Story Reader / 叙事余録 / ER05 撃ち伐る流砂 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

ER05-6 深夜

>

何がどうなってんだよ……

ノクティスは窓辺にもたれかかり、窓から下を覗きこんだ――すでに夜中だが、多くの人が道を歩いている

下で少なくとも5人は俺らを見張ってるぜ。ここを出りゃ、一瞬で町中のやつらに知れ渡るんだろ

ノクティスはため息をつき、退屈そうに宿のベッドに寝そべった

この状態でどうやってあのくそ野郎を捕まえるか……

今はマックスが手配……いや、強制的に指定された宿で一晩を過ごすしかない

彼の言う通り、ここは空中庭園から来るいかなる者も歓迎しないらしい。だからデモンの行方を強引な方法で調べることは不可能に近かった

年に一度の収穫祭のために町はしばらく封鎖され、外部の人間は自由に出入りできなくなるらしい。つまりデモンもまだこの町にいる可能性が高い

あんな老いぼれの言うことだ。フカシの可能性だってある

ノクティスは腕を組み、好きにしな、という表情だ――訊かれることをとっくに予想していたのだろう

ふん、訊くのはアンタの自由、答えるかどうかは俺の自由だ

違うって言って信じるのか?

ノクティスは嘲笑ったが、すぐに真剣な表情に戻った

あの爆薬の配合は世界でも俺様にしかできない……はずだった

ああ、あの配合法を知ってんのは俺を除きゃふたりだけだ。だが……どっちもおっ死んだ。しかも俺の目の前でだ。そりゃもう、徹底的に死んじまったのさ

ノクティスは窓に映った自分の体の、その時の傷痕を見つめている

けどよ……それがマジだったのか、もう俺にもわかんねえな。クソが

あんなやつの脳ミソの中身なんか知るか……

さあねえ……どっかのふんぞり返ったジジイなんじゃねえの?知ったことかよ……

こちらの質問攻めにうんざりしたのか、ノクティスはベッドから跳ね起きた

って、なんで俺ばかり質問攻めなんだよ?こっちも訊きたいことがあんだよ!なあおい、互いに一問一答だ。それでこそイーブンだろうが!

こんな場合のイーブンの定義については、いまひとつ理解できないままだが……

じゃ、俺から質問だ。なぜアンタとあの青髪野郎が急にあの場所に現れた……?

ノクティスもデモンの目的を知らなかったのだろう。彼が何をしたのか、その全てをノクティスに伝えた

たいしたタマだぜ……最初から狙いはアンタで、しかも俺に罪をなすりつけたってか……見つけ次第、全身の皮を剥いで、機体に痛覚モジュールがあることを後悔させてやる!

よし、そっちの番だ……何でも訊け!

ああ……勘のいいやつめ……

しばらく沈黙が続いたが、やがてノクティスは口を開いた

さっきの、ふたりの死人と関係してる……その内のひとりがナイゼルっていうやつだ。粛清部隊にいた時の顔見知りで……俺が……粛清部隊で、最後に殺したやつだ

ナイゼル……初めて聞く名だった。粛清部隊の誰かがその名を口にするのを聞いたこともない

簡単に言うとな……そのナイゼルの目撃情報があった。で、その目撃された場所ってのが、「ニューオークレイ」だ

ノクティスの様子からして、彼とナイゼルはただの「顔見知り」ではないようだ

だろ!?俺もそう思ってた……じゃなけりゃ、あのボケが俺の爆弾の配合法を知ってるわけがねえんだ

真実がだんだんと明らかになるにつれ、ノクティスも興奮し始めた

よし、じゃあ俺の番だな。デモンはどうしてアンタをここに誘導したと思う?

輸送車で輸送機が不時着した現場を離れるなら、こちらが無防備な時を狙って襲撃する方が、よほど成功率は高いはずだ

なのに彼はわざわざこの町まで案内し、吊り橋を爆発させて、こちらの警戒心を煽った。しかもそのために彼の行動は最終的に失敗に終わったのだ

もしかしたら、彼の配下の構造体は「待ち伏せ」していたのではなく……もともとここにいたのかもしれない

つまりよ……ここにいるやつらは全部あの野郎の仲間か??

だよな……あのクズどもが全員デモンの仲間なら、俺らは今こうして生きて話し合ってなかっただろうな

くそ、問題は振り出しか。一体どうやってあいつを探すべきか……

があああっ!無限ループじゃねえかよ……

おお!かかってこいよオラ!

予想外の質問だったと見えて、ノクティスは少し驚いていた

なぜって、なあ……言っただろ?俺はここでナイゼルが生きてるかどうかを確認しなきゃ気が済まねえんだ!

相談だァ……?バカ言えよ、これは俺がやることなんだ。他人は関係ねえ

…………

あんだよ、あのふたりは無関係だろ?

はぁぁぁ?ヴィラがぁ?俺をぉ?心配ぃ?アンタ、そりゃ、幻覚でも見たな

ノクティスはついにこらえきれないというように笑い出した。だがしばらくすると大きくため息を漏らし、口を閉じた

タリぃなぁ、借りなんざ作りたくねえからひとりで調査しにきたのによ……

するかよ!俺は絶対に戻らねえぜ……悪ぃが、アンタも帰さないからな

それは有無を言わせない態度だった。だが最初のように意地を張っている訳ではなさそうだ

アンタは、人間の悪どさを知らなさすぎるんだ。粛清部隊にだって、離反者の仲間がいるかもしれねえだろ?

そりゃ俺だってそうさ。でもな……いくら仲のいい親戚やらダチやらでも100%信用していい訳じゃない

とにかく俺は明日、町を調べてやる……どうせこっちは歓迎されないだろうが、やるしかないからな

ノクティスはやれやれとばかりに横になると目を閉じた

はぁ、好きにしろや……

確かに現段階でいくら策を考えても無駄だ。今はしっかり休んで、頭をクリアにすることが肝要だろう

静けさに満ちた空中庭園の休憩室と違い、町の宿はかなりうるさかった

吹きすさぶ風の音、名前も知らない虫の音色……飲みすぎた酔っ払いたちの調子っぱずれな歌声……

不思議なことに、この騒がしさに囲まれているほうが妙な安心感があった。枕に詰め込まれた藁のほのかな香りも心を落ち着かせてくれる

ノクティス

おい、もう寝ちまった?

ノクティス

最後にもういっこ、訊かせろや……

アンタ、俺のことは離反者の仲間じゃないかって疑わねえの?なぜそうやすやすと俺の話を信じる?

ノクティス

勘ねぇ……アンタの口からそんなセリフを聞くとは意外だぜ

積み重ねた経験よりも、時には自分の勘を信じて判断する方がいいこともある

ノクティス

アンタって変なやつだな……言っとくけどな、俺と一緒に行動すれば、アンタまで離反者と思われるかもしれないぜ

ノクティス

無実かどうかなんざ、どうでもいいんだ……あの時や今の真相なんて、俺以外に誰も気にしちゃいねえ

仰向きになって夜空を見上げているうちに、じわじわと疲れがこみ上げ、まぶたがくっつきそうになってきた

だんだんと気が緩んで、寝入ってしまった――

ったく……余計なお節介め。アンタにゃ何の関係もないだろうに……

ノクティスは腕を組み、ため息をつきながら目を閉じた。だがその口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた

ケルベロスに戻る、か……そうだな、デモンのクソッたれを捕まえてそれを手土産にするか。ヴィラとサンシチを驚かせてやる

オブリビオンの本拠地には、珍しくワタナベと各分野の責任者が集まっていた

目の前の戦術マップにはさまざまなマークが表示されている。なかでも最も目を引くのは、反転異重合塔を中心に形成された円形のエリア――清浄地だ

それは、本当か?

はい……オブリビオン2号拠点が突然異合生物に襲撃されました。しかも異合生物たちの行動がかなり奇妙だったんです

やつらは……今までのやつらと違い、強い攻撃性はないんです。でもどうやら団体行動や連携をしている。今までの防衛手段では彼らを止められません

パニシング生物も絶えず変化しているということか。もしかすると、あの塔と関係しているのかもしれんな

ワタナベさんが空中庭園と交渉中とわかっていながら、皆を止められなくて……一部のメンバーはすでに清浄地内へ入り始めています。申し訳ありません……

お前たちのせいじゃない……

ワタナベは複雑な胸中を物語る表情でマップ上の異合生物の拡散範囲を見た。今後は更に、多くのエリアが影響を受けるだろう

なのに空中庭園の連中は、清浄地の奥はまだ調査の必要があるとか、人を入れたら混乱するとか御託を並べやがって……こちらに対する時間稼ぎじゃないだろうな……

軍事責任者の話に、多くの者が賛同の声を上げた。ほとんどの参加者が空中庭園への不満を何かしら口にしている

空中庭園はすでに私と協定を結んでいる。この件について善処すると彼らは約束した……この点については安心していいはずだ

ワタナベは周りを見渡し、しかと微笑んだ

過去にいろいろな確執があったのは事実だ。我々オブリビオンと空中庭園の関係は、ずっと緊張状態にあった

だが最近は空中庭園も、行動することで我々に対する態度を証明している……これは皆も同じく目にしているはずだ

事実、最近までオブリビオンは空中庭園と助け合い、ともにさまざまな敵と戦ってきた。参加した多くのオブリビオンの中で、徐々に空中庭園に対する見方が変わってきている

だからもう少し時間をくれないか。私も異合生物に対する解決策を急いで決めようと思う

今日はここまでだ。解散しよう

はい!

ワタナベは深刻な顔でオブリビオンの各キャンプからの報告書を読んだ。オブリビオンメンバーと清浄地を護衛する勢力との間で、小競り合いが何度も起きているようだ

今ならまだ皆の不満を抑え込めるかもしれない。だがこの暗流のような不満がいつ爆発するのかは、誰にもわからなかった

この件について……教官はどう思われますか?

ワタナベは影の方に向かって質問した。そこには、先ほどの議論をずっと聞いていた誰かがいるらしい

その酸いも甘いも噛み分けたような顔付きの男性は、ワタナベの父親と同世代の軍人だった。少し前からワタナベに頼まれ、オブリビオンで新兵訓練を担当している

空中庭園の約束をまるごと鵜呑みにするのはまずいだろう

どんなに頼もしい友人でも、利害が絡めば手強い敵になり得るからな

ましてや……空中庭園も一枚岩ではない――オブリビオンという組織を消滅させたがっている者だっている

ええ、交渉は慎重にするつもりです。ですが私個人としては、空中庭園がうまく問題を解決すると信じたいのですが……

とはいえ、ことが定まる前に我々は異合生物の拡張を食い止めなければ

では異合生物が発生するエリア付近に防衛ラインを構築すべきだろう……空中庭園の連中はその場所を「異災区」と呼んでいるようだが

問題となるのが我々の戦力不足です……

私が一部の部隊を連れて「異災区」の異合生物を抑える、というのはどうだろう?

ワタナベはしばらく考えたすえに、首を振った

このところオブリビオンへの志願者は増えていますが、規律はもちろん、戦闘力についてもまだまだ訓練が必要です。急いてはことをし損じる

それにオブリビオン全体が失った自信を取り戻すには、私が部隊を率いた方が士気も上がるでしょう

ヒゲをさすっていた男性はそれを聞くと微笑んで頷いた

ワタナベ、以前よりもずっと周到に考えるようになったな。思うように進めるがいい

善は急げです。私は明日、あいつらを連れて異合生物を迎え撃つことにします……

男は頷きながら陰から姿を現し、ワタナベの肩をポンとたたいた

ここは私たちに任せろ、オブリビオンよ……君の凱旋を待っている