Story Reader / 叙事余録 / ER01 遥かなる方舟 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER01-3 2回目の誕生

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――システム起動中

――ロジック回路チェック:正常

――記憶装置確認:異常あり

――感情アナログモジュール状態チェック:異常あり

――環境モニタリング起動:完了

――記憶装置の欠損を検知

――外部端末の欠損を検知

――タスクの異常を検知

――起動

真新しい視野で周囲を認知するのは初めてだ

周りから次々と爆発音が聞こえる。室内はその衝撃で絶えず震動している。混乱の中、コードが切断された巨大コンピュータが警告音を発しながら倒れ、完全に停止した

「彼女」の一部だったものは、灰色の機械のガラクタと化していた

欠けた視野に端末の前で作業する顔見知りの人類が映った。彼女の服は血にまみれ、まとめていた金髪は首もとでバッサリと切られている。高精度の攻撃か何かを受けたらしい

ハカマ

負傷者を確認……医療支援を、要請します……

現場の状況をスキャンしたあと、自分の声が耳元で響いた。その声は管理AIが一番よく使用していたシミュレーション人格の声に設定されている

しかし全ての接続が遮断してしまったため、彼女の要請には一切の返事がなかった

……間に合った……

よかった……あなたはまだ侵蝕されてない……

作業を終えた女性が、体をなんとか支えるようにして近寄ってきた

その血まみれの顔をはっきり捉えた時、彼女がこちらへと手を伸ばしてきた

頬に柔らかく、濡れた感触を感知した。人間の指と、血だ

あの子があなたにつけた名前……確か「ハカマ」、だったわね?

……あなたのロジック回路はすでに……ゴホッ、ベースとなる身分識別をその名に変更してある

あなたは自らその名前を受け入れたのね

傷口の深さと失血量から判断するに、激しい苦痛を感じているはずだが、彼女は微笑んでいた

ハカマは女性の瞳に映る自分の姿を見た。その姿は冷たく巨大なコンピュータではなく、赤いランプが点滅するカメラでもない。それは、人間の女性の姿だった

自分のプログラムはどうやら、巨大なコンピュータからバイオニックに移されたようだ

白い髪の人型機械はゆっくり手を持ち上げると、自分の体を観察し始めた。初めての体験に新しい電子脳内の意識が急速回転し、指先からは有用な情報全てを取り入れている

識別IDによれば、この機体はバイオニック企業が最新のサービス型メイドロボットとして市場投入を予定していた原型機らしい。子供にも馴染むよう若い女性の外見をしている

パニシングはもう研究所に蔓延している……登記にある機械は全て廃棄処分され始めていて……時間がなくてこれしか用意できなかったの

研究員は白衣のポケットから光るドライブ端末を取りだし、ハカマのうなじから伸びるコードにさっと接続した

管理条例では、機械意識実験に関する全ての資料とデータを破棄しなきゃいけないんだけど……

「ハカマ」は、どの機械や人類の記録にも出現しない

「ハカマ」、その名前はある「友人」からの贈り物

……ごめんなさい。こんな形で……あなたをこの世界に誕生させてしまった……

――機械実験に関する全ての資料、発生した大規模の機械侵蝕……さまざまなデータが臨界点ギリギリの速さでコードを経由し、彼女の記憶装置に伝送されてきた

門の外からは衝撃音や人類の悲鳴が聞こえる。頑丈な扉がみるみるうちに形を変えていき、繰り返される爆発音が死のカウントダウンのように響いている

ハカマの意識は滝のようなデータの奔流に埋めつくされた。そしてコマンドもないというのに、彼女の優先事項にある固有名詞が表出した

申請確認……実験体MPL-00の現状について

私たちは5時間前に、彼女の位置情報をロストした

でも、彼女は侵蝕されず逃走している、そのことはわかっている

……どうか、彼女を……

そう言って口から大量の血を吐くと、木から枯葉が落ちるように力なく、彼女は冷たい床にくずおれた

女性研究員

見つけて……保護して……

ハカマ

了解しました。「実験体MPL-00の捜索及び保護」を最新指示として受令しました……

女性研究員

違う……これは指示じゃなくて、私からの、お願い……

どうか……ナナミを見つけて、守ってあげて……

私たち人間が子供を自分の命の延長と考えるように……この手で作った機械たちも同様なの……私たちの誇り……

あなたの成長過程を見ることができて……嬉しかった……

だから……

ハカマの認知は急速に再構築されている最中だった。目の前の人類は乾いた声で何かを話しているが、その言葉をハカマはまったく理解できていない

ハカマ

最後の指示について、理解が不足しています。説明を求めます……私に……説明をお願いします

女性の生命力はほとんど残っていないようだ。彼女は唇を震わせながら、最後の力を振り絞ってハカマの指を握ってきた

彼女の顔に静かな笑顔が浮かんだ。なぜ人類は死の直前にこんな表情をするのだろうか、ハカマには理解できなかった

ハカマ

……

ハカマは何度も先ほどの質問を繰り返したが、命の火が消えた人類から答えが得られることはなかった

いつの間にか爆発と衝撃がやんでいた。恐ろしいほどの静寂の中、データ伝送完了の音が鳴り響く。膨大なデータの伝送が終わって初めて、彼女は機体の完全な制御権を取り戻した

彼女は体を動かし、ゆっくりと扉に近づいた。扉の前に到達する頃には、すでに機体の操り方を完全にマスターしていた

外で動いていた機械と人類はもういないようだ。ロックされた扉は機械の力で軽々と開いた。開けた瞬間、血の匂いと煙がなだれ込み、ひとりの男性が屋内へと倒れ込んできた

ハカマはその人類を知っていた。女性研究員と常に行動をともにしていた。研究所の外においては彼はナナミの父親だった男性だ

ナナミはいつも天真爛漫な笑顔で自分の温かな家族の話をしていた。自分を愛する両親のことをよく話していたものだ

地面に倒れている研究員の端末に、最後となる脱出のための便が離陸したというメッセージが表示されていた。彼らはそのフライトでここから離れる予定だったのだろう

男性の周りにはたくさん機械の残骸がちらばっている。命が尽きるまで彼は後ろの扉を守り、制御を失った機械たちを阻止していたようだ

「ナナミを見つけて、守ってあげて」

女性の声が電子脳に響く

自分にコマンドを出す人類はもう存在しない。だが彼女は自分のやるべきことをよく理解していた

まず、この場所から離脱すべきですね

脱出、実行開始