Story Reader / 叙事余録 / ER06 薄明射す闇塔 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER06-17 危うきを守る

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不完全な地図と曖昧な記憶を頼りに、湿った薄暗い鉱道を進んでいく。トロイはブリギットを連れて慎重に前進した

ねえ、本当にここに監視室が……?

もちろん。心にやましいことがある人ほど悪魔を恐れるもんですよ

彼らには、権限カードでしか解除できない罠や仕掛けが必要なんです。彼らに残された尊厳を守るためだけにね

足を止めたトロイは、また岩層から伝わる微かな振動を感じ取った

何か音が……

工兵部隊が掘削を始めたのかもしれません

いいえ……それはまだのはず……

待って……

彼女は慎重に岩壁に触れた

崩落……?いや、違う……

危ない!

背後から武器が風を切る音が聞こえ、トロイは素早く身を翻し、ブリギットを引き寄せて攻撃をかわした

背後から現れたものの影がふたりを覆い隠した

何なの!?

機械パーツで組み立てられたような、奇妙で巨大な姿が彼女たちの背後に現れた

あなた……誰よ!?

のしかかるような圧迫感に、ブリギットは数歩後ずさったが、目の前の奇妙な生物は無言で再び攻撃を仕掛けてきた

これが……あなたたちが鉱井内にいると推測していた、「第三の勢力」です!

敵の攻撃を躱しながら、トロイは機体の関節が軋むのをはっきりと感じた

私に任せて!

彼女はトンファーを展開させ、盾を構えた。金属と擦れる不快な音を立てながらも、盾が敵の攻撃をがっちりと受け止めた

この怪物は一体……

今はそんなことを考えている場合じゃない!

巨人は沈黙したまま再び武器を振り上げた。その表情はぼんやりと掴みどころがなく、言語での意思疎通は不可能に見える

このままじゃ……

端末のタイマーが刻刻とすぎていく。ブリギットが援護しながら、ふたりは坑道の奥へ逃げ込んだ

だが、巨大な怪物は彼女たちよりも坑道の構造を熟知しているようで、彼女たちがどう逃げようとも、ふたりの前へと神出鬼没に出現する

再び盾で相手の攻撃を受け止めたブリギットだったが、疲労の色を隠せなくなってきていた

ブリギット、こっちへ――

彼女は隠し扉に触れた

――すぐに!

彼女は俊敏に転がり、トロイの方へ走り寄った

同時に、トロイはすでに手にしていた権限カードで隠し扉を開いた

急いで!

トロイはブリギットを掴むと、すぐさま隠し通路に彼女を押し込んだ

トロイ!

ブリギットが手を伸ばしてトロイを引っ張ろうとした瞬間、背後の巨人がトロイの肩を掴んだ

――閉めて!早く!

「ガン!」

金属の扉はブリギットの目の前で固く閉じた

トロイッ!!!

トロイが何か細工をしたのか、ブリギットは何度も権限カードで扉を開けようとしたが、いくら試しても扉は開かなかった

重いくぐもった衝撃音が分厚い岩層越しに響いてくる

くっ――

もう一度ガンガンと扉を叩いたが、どれだけ頑張っても、扉に残ったのは浅いくぼみだけだった

このままじゃダメだわ……そうだ、監視室!

もし監視室がこの地下鉱井全体を操作する中枢なら、この扉を開ける方法が見つかるはずだ。あるいは、今の戦闘場所に通じる近道があるかもしれない

……トロイ、必ず戻るわ!

彼女は迷うことなくトロイが示していた方向に向かって走り出した

「ドォン――」

坑道に再び大きな音が響いた

ううっ……

食いしばった歯の隙間から呻き声が漏れる

真っ黒でおぞましくもあるあの「構造体」が、小さい山のようにのしかかってくる

ブリギットを逃がして……正解だった

叩き落とされた武器を拾い上げ、彼女はすぐ側の棚にひらりと飛び乗った

こんないい人っぽいことをするなんて、滅多にないのに……空中庭園は私に感謝状を贈るべきね

ここで彼女に助けられたことがあるなら、これで借りは返したってとこかな

その生物が聞いていようが構わず、彼女は独り言を呟き続けた

あなたと一緒にここで死ねれば十分。結局は私もあなたも、以前はこのガラクタの中で暮らしていた者同士かもしれないし……

彼女の俊敏な戦闘技術をもってしてもやはり、圧倒的な体格差があるこの巨人には敵わない

「バンッ――」

またも彼女は壁に強く叩きつけられた

未交換の老朽化した機体がギシギシと抗議の声を上げる。彼女はブリギットが持っていた構造体用の包帯で溢れ出る循環液を止めようとしたが、腕が動かない

……はあ――……はあ――……

巨大な人型生物の発声モジュールから濁った声が聞こえていた

ゴホッ……なぜ逃げなかったのかって訊いてるの?

怪物が再び彼女の目の前に迫り、巨大な影が微かな灯りを完全に遮った

循環液が口と関節からとめどなく溢れ出し、トロイにはもう抵抗する力がない。隅にうずくまっていた彼女の視覚モジュールが徐々にぼやけ始めた

……逃げようと思ってたんだけどな

はあ――……脆弱だ……耐えられまい……

敵の意識もまた曖昧になっているようだ

彼女はバラバラの記憶の中で、この大きな男の以前の姿を見たことがあるように思った

確か名前は……スケッチ?

きちんとした身なりの執事で、口を開けばノルマングループのことしか話さない。彼女が好きになれないタイプの人物だった

彼女は、ハイドと他のラボ責任者が、スケッチをここに拘束しようと話し合っているのを聞いたことがある

その後は……覚えていない

彼女は、彼に逃げるよう警告した?彼女の性格からして、それはしなかったはずだ

なぜ他の人は皆、日の当たる場所に立てるのだろう?なぜ天秤の上で選ばれるのはいつも「他の人」なのだろう?

でも……選ばれるっていうのも滅多にないことね

来世は、私も……

太陽の下に立てたらいいな――

ハァ――アァ――!

空気を切り裂くような音が耳元に迫った

権限カード……開いた

幸い、アンジェが彼らに渡した権限カードは十分に高い権限があった。少し手こずったものの彼らは監視室を開くことができた

電気系統はショートし、ぼんやりとした非常灯だけが監視室を照らしている

トロイもアンジェも、監視室こそ鉱場の中枢だと言っていた。ここに必ず手がかりがあるはずだ……

いくつかのモニターの画面は真っ暗になっていたが、多くはまだ微かな光を放っていた

ブリギットたちがこの鉱場に入ってきた時にはすでにその動向は……全て誰かに把握されていたのかもしれない

考える暇もなく、ブリギットはキーボードを素早く叩き、扉を制御するパスワードを探し始めた

コンスタンティン鉱場……コンスタンティンラボ……ノルマングループが出資……

ノルマングループ執事……スケッチ?

一連の画像とテキストの記録が画面に表示された

駄目だ……ううっ……忘れる……訳には……

意識がある内に……彼らの名前を記しておかなければ……

ソーイ、そして……マリアン……

ブリギット

これは……お父さんとお母さんの名前!?

黒野……黒野は人道にもとる……

彼らは坑道奥でパニシングが発生したから予防薬を服用しろと言い、私はそれを疑わなかった……

彼らは「研究成果」を示そうと、無理やり私に人間がTa-異形コポリマーを受け入れる過程を見せた。私は……

目の前で人が死んでいくのを、黙って見ていることなどできなかった

彼らの実験は失敗し……制御不能になった。彼らは鉱井を爆破して、小規模な坑道事故として隠蔽した……

ノルマングループが救助員を雇ったが、まさか、それが彼らだったとは……

ソーイ……マリアン……

ソーイが囚われていた私を見つけ、マリアンは必ず私を連れ出すと言ってくれた……

一体……どういうことなの……

見つけた!

ブリギットは冷静に資料の中から、扉を制御するパスワードを見つけ出した

「ガァン――」

大きな衝撃音が再び響いた

どの回線が起動したのかはわからないが、監視室の警告灯が全て点灯し、淡く赤い光が部屋全体を満たした

次の瞬間、全ての監視モニターが危険な光を放ち始めた