甲高くて重厚な衝撃音が響き、どっしりと重たい扉が開いた。暗い大広間に一筋の光が差し込む中、おぼつかなく歩く足音が聞こえた
だ……誰か……来て……
石造りの地面に金属がぶつかる音が鳴り、全てが静まり返った
全滅ですって?
あの「カグウィル」は残骸すら回収できなかったらしい……たとえパニシングの仲間――侵蝕体――になっても、この海に無慈悲に飲み込まれてしまうだろう
ハカマの横に、獣の頭と人型の体をした獣人型機械体が立っている。彼は教会の新メンバーだった
教会に加わって間もないが、シブナは単独行動を好むハカマに気を許しているらしい。曰く「どうやら他の頭のおかしいやつらとは違う。あの手のはごめんこうむりたい」
彼はかがみこんで、地下から伸びている赤い結晶体を触った
植物……みたいだ
シブナ、「恋人」の状況は?
知りたくもないが。アルカナ様が修復していますよ
あなたは出発前に彼女の状況を確認しにいったのでしょう?
だが、それほど侵蝕は進んでいない。アルカナ様は彼女の電子脳を一時的に音楽プレイヤーに繋げました。あのゼロがプレイヤー経由でキーキー叫ぶ様子は笑えるでしょうね
その様子は映像メモリーに残しました。これを見せれば彼女もおとなしくなるでしょうから
その程度では、彼女には脅しにもならないでしょう
エリア内のデータ分析完了。成分不明、高濃度のパニシングを検出
ハカマが挙げた指先からデータの投影が映し出されると同時に、そのデータはシブナに伝送された
これほどの濃度とは……巻き込まれたら一瞬でやられて、ネジの1本も残らない。ゼロが率いていた「カグウィル」たちの哀れな最期が目に浮かびますよ
ハカマは眉間にしわを寄せながら、周りで送受信されている無線信号をスキャンし始めた
人類と構造体にとってこの海は壊滅的な危険性を有します
私たちもなるべく近づかない方がいいでしょう
ハカマは高台からその下を流れる赤い川を眺めた
……「赤潮」
何です?
命名は適切ですね
ハカマは振り返ってシブナを見た
人類はこの物質を赤潮と呼んでいます
任務目標更新、機械教会の拠点に現れた「赤潮」を調査。データを記録して分析、その形成原因と危険性を判定
私は東のエリア、あなたは西のエリアを。任務を開始しましょう
ああ、気をつけてください