通りにゲーム内のキャラクターを操作し始めた

その時初めて、機械体はこの仕事が予想以上に難しいと気付いた――機械の手とゲームコントローラーの間には隙間と誤差があり、脳内の計算結果も、実際の状況とラグがある

更に誤って電源を切らないよう、小鳥の声に気を取られて重要な効果音を聞き逃さないように気を配る。全てが挑戦だ――機械体でも、この初挑戦は学ぶ時間が必要だった

機械体が不器用にゲームをこなしていく。その姿を見たオークスは、笑いだすことはあっても、怒ったり嘲ったりは一切しなかった

バカだなぁ……でも大丈夫、もう一回やってみろ

「リスタート」ボタンを押すだけで、挑戦は再び始まる。機械体はアルゴリズムを駆使し、手に持ったコントローラーと目の前の画面に集中した

オークスは彼の側でスコアを上げるための方法を常に考えた。挑戦が進むにつれ、機械体の順位は確実に上がっていった

ある日、窓の外のうるさい鳥の鳴き声は聞こえなくなり、主人からの指示もなくなった。目の前の画面も真っ暗なままだ

検査結果、電力ガ切断サレマシタ。原因不明……任務続行不可能

機械体はオークスに任務指示を変更するよう求めたが、返事はない。機械体は長い年月、返事を待ち続けた

そしてなぜか、機械体にこの場所を離れてオークスを探しに行くという考えが芽生えた

しかし大邸宅から離れた途端、恐怖に怯えた人々に襲撃され、破壊された。その時初めて「パニシング」という言葉も耳にした

破壊された機械体はぞんざいにゴミ捨て場に放り投げられた。しかし幸い機械脳はそれほど損傷せず、スリープ状態のまま何年も月日が流れていく

そんなある時、突然、外部エネルギーの接続情報を感知し、長かったスリープ状態から再び活動し始めた

マダ完全ニ停止シテイナイ……同志……

視界を取り戻した機械体は目の前の異物を見つめた。データベースの記録によると、これは芸術家が塗料を噴きつけるスプレーマシンだ

同志トハ、私ノコトデスカ?

君ノ体……私タチガ直シマシタ……

スプレーマシンは、ゴミの中から機械体を引き上げると、彼にゴミ置き場の反対側を見せた――そこにはカラフルな絵に彩られた壁があった

同志……私タチノ新シイ作品……セージノ意志ヲ……脳ニ刻ミコムンダ……

その絵を視覚センサーで機械体の分析コアに取り込むと、これまでにないデータが、海のように電子脳を満たした

私ハ……私ハ……

体を揺らしながら進むスプレーマシンの後ろを、たくさんの機械体がついていく

同志……同志……私タチハ……セージヲ……見ツケル……

機械体はためらい、その流れの中で立ち止まった。周りの機械体とともに進もうとはしなかった

その場に立ち止まったまま、先ほど優先順位を後回しにした問い――主人から投げかけられた問いについて考え始めた

オークス様、私ガ本当ニ、ヤリタイコトハ……自分デ判断スルシカナイノデスネ?

機械体はふと、引きちぎられたコントローラーを持っていることに気付いた。ボタンを押してみると、懐かしい感覚を覚えた

機械体は……なぜオークスが自分にゲームを教え、なぜ『ノルマンヒーロー11』のランキング1位に執着していたのかを知りたかった

本当にその目標を達成できれば、何か理解できるのかもしれない……しかしそうなれば、機械体の人格データは完全に削除されてしまう

……

彼は歩き始めた……機械体たちの流れとは逆の方向へと。彼は初めて、明確な答えを持たずに、荒野のような未来へ向かって進んでいった