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ER12-5 旅立ち

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ヴィラは、2個目のリンゴをゆっくりと剥き始めた。すっかり慣れたこの動作を通して、彼女は記憶を引き出そうとした

パニシングが発生する前のあの夜と同じように。彼女はまた、ある目的のために、過去をひとつ捏造しようとしていた

ナイフの下のリンゴの皮は、切れるか切れないかのところで繋がっている。ヴィラは頭の中でざっくりと「あらすじ」を組み立ててから、話し始めた

普通の両親の下で育つ機会すらなかったわ――生まれてすぐに両親を亡くしたの

何を謝るの?黙って聞いていて

幸せな始まりではなさそうでしょ?

まさか、慰めてる?

ヴィラは、またふっと笑った

好きに言えば。私は、自分がどんな物語の中で生きてるかなんて気にしないから

私は……小さい頃から親戚の家を転々としていた身よ。その家で不要になれば次の家へ押しつけられる。「疫病神だ」と言われては、また追い出される

私は、小さい頃から親戚の家を転々としていた身よ。その家で不要になれば次の家へ押しつけられる。「疫病神」だと言われては、また追い出される

両親が少なくない遺産を残していたらしくて、私のことを気に入らなくても、分け前目当てに一応は置いてくれた。分与欲しさに醜く争う連中を腐るほど見てきたわ

それでも私は、黄金時代の残照の恩恵を少しだけ受けられた。少し成長してからは、自力であの連中の下を離れる術を探したわ

あの頃、人々の目の前にはかつてない平和な時代だけがあって、パニシングの災厄が迫っているなんて、誰にも予想できなかった

人々はより安定した暮らしを望んだ。私もね。勉強も運動神経も悪くなかったし、進学先に士官学校を選んだ――私には安定したキャリアという計画があった

ええ。厄介な親戚たちから解放され、政府提供の寮に住み、成績がよければ士官として平和な地域に派遣される。数年は楽に過ごせるかも、ってね……

どうしてそう思う?私が一見、真面目そうに見えるわけ?

ふぅん……半分は正解よ

彼女は言葉を慎重に選びながら話したが、捏造した「あらすじ」と、彼女の経験した「真実」との境界は次第に曖昧になっていった

学校の授業は、だいたいはとても真面目に取り組んでいたと思う。他のことに関しても、自分は「控えめ」な方だった

当時、いくつもの財団や組織から声がかかってたわ。契約すればそれなりに贅沢な物資支援があって、進学や、私の「搾取」された財産の埋め合わせにはいい話だった

いいえ、どれも受けなかった。理由は、私が「うまい話には裏がある」って思ったからよ。契約させて何か企んでるんじゃないかって、そんな風に思ってた

でも、今思えば大したことじゃないわね。「契約を結んだら死ぬ」状況になったのは、パニシングの爆発以降よ。秩序と繁栄があった黄金時代は、やっぱりそれなりだった

後もうひとつの理由は……アハ、自分は「できる人間」で、一種の処世術があるって思ってたの。でも実際は全てにおいて一番を目指し、多くの選択肢を得たかっただけ

……くだらない選択肢よ。「選択」とすら呼べない、受け身なもの

ヴィラは過去を思い返すように目を細め、リンゴの皮をザクリと切り落とした

当時、恵まれた家庭の学生たちの卒業後の目標は、後方勤務に就くことだった。だけどそれを叶えるには、彼らの代わりに厳しい場所で「重責を担う」人が必要だったの

リーダーシップやカリスマ性のある学生の目標はいかにのし上がるか。前線だろうがどこだろうが、権力を握る側になりさえすればいい。そういう人は大抵「派閥」に所属するわ

そして……さまざまなタイプの戦友たちが、私のような人間に目をつけた。成績は優秀だけど、後ろ盾や家族はなく、友人も少ない、そういう人間にね

最初、彼らは利益を分け合うなんて口実で、気前よく招待状を「恵んで」くれたわ。私がペコペコしながらすがってくると期待してね

あら、わかってるじゃない

ヴィラは一瞬目を向け、再びリンゴの皮を剥き始めた

その通りよ。私は全然「気が利か」なかった

彼らは苛立ち、私の進路に小石を転がし、私がつまづくよう仕向けた――訓練中の小さなミスや、任務中にトラブルを起こさせて、私を「問題児」扱いした

彼らの蜘蛛の巣の中で私が諦めずにもがき続ければ、今度は私に手を差し伸べてくれた人たちまで、同じやり方で潰しにかかる

結果はわかるでしょう――私はひとりで来て、最後もひとりで去った。途中、さまざまな人と道をともにしたけれど、いろいろな理由で別の道を行くことになったわ

リンゴの皮は「シャリシャリ」と音を立てながら剥かれ、皿の中に落ちていった

あの時のヴィラは、確かに蜘蛛の巣を断ち切ったのかもしれない。けれどその先で、もっと深く、底の見えない場所に落ちた

フン……今さらこんな話をしたって意味はないけどね。どんな秩序だろうが、パニシングに全てぶち壊されたんだから

信じるかどうかはあなた次第よ。どう思う……?

彼女はふと、聞き手からしばらく返事がないことに気付いた

顔を上げてベッドの方を見た彼女は、おや、というように動きを止めた

ファウンスの「指揮官ちゃま」は、手にしたリンゴをひと口も食べずに、顔をしかめて彼女をじっと見つめていた

彼女は嘲るような笑い声をあげた

アハ、信じたの?

人間は唖然とした表情だ

その瞬間、ヴィラの耳元で、何年も前のある男の言葉が蘇った

作り話だろ?貧乏人が金持ちの暮らしを想像しきれないのと同じように、君の話は穴だらけだ――愛された経験がないから

人間の真剣な表情を見て、意外にもヴィラの心の中に小さな驚きが広がった。人間がいちいち反応することで、本人さえ気付かぬ間に、話はますますリアルになっていた

……私も冗談で言ってみただけ、騙すつもりはないわ。【物語】ってそういうものでしょ

人間の真剣な表情を見て、意外にもヴィラの心の中に小さな驚きが広がった。人間がいちいち反応することで、本人さえ気付かぬ間に、話はますますリアルになっていた

……うん、確かに本当かもね。【物語】ってそういうものよ

さて、こんなつまらない話を長々と聞いて、知りたかったことはちゃんと知れた?

あなたがそんなにあれこれ質問したのは、「臨時チームメイト」の私の過去に興味があったから?それとも、黄金時代の終末の様子を知りたかった?

彼女は切ったリンゴを無造作に皿に入れた。まるで、先ほどまで話していたことが全部他人事だとでもいうように

ヴィラの話を最後まで聞き終え、彼女の無頓着な仕草を見つめながら、唐突に「少し変わった」質問を口にした

……何なの、そのバカみたいな質問。まさか私がすごく失望してるように見えるってこと?

それとも「こういう経験」をインプットしたら、「悲観して厭世的になる」っていう結末しかアウトプットできないと思ってる?

やっぱり温室育ちね。今までどれほどの人に出会い、どんな出来事を見た?テストの点数で頭を抱える程度の日々でしょ――全ての困難が必ずしも何かを生むわけじゃないわ……

失望なんかしない。もともと、何にも期待してないもの。人間の本性がどういうものかも、最初からわかってる

そう思ってるから、私はパニシングが爆発しようが大きな影響なんてなかった――結局どこへ行こうが同じよ。私は蜘蛛の巣から別の蜘蛛の巣に移っただけ

どうしてそこまで根掘り葉掘り聞きたがるのかしらね?指揮官ちゃまは

ヴィラはガリッとリンゴを齧った

あえて言うなら、私は人類文明の全てが憎い

ヴィラはガリッとリンゴを齧った

あえてどう思うかといえば――私は人類文明の全てが憎い

言葉は口にする前にちゃんと選びなさい。聖母みたいな「ご忠告」なんて、私はこれっぽっちも聞きたくないわ

……

嬉しい?何が?

まったく予想もしなかった答えを聞いたせいで、ヴィラが用意していた皮肉や反論の言葉は行き場を失ってしまった

この数年、彼女は裏切り者を追い、「犯人」を尋問し、あらゆるタイプの人間と渡り合ってきた。人々が予想通りの言葉を返すことには慣れていた

しかし、この短い会話の中で何度も予想を裏切られたせいで、彼女は言葉を失い黙り込んでしまった

……

(無邪気……なだけ?純真無垢ってやつ?)

……

相手は「知り合ってまもない構造体にあれこれ話しすぎた」と気付いたのか、うつむいて黙々とリンゴを食べている

ふたりは沈黙の中でお互いを観察し、最終的にどこか奇妙な調和にたどり着いた

……あなたの世話は、私が引き受けた任務の中で一番楽だったわ。でも、これ以上無駄話をするよりも、そろそろ空中庭園の接続地点に向かう方法を考えた方がいいわね

もう少し回復したら、私たちもいよいよ出発だから

ヴィラは黒野から与えられた任務のスケジュールを確認した――残された日数はもうどれほどもない。期限までにあのテスト用素材を本部に届けなければならない

2日……あるいは3日か、少なくともあなたのお腹の傷が……

突然、ベッドサイドのライトが激しく点滅し、同時に病室の外の廊下で警報音が鳴り響いた

ウ――――――――

人間は「体に刻み込まれた」警報を聞き、すぐさまベッドから身を起こし、脇腹を押さえながら何とかベッドを下りた

ヴィラも瞬時に立ち上がっていた

ここまで来たってことは、後方はもう完全に崩壊ね……こんなに猛烈な侵蝕体の襲撃は見たことがない

彼女の心の奥底に、奇妙な直感がじわじわと広がっていく。だがそれが何なのかはまだ掴めなかった

……ふふ、指揮官ちゃま、今の意味わかる?あなたが運悪く巻き込まれたこの襲撃は、普通じゃないわ。死に物狂いで逃げたとしても、災難から逃れられるとは限らない

彼女は武器を握りしめた

怖い?

負傷者は勝手に動かないで。先に私が廊下の様子を見てくるから

警報の音は、すでにヴィラの意識海に染みついていた。彼女は病室の扉に手を伸ばした

――本当にその扉を開けるつもりか?

……!

ヴィラの指先が扉に触れた時、廊下から不気味な唸り声が聞こえてきた。それに続き、逃げ遅れた人々の悲鳴が響き渡る

パニシングの影が大地を覆う。この世界にはもはや絶対に安全な場所などない。この医療拠点も、まもなく地獄と化すだろう

長い間地上を渡り歩いてきたヴィラは、2160年の冬から今に至るまで、あの雪の夜のような消滅を数えきれないほど見てきた

……いいわ、計画変更。廊下に出るのはやめる。ここはそんなに高くないから、窓から出るわよ

ヴィラは扉の小窓越しに廊下の様子を見つめながら言った。しかし、人間からの返事はなかなか返ってこない

ハハハ……逃げやしないさ、振り返って見てみろ、一目瞭然だ

――ちょっと、何してるの!?

ヴィラはハッと振り返った。その瞬間、彼女は、まさかあの時と同じような光景を目にするのではないかと「怯えた」

そしてすぐに悲しい現実を知った――そう、あの時と寸分違わぬ光景だった

人間はその場で攻撃態勢を取っていた。その手に握られているのは、まさに小さな果物ナイフだ

……

ヘインズ

君のその鋭い心も、必ずや悲劇の結末の中でへし折れるだろう

アハハハ……

突如、彼女は爆発的に笑い出した

指揮官ちゃま、もしかしてあなたも私の前で自殺ショーをやろうっての?私の退屈な人生に、ちょっとした楽しみを添えてあげようって?

人間は戸惑うように彼女を見つめた。その瞳からは、彼女の突拍子もない質問に対する答えは読み取れない

あなたはあのクソッタレなやつらとは違うって思ってたのに。アハ……

人間は彼女の言葉の意味が呑み込めず、ただ手にした果物ナイフをしっかりと握りしめ、不思議そうな顔をしながらもはっきりと答えた

…………

人間はヴィラの視線の先――果物ナイフを見て、何かを察したようだった

飛び散る鮮血も、割れた窓から吹き込む風や雪も、命を絶って満足げに倒れる狂人の死体もなかった

そこにいたのはまだ卒業前で武器もなく、それどころか負傷して足取りもおぼつかない、たったひとりの無力な人間だった

なのにそんな人間が、笑えるほど小さな果物ナイフを握りしめながら、彼女に真面目くさって「情勢判断」を告げた

更には、「進路を開け」とまでも

……ふふふ……

彼女はふと自分が、何年も下水道の中で戦い抜いてきた「狂犬」のように思えた。そんな彼女の前に、突然小さなナイフを振りかざす「正規軍」が現れたのだ

……ハハハ……アッハハハハハ!

彼女は大声を上げて笑った。この冬は、今までとはまったく違うものになると直感した

最高ね――いいじゃない!今すぐ逃げるわよ。どんなことがあっても、死に物狂いで私についてきなさい!わかった!?