Story Reader / 叙事余録 / ER05 撃ち伐る流砂 / Story

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ER05-7 新たな血

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あんだよコレ……ギブギブ、こんなの使えねえよ!

ノクティスは自分の端末をベッドにたたきつけ、イライラしながら窓の前を行ったり来たりした

ふたりは昼までかかって――通信端末を改造し、なんとか空中庭園に連絡しようと悪戦苦闘していた

どうやら我々は自分の手先の器用さを過大評価していたようだ。リーのような「プロ」とは違い、門外漢が改造をするのは、どだい無理な話だったのだ

正気かよ?あのジジイが調査なんぞ許可しないって言ってただろ?

非公式に密かに調査してデモンを捜し出せば、マックス町長も文句を言わないだろうと思われた

マジで?ま、ここでボサッと待つより動いてる方がずっといいな。何もしないなんてヒマすぎて死んじまう!

ノクティスはため息をついて部屋のドアの前までのしのし歩きながら、端末をこちらへ投げてよこした

アンタ……やつらの目標がアンタってことを忘れてねえな?やつらは獲物がここからノコノコ出てくるのを待ってやがるかも……

おとなしくここで、通信が繋がるようにしてろ。町は俺が調べてくる

大船に乗った気で待ってろ、きっと手がかりを見つけてやらぁ

なめんなよ、アンタがいる方が足手まといなんだよ

ノクティスの言い分にも一理ある。だが彼の性格ではたしてここの住民とまともに交流できるだろうか……非常に疑わしい

――揉め事を起こさないよう、今から必死に祈るしかなさそうだ

よう、あんちゃん、ちょっといい……

ノクティスは歩いていた青年を呼び止めてデモンの写真を見せようとしたが、青年は怒ったような顔で足早に去ってしまった

おっ、そこのバアさん、こいつを見かけなかったか……?

彼は話を聞いてくれそうな相手として、ようやく道端で農産物を売っている優しそうな老婆を見つけた

その老婆はノクティスの端末をのぞき込むと、彼の顔を見上げながらニッコリと笑った

シッシッ、おととい来な!

彼女は老人とは思えない力強い声で叫ぶと、店のシャッターを勢いよくガラガラと引き下ろした。その後には状況を理解できないノクティスだけが取り残された

【規制音!】、んだよここのやつらは!

ノクティスは悪態をつきながらも、話を聞いてくれる相手がいないか探し続けた

手がかりを見つけるってあんだけ大見得切ったのに、このまま手ぶらで帰ったら……ダサすぎんだろ

ノクティスは気付いていなかったが町の片隅では、彼が探すまさにその人物がノクティスをじっと見つめていた

ふっ……あの愚か者が、まだ私を探してウロウロしている。あれでは、私が目と鼻の先にいると一生気付かないだろう

デモンは同行者の肩を叩いて、得意げに笑った

これもヴァンのお陰だ。君がいなかったら、こんなにうまくいかなかった

……僕はこの町で生まれ育ったんだ。僕よりこの町を知るやつなんていない。空中庭園からのよそ者には痛い目に合ってもらわないとな……

もうすぐオブリビオンの部隊がここを通る。私を助けてくれた君は、オブリビオンの友でもある。オブリビオンはこの町が困るようなことはしない。安心してくれ

町に来る厄介者なんかどうでもいい。全員追い払えばいいんだ……ただこの町が破壊されるのだけは許せない。ここは母さんとの最後の思い出の場所なんだ

そんなことは別に簡単だが、君の父親はどう思うだろうね……彼はこの町が中立を保つことを願っているようだが

我々は何度も人を送って彼に警告したが、彼は頑として譲らなくてね……誰のお陰でこの町が生き延びていると思ってるんだか

両者は協力関係を結び、オブリビオンは「ニューオークレイ」に関門を作ることで長年、侵蝕体の進入を防いでいた

親父は古くさい理念に囚われているんだ。中立とか、自由とか……母さんがどうして死んだのかすら、全部忘れてるんだろう

デモンはニヤリと笑ってヴァンを見た。彼に言わせれば、恨みを持つ人間が一番、御しやすい

今回のことがうまくいけば、私は君がオブリビオンに参加できるよう、統帥に推薦しよう。そうなれば、君も空中庭園に復讐を……

空中庭園に復讐なんて、本当にできるんだろうか……

我々オブリビオンも同胞だ。空中庭園を憎まない者などいない。統帥が来られてからというもの、我々は密かに空中庭園から迫害を受けた人たちを受け入れてきた

もうすぐ我々は、軽視できないほど大きな勢力になる……腹黒の空中庭園のジジイたちは、そんなことは想像すらしていないだろうけどね

遠くで青く光る塔を指さしたデモンの目が、冷え冷えとした光を放っていた

あの光が届く場所は、本来その一部は我々のものだった。なのに今は全て空中庭園のやつらに独占されている

オブリビオンは清浄地を攻めるのか……?

その通り。この町は清浄地に一番近い関所のような立地だ。侵蝕体に邪魔されることもない。君たちがオブリビオンの通過を許してくれれば、きっと成功する

デモンは目を細めて、無駄な努力をしているノクティスを見つめた

だが空中庭園から来たあのふたりは……我々の最大の障害になるだろう。彼らに計画を知られてしまうと、いささか面倒なことになる

この町で厚かましくも生きているやつらは、いつもなら町の迷惑でしかないが。でも今こそ、彼らを利用するべきだな

いい考えだ。ここの住民にやらせれば、空中庭園の馬鹿どもは自分たちの偽善的なルールに縛られて、身動きできまい

ヴァンは陰に潜んだ数人のチンピラに目配せをした

けけっ……

【規制音】【規制音】……

ずっと宿にいても退屈だった。やることもないし、ノクティスも収穫がないと端末で連絡をしてきたばかりだ

つい、ため息が漏れる。こんなに何もできない無力感は久しぶりだ。指揮官としての限界を強く感じる

その時、コンコンとノックの音が響いた。通信端末を外し、反射的に枕の下に手を入れた――そこには護身用の拳銃がある

返事もないまま扉が押し開けられ、当然といった顔で大柄な男が数名の部下を連れて入ってきた

お前さんは空中庭園の指揮官なんだから、賢いんだろ

マックスはどっかと椅子に座ると杖を部下に手渡した

彼はノクティスの所在を気にしていないらしい。むしろノクティスの不在を狙って入ってきたフシさえある

そうか、じゃあせいぜいお前さんが理性をなくしてトラブルを起こさないことを願うぜ……ここじゃ、お前さんがたのルールは通用しねえんだ

ここに住んでるのは、犯罪者にチンピラ、クズ野郎と、よそじゃ生きられないやつばかりだ。ここの住民は……いつ命を落としたっておかしくねえ

あの構造体は何かここに残る理由があるんだろう。だがお前さんは違う、見ればわかる……

彼は先ほどまで調整していた端末にちらりと目をやった。そこには空中庭園への通信画面が表示されている

少なくともお前さんは、空中庭園に戻ろうとしてるんだろ?

だからノクティスがいない時に自分を説得しに来たのだろうか?

デモンが見つからない限り、なぜ部隊を離れ、嫌疑をかけられているノクティスとともに行動しているのかを説明できない。離反と判断されても仕方がない状況だった

だがここにいても、調査なんざできねえぞ……言っただろう、ここはお前さんがたを歓迎していないんだよ。ここにいるやつらは……

そう聞いてマックスはいささか驚いたようだ。勘違いだろうか、彼の目つきが少し和らいだような気がした

へえ……そんならまあ、お前さんがたを止める理由はないな。お前さんたちは「ニューオークレイ」の新しい血となるだけだ

マックスは立ち上がって部下から杖を受け取ると、コンと地面を叩いた

町民になるんなら他の町民と同じく、自分の「仕事」を見つけるこったな。ここじゃ仕事のないやつは町から追い出される

指揮官以外、一体どんな仕事ができるだろうか……?

その時、通信端末から大きな音が鳴り、続いて悲鳴が何度か聞こえてきた