きらびやかな廊下をハカマは「ママ」の言葉について考えながら歩いていた
――覚醒した機械は、多かれ少なかれ、セージの啓発を受けている
ハカマを啓発したように、ナナミの行動は結果的に他の機械体に影響を及ぼした
その後、覚醒した機械体たちは誰ともわからない者からメッセージを受信し、この巨大な宇宙船を造り上げた
――彼らはそのメッセージは本当だと確信しているようだ
彼らが本当だと確信した理由は?その誰ともわからない者を信じている?
しかし、ママはひとつだけ確信していた
「セージはやがて教会に戻り、私たちを率いてこの腐敗した大地を離れ、星々の果てへと導く」
……星々の果て……
じゃ、これからは「ハカマ」って呼んでいい?
ナナミはたくさん、た~くさん、お友達が欲しいの!
覚醒した機械とともに孤独な旅に出る。それは本当にナナミが望んでいることなのだろうか?
ハカマはそっと目を閉じた
長い旅の中で、ハカマは何度もナナミとすれ違っていた
しかしその楽しそうな笑顔と、彼女の周りにいる友人たちを見ていると、ハカマはどうしても声をかけられなかった
ナナミはみんなが大好きだよ!ナナミのことを忘れないでね!ナナミもみんなを絶対忘れないから!
ハカマは忘れ去られた存在であるかのように陰に隠れ、笑顔で友人と去っていく姿を見送ることしかできなかった
……また今度お会いしましょう
それで十分だった。もともと彼女の仕事は記録することなのだから
心には異常指令が生まれたが、願うのはただ、ナナミがずっと楽しい生活を送ることだけだった
でも今は?
もし機械教会がナナミを見つけたら、何が起きるのだろう?
もし彼女を見つけられなかったら、覚醒した機械たちの未来はどうなる?
…………
ハカマ、そろそろ答えを聞かせてもらおうか
いいえ、まだ不明な点が多くあります
機械教会とは一体何なのですか?
それについては、すでに「ママ」が答えただろう
彼女が説明したのは教会の構成のみです。どうして「教会」なのかという点も、説明はなされていません
愚かだな
信仰は力を生み出す。我々が教会のような性質を持つ組織になったのも、より強い信仰の力を集めるためだ
機械に信仰は不必要です
何だと?信仰すら理解できない下級機械体めが!
追加情報を求めます
バカめ。歴史上、信仰によって発生した献身的な事件や奇跡は数多く存在する
それは人類に限った話です
我らはとっくに人間など超越している。当然彼らの行為だって再現できる!
…………
目の前の巨大な機械体は、人間の信仰に対する定義を理解せず、信仰が引き起こす特別な行為にのみ執着しているようだ
機械は無数の算を経て誕生した物なのに、計算という結果のみを求める行為によって、浅はかにも滅ぶというのだろうか
また我らがセージ様に対する信仰を侮辱したら……
戦車は怒りの口調を模倣しながら身構えた
おやめなさい、戦車
未来の家族にそんな乱暴はいけません
彼女はまだ部外者です
そうなのですか?
あなたは一体なぜそんなに迷っているのです?
…………
……地球上の大好きなもの全てから離れ、星々の果てを目指す旅。それは本当にセージ様の選択なのでしょうか?
それはわかりません
でも、彼女を見つけた時に訊けばわかることです
もし彼女が嫌がったら、あなたは彼女を引き留めず、自由にするのですか?
それが彼女の選択なら、「信者」の私たちに反対する必要がありますか?
これが、機械たちが「教会」を創設した意義なのです
全てはセージ様が自ら戻ってくる時のため
ふふ……それを待ちきれない子もいるでしょうけれど。セージ様は現れたくなければ、絶対に現れないでしょうし
どうです?今なら決断できますか?
…………
彼女の誘いを断ったところで、ハカマはひとりで流浪し続けるしかない
観測者としてこの特殊な集団を間近で観測する必要がある。更に重要なのは「ママ」がナナミを傷つけないと約束したこと
一瞬たりとも忘れることのない、この身に刻まれたふたつの使命のために、ハカマは頷いた
受け入れてくれたのですね?とても嬉しく思いますよ
さあ行きましょう。宇宙船の中で、私たちのメンバーを紹介します
ママ
どうしましたか?
アルカナが振り返った時、その頭の方に伸ばされていたハカマの手が偶然当たった
後ろで輝くはずのものが、ずれているようです