Story Reader / 叙事余録 / ER06 薄明射す闇塔 / Story

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ER06-18 許されない冒涜

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掘削機の音が鼓膜を震わせ、岩層から染み出た泥水は足首まで浸かるほど辺り一帯に拡がっていた

――もうすぐ開通する!中のやつらは下がれ!

ひと筋の細い光が石の割れ目を抜けて、暗い坑道に差し込んだ

下がって!下がって!

工兵部隊が選んだ開削地点は非常に正確で、内部補強された鉱道との差は1m以内だった

補強された鉱道に轟音が響き渡る。シェリルと他の支援部隊の隊員たちは不安げに、頭上の安全区域をじっと見つめていた

「ガァン――」

轟音とともに前方の坑道の岩が工兵部隊によって掘り抜かれ、ついに日光が差し込んだ

指揮官

日光は目を焼くような眩しさで、ルシアが自分の両目をそっと覆ってくれた

ルシア

地下に長時間いましたから、眩しい日光には気をつけてください

カレニーナ

――おい!中のやつら!そっちは大丈夫か!

他の工兵部隊の隊員たちは、安全を確保しつつ慌ただしく穴を拡張し、救援準備をしていたが、防護服を着こんだカレニーナはすぐさま突入してきた

[player name]、ルシア!お前ら大丈夫か!

ちょっと、もう少しゆっくり……

最近、いつもこんな場所をうろうろしてるような気がするわ……

カレニーナとドールベアの協力で、坑道内に閉じ込められていたチームは無事に地上へ救出された

今やってるって――ドルベ!どうなんだ!

救援活動の調整に忙殺されていたカレニーナが、ドールベアの方を向いて叫んだ 

連絡はしたんだけど、信号が不安定みたい……

わかった、後のことは気にするな、少し休め

仮設テントに誘導してきたカレニーナは、中に入るようにと促してカーテンを開けたが、その瞬間、眉をひそめた

……ノルマングループの責任者?

仮設テントの中央に、ピシッとスーツを着たノルマングループの責任者とノルマングループの研究室代表が、会議室にでもいるかのように姿勢を正して座っていた

こんな時に申し訳ないのですが、お座りいただき、我々の要望を聞いていただけますか?実のところ、ノルマングループもこれほどの援助を無償で提供する訳にはいきません

もちろん、無理な条件を提示したりはいたしません。こちらも今回の任務の主導は空中庭園だと理解しています。ただ……

鉱場は回収後もノルマングループがその維持と修繕を行わねばならず、空中庭園には後始末と任務の過程で、鉱場内部の基礎設備を最大限、保全していただきたいのです

鉱場内のあちこちに侵蝕体がわんさかいてもか?

……申し訳ありませんが、それは我々が考慮すべきことではありません

現在の我が社の状態では、設備の再建を行うだけの人手も資源もありませんので……

……で?要点をさっさと言えよ

研究室については私から説明しましょう

鉱場内のラボはノルマングループの出資によって建設されましたが、当時はことがあまりに急で、ノルマングループ撤退の際、全資料を持ち出すことは叶いませんでした

そのため協力者のひとりとして、ラボの責任者アンジェを派遣しました

彼女は今どこに?今回ここに来た目的のひとつは、彼女を連れ帰ることです

空中庭園に私の学生を拘束する理由はないはずですが

彼女はただの研究員ですよ、何を証明できるというのです?私はただ彼女を早く空中庭園に連れ戻して療養を……

……

……教授?

事態を察したグループの責任者はぎこちなく笑って非礼を詫びると、教授を引っ張ってテントを出ていった

彼らが言い争う声がテントの外から小さく聞こえる

ノルマンの責任者

それはヴィクトリアさんの指示ではありませんよ……彼女の指示は、鉱場内の保全のために彼らを見張って、大規模な破壊を防ぐことだけです……

ノルマンの研究室教授

これはラボの問題で、あなたには関係ない

カーテンが揺れ、研究室の教授が再び入ってきた

もう一度言わせてもらいますが、空中庭園に私の学生を拘束する権利などありません

盗んだ?指揮官、その言葉には語弊がありますね。あの資料はもともとノルマングループ傘下の――鉱場のものです

ノルマングループはただの出資者であり、実験資料が空中庭園の規定に違反しているかどうかは関係ない

たとえ規定違反だったとして、新しい規定は過去にまで遡及しません。旧規定ではノルマングループは関連規定に違反しておらず、これらの内容を回収する権利がある

この年配の研究員はかなり傲慢な者のようだ

……

お前らの無駄話のせいで貴重な時間を損したぜ

カレニーナは苛立ちを露わにして立ち去ろうとしたが、ドールベアに引き止められた

ハッキリ言ってください。アンジェが必要なのはノルマングループ?それとも別の誰か?

……当然ノルマングループです

彼の目は落ち着かない様子だった

ドールベアはそれを気にせず相手をちらっと見やると、手際よくパチパチとキーボードを叩いた

はい、見つけた

アルヴィス……ずいぶん昇進が早いんですね

経歴は……コンスタンティン鉱場内ラボから、空中庭園ノルマングループ本部に異例の昇進?

アルヴィス

……言っている意味がよくわかりませんが

黒野なんでしょ

彼らがノルマングループにまで手を伸ばすかもしれないと考えてはいたけれど、まさかここまでとは……

ドールベアは冷ややかに笑った

ノルマンは現在、実験を再開する条件がまったく整っていない。コンスタンティン鉱場を回収したとしても、まずは空中庭園に産出物を供給する必要がある

ノルマングループにいながら黒野のために働く……給料の二重取りはさぞ旨味があるでしょうね?

……

ったく……こんな時にのこのこ仕事の邪魔をしに来るやつらに構ってられっかよ

待って、鉱井で何かあったみたい……

ずっとブリギットに連絡を取ろうとしてるんだけど、表示がずっと送信失敗になるの……おかしいわ

あなたたちが使っていた内部通信にリンクしてるけど、支援部隊が鉱場内部の送受信設備を修理したはずだから、問題が起こるとは思えない……

まさか……

ええ……可能性はそのふたつしかない

ブリギット以外に、鉱井内に誰かいるの?

「エレベーターが破壊された」……「赤い光が点滅している監視カメラ」……

鉱井内の「あの人物」ですね

私も一緒に行きます

今、鉱井の中はどうなってる?

ほとんどの支援部隊隊員と研究員は地上に戻り、仮設テントにいます。負傷者はいません

彼らの避難中、一部の支援部隊隊員が後方援護に残りましたが、すでに救援を手配しています

いまだに、ブリギットとトロイだけは連絡が取れていません

トロイとの通信は呼び出しはできるのですが、ずっと応答がない状態で……

「プ――」

監視室に響く監視モニターのザーザーという音で、通信の中断音がかき消された。「スケッチ」と名乗る「構造体」はそれが聞こえたようにしゃがれ声で話し始めた

無駄な努力だ

ここにある通信信号は全て、私が遮断した。私が正気を失った時……送信してはいけないものを送信してしまわないためにな

ここの秘密は永遠に埋葬されるべきだ。人間の浅はかさと貪欲さを侮るべきではない

ノルマン家の栄光……

くっ!

監視室の地図を頼りにブリギットはトロイと別れた場所へ戻ったが、扉は外部から破壊されたのか、パスワードを入力しても力なくカチカチと音を立てるだけだった

むりやり扉をこじ開けようとしても、徒労に終わった

トロイはどうなったのだろう?外にいるあれは……一体何?

あなたは一体何者なの?本当にただのノルマン家の執事なの?

どうして……この資料に……私の両親の名前が?

「ガンッ――」

彼女の問いに答えたのは、扉の外から響く更に重い衝撃音だった

あなたは本当にただのノルマングループの執事なの?もしあなたがノルマン家の執事のスケッチなら……どうして……

……どうしてあなたの記録に、ソーイとマリアンの名前があるのよ!

扉にぶつかる衝撃音が突然止まった

外にいるスケッチと自称する「構造体」が動きを止めたようだ

……ソーイ……マリアン……

なぜその名前を何度も……?お前はあのふたりと……何の関係が?

ソーイとマリアンは……

私の両親よ

ブリギットは会話で相手の気を逸らしながら、扉を側面からこじ開けようとした。スケッチの強力な打撃で、扉の内側が少し緩んでいる。ここから開けられるかもしれない

彼女には、トロイをひとり外に残しておくことなどできない

ソーイと……マリアンが……お前の両親だと?

低い嗄れ声が地獄から響くかのように、扉の隙間から漏れ聞こえてくる

お前は……はあ――……はあ――……ブリ……ギットか……?

……どうして私の名前を知ってるの!?

ブリギットは驚いたが、扉をこじ開ける手は緩めなかった。後少しだ……

はあ――……はあ――……ぐあっ……

「ドォン」という音とともに扉が倒れ、ついに扉をこじ開けたブリギットはスケッチの前に立ちはだかった

お前は……!

スケッチのロジックに迷いが生じた。扉が開いた途端、彼はすぐに反応して両拳を振り上げたが、茶髪の構造体と目が合った瞬間、その動きがピタリと止まった

彼女はあまりにも……マリアンに似ていた

ソーイ

スケッチ!赤ん坊が生まれたんだ!

スケッチ

おめでとう、名前は決めたのか?

ソーイ

ああ、ブリギットにするってマリアンが決めたんだ。大きくなったら、一緒にロッククライミングやオフロードに連れていくつもりだ!

スケッチ

はっはっ、本当にそんな危険な遊びに小さな子供を連れていくのか?

ソーイ

おいおい、ノルマンの執事さん。昔一緒に遊び回っていた時は、オフロードを「危険な遊び」だなんて一度も言わなかったじゃないか

スケッチ

あの時は若かったからな……今とは違う

ソーイ

今?今だってまだ若いぞ!

ソーイ

どうして……どうして君がここにいるんだ!?スケッチ!

スケッチ

ソーイ!?マリアン!?な、なぜ君たちが……

ソーイ

私たちはずっとコンスタンティンの街に住んでいたんだ。ずっとこの近くで救助活動をしていて……

マリアン

何があったの……?スケッチ

マリアン

話してる暇はないわ、早くこっちへ……

ブリギット……

……もうそんなに時間が経ってしまったのか

鉱井の暗闇の中では昼夜の区別がつかない。どれほど時間がすぎたのか、数字から判断することは彼にはもうできなかった

わ、私は……うっ……

意識海が再び混乱し、針に刺されるような痛みが彼の意識を刺激し続けている

トロイ!

扉が倒れた瞬間、ブリギットは慎重にスケッチを避け、トロイの傷の様子を確認しようと走り寄った

青い髪の構造体は壁の隅に倒れ込んでおり、状態は非常に悪そうだ

持っていた応急薬を全て使い、ブリギットはかろうじてトロイのバイタルサインを維持させることができた

私の両親は……一体どうなったの?あなたは鉱場でふたりを見たの?

トロイのバイタルサインが安定したことを確認すると、ブリギットはトロイを背負い上げ、スケッチに向き合いながらじりじりと後退した

……はあ――……行け、早く……

全てを破壊したい衝動を抑えながら彼は後ずさり、ブリギットを攻撃するつもりはないことを示した

監視室の資料やあなたが録画した映像は……一体どういうことなの!?

ふたりには悪いことをした……黒野が……資料は……消し去らなければ……

しゃがれた声はそのまま途切れた。だがブリギットはその中の重要な言葉を聞き取っていた

黒野ですって!?

……行け!早く……!!

混乱した意識海に再びざわざわと尖った波が立ち始めた

……

彼女はまだこの構造体が自分の両親とどんな関係なのかがわからなかったが、重傷を負ったトロイを連れたまま危険を冒すことはできない

スケッチが混乱している間に、ブリギットはトロイを背負って細い通路から急いで立ち去った

はあ――……はあ――……

平静を取り戻した時には、彼はまた自分の親友のことなど忘れてしまったようだった

私は……ノルマングループに、ノルマン家に忠誠を誓ったのだ。この件を外に漏らし……ノルマン家の栄光を汚すことはできない

彼の喉からは奇妙な音が響き、瞳は次第に曇っていった

消し去らなければ……

細い坑道を迂回してスケッチには見えない場所まで来たブリギットは、トロイを背負ったまま飛ぶように走り出した

あの怪人は確実に両親に関する手がかりを持っている。知り合いか、もしかしたら昔の友人である可能性も……

う……

トロイ!気付いたの……!

ブリギットはトロイの状態を確認したが、彼女は意識を失ったまま呻いているだけだった

バイタルサインは安定してる……大丈夫なはず

理由はわからないが、あの怪人はトロイへの攻撃を手加減していたらしい。さもなければ、トロイの古い機体では持ちこたえられなかっただろう

鉱道は塞がり、エレベーターは停止している。もう外に脱出する手段はほとんどない。彼女にできるのは、トロイを安全な場所に運ぶことだけ……

よし、ここならきっと安全だわ

支援部隊が強化した坑道の一角にトロイを下ろし、ブリギットは手の埃をパンパンと払った。そして坑道の入口に大きくマークをつけた

今からここは、ブリギットの戦場となる

あの怪人の言葉は聞き取りづらかったが、彼女は「黒野」と「資料」という言葉を確かに聞き取った

あの監視室には、まだ他に秘密があるかもしれない。例えば黒野がここで違法な実験を行っていたと証明できる、更に多くの「資料」が

彼はその資料を消し去ろうとしているらしい

しかし……そうさせてはいけない。あの資料は両親の行方だけでなく……知らぬ間にこの深淵に消えていった人々にも関わっている

ハイドの「研究チーム」の記録だけでも、トロイを含む多くの無実の「実験体」のことが記載されている。それなら他の資料にも……

装備と武器を整え直し、ブリギットはトロイの端末の通信の受信範囲を最大限に調整した

よし……これでいいわ。[player name]がきっと私たちを見つけてくれる

怪人に徹底的に破壊される前に、彼女は何としてもあの資料を手に入れなければならない

誰にも知られぬまま、彼らが暗闇に消えてしまうのを許してなるものか――

次に会う時は……一緒にビール味の電解液疑似酒を飲みましょうよ

彼女は身を翻して、再び暗い坑道へと入っていった