こんにちは……
少女は半分崩れ落ちた木のドアをノックしたが、当然、返事はなかった
時折、生き残った人間が隠れていたが、彼らはナナミの姿を見ると悲鳴を上げて逃げ惑う――たとえ見た目は人でも、パニシングが爆発した今、他所者は警戒される
しかしそれはいい兆しでもあった。扉の向こうに潜む、狂気に染まった多くの侵蝕体なら、迷うことなくナナミに襲いかかってくるからだ
ふう……あの変な赤い目の機械たちがいなくてよかった……
ナナミの身体は黄金時代の最先端技術の粋を極めたものだ。自己修復機能はあったものの、何度も損傷したせいでその機能は失われてしまった
おそらくその修復機能の本来の用途は戦闘用ではなく、人間として生きる際、うっかり怪我をした時に自然治癒できる程度のものだったのだろう
ちょっとお邪魔しまーす……
ナナミはボロボロに朽ちたドアをそっと押し開け、かろうじて室内らしき……廃墟へと踏み込んだ
ジャーン!ジャジャジャーン!
ナナミがうっかり何かを踏みつけた途端、部屋の中のディスプレイがチカチカと光り、楽し気な音楽が流れ始めた
――「小さき英雄よ!世界を守れ!」
これって……
ナナミは瓦礫に埋もれたコントローラーを拾い上げた。操作してみると、画面の中の小さなキャラクターを操り、空想世界を冒険することができた
君もナナミとおんなじ、知らない世界に突然放り出されたんだよね……じゃあ、ナナミが助けてあげる!
初めてコントローラーを操作し、画面をピョンピョン飛び跳ねるキャラクターを見て、ナナミの心は弾んだ。両親や生まれ故郷を離れて以来、初めて純粋な喜びを感じた
人類ってほんとスゴイ……簡単な数字とコードでこんなに面白い世界を創り出せちゃうなんて!
ナナミや他の機械体たちも最初はこんなふうに造られたのかな……そうだったらいいなぁ
でもナナミ、他の人類に会えるのかな……人類が創造した世界もたくさん見れたりするのかな?
世界にはナナミと同じように、赤い目の変な侵蝕体にならない機械体や、ナナミを友達って認めてくれる人類がいるかも……
ナナミは唇を尖らせ、これからのことを考えようとしたが……頭で考えるよりも行動する方が慣れている
とにかく、まずは探してみなくちゃね!そうだ……このゲーム機も持っていこうっと。スキャン開始!
名前も知らないゲーム機のスキャンは、瞬時に完了した
こうしておけば、材料を見つけた時に組み立てて遊べるもんね!
突然、ナナミは何かひらめいたようにパンッと手を叩いた
そっか、ってことは、ナナミも新しい体も作ればいいんじゃない?それなら、あの赤い目の変な機械体たちを怖がることもないんだし
そうすればナナミはずっと旅を続けられるし、友達になってくれる相棒も見つかるかも
最後にナナミは画面の中のキャラクターを見て、突然新しいアイデアを思いついた
んー、見た目は……このゲームを参考にしよう!
いつの間にかランキングがオンラインモードに切り替わってる!
ナナミはランキング画面の上部を指差した。そこにはオンライン状態を示すマークが表示されている
でもこの新しくランクインした「OAKES」って一体誰?
「OAKES」というプレイヤーがセージ様でないなら……別のプレイヤーということですか?
うん……そうとしか考えられないよ
でもネヴィルはこのゲームは黄金時代の物だと……まだプレイする誰かがいるのでしょうか?
そんな人がいるとして、きっとお爺さんかお婆さんだよね……
仮にそんな人が本当にいても、オンライン接続は無理です。パニシング爆発後、ゲームのサーバーはおろか、全世界のウェブサーバーが停止していますから
変だよね、今まで一度も接続されたことがないのに……自力で独立サーバーを立ち上げたにしろ、今の時代にそれができる人がいるはずないし。普通の人なら絶対ムリだもん
人類ではないのかも……覚醒機械体では?
彼女たちがあれこれ推測する間に「OAKES」は更にランキングを上げた――この新しくランクインしたプレイヤーはバグなどではなく、本当に存在すると証明するかのように
スゴイ!この調子なら、ナナミの順位、塗り替えられちゃう……
でもお互いオンライン状態ってことは、直接誰なのかを訊くチャンス――プレイヤー同士だもん、ゲーム内で交流しちゃえばいいよね!
「ハロー、OAKES?私、NANAMIだよ~」
「?」
「ドウヤッテ、サーバーニ接続ヲ?」
「ランキング1位NANAMIデスネ」
「そうだよ!NANAMIだよ!」
「アナタモ機械体デスカ」
「ばれたか~!どうしてわかったの……も、ってことはあなたも?」
「人類ニ、コンナハイスコアハ無理デス」
「そんなことないよ、人間にも私よりすごいプレイヤーがいるよ」
「私ハアナタヨリモ高イ、最高スコアヲトリマス」
「ほんとに~?フフン、でもナナミだってすごいもんね!」
「オークスハ、アナタヲ超エテ、最高スコアヲトリマス」
ナナミが次の話をしようとする前にオークスは通話を切断し、もう接続できなかった
確かに彼は覚醒資格のある機械体のようですが、セージ様とはあまり交流したくないようですね。ランキング1位を取ることだけが目的のようです
アルカナは機械教会創立の初期に、多くの覚醒機械体を探したことがある。彼らはさまざまな理由で、おかしな癖や特徴を持っていることがあった
だとしてもゲームに執着するこの機械体は、彼女にとっては理解しがたいタイプだ
もし彼が覚醒機械だったら、アルカナはどうするの?
私たち機械教会は同胞を見捨てません……彼を見つけ出し、あなたがしたようにセージ様の啓示を与えます
機械教会の大型情報交換中枢「グレイタワー」のアルゴリズムを使えば、ネットワークに接続された端末を探すのは簡単だ
他のみんなは忙しそうだし……
じゃあ、今回はナナミとアルカナのふたりで彼を探しに行こうよ!
アルカナは少し驚いた様子だったが、ナナミが差し出した手に軽く頭を下げた
わかりました、同行いたします