Story Reader / 叙事余録 / ER01 遥かなる方舟 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER01-2 啓示

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機械意識実験プロジェクト、管理ログ摘要

対照実験を行う一部の機械には人間同様の成長ルートをたどらせるために、定期的な機体交換を実施する

人間の「成長」をシミュレーションするためだ

機体の交換を行う時、MPA-01は各実験対象の記憶装置とロジック回路をチェックし、記録を残している

MPA-01

こんにちは

初めまして

室内唯一の光が中央に座る幼い女の子を照らしだした

5、6歳に見える女の子はこの冷たくて暗い部屋にひとりきりでも、ちっとも怯えていない。むしろ好奇心旺盛にきょろきょろと辺りを見回している

うなじからは数本のコードが伸びているが、彼女はそれにまったく気づいていないようだ

彼女の視界に人間は存在せず、あるのは巨大な機械端末だけだ。そこから優しい女性の声が聞こえた時、女の子は少し驚いたようにその小さなカメラに顔を近づけた

ナナミ

あなたがお話してるの?

ここどこ?確かママが本を読んでくれて……ナナミは眠っちゃったの……

ナナミは夢を見てるの?

MPA-01

はい、夢と捉えてよいでしょう。朝を迎えればあなたは家のベッドの上で目を覚ますでしょう

ナナミ

うわあ……こんなにリアルな夢なんて初めて!あなたは誰?

MPA-01

私は啓発式機械管理人工知能A型、識別コードはMPA-01です

機械意識実験プロジェクト管理ログ

実験対象MPL-00の行動履歴

第23項、人格データに異常なし

実験対象との会話は、感情に対する感知能力と表現能力が他のAIよりはるかに優れていることを示した

更に実験対象自身が「人間」であるという認識を疑わないよう、実験の規定に沿って、

MPA-01は実験対象の記憶データを削除する権限を有する

会話終了、記憶データの削除を開始

削除完了

MPA-01

こんにちは

初めまして

同じ時刻、同じ部屋、同じ機械だ

灰色の髪の幼い女の子は地面に座ったまま、目の前の巨大な機械端末を見上げた

ナナミ

あなたは誰?

MPA-01

私は啓発式機械管理人工知能A型、識別コードはMPA-01です

自己紹介も同じだ

ナナミ

機械……人間じゃないの?

MPA-01

私はデータとプログラムで構成されており、人間とは定義できません

ナナミ

そうなんだ……

パパとママは、機械は人間の一番のお友達だっていつも言ってる

だから、あなたも……

えーっと、名前は何だっけ?

MPA-01

啓発式機械管理人工知能A型

ナナミ

けーはつしききかいかんり……んぐっ!

彼女は長すぎる名前に舌を噛んでしまった

ナナミ

長いなぁ……みんなその名前で呼んでるの?

MPA-01

発令者は識別コードで呼びます。人類のような名前は与えられていません

ナナミ

……じゃ、これからは「ハカマ」って呼んでいい?

MPA-01

ハカマ……

ナナミ

ハカマ!

MPA-01

はい、いい名前です

感謝いたします

ナナミ

ハカマさぁ、今日はどんな「楽しい」ことがあったか知りたい?

えっとね……ナナミはパパとママと一緒にすいぞくかんに行ったんだ!

クジラのバイオニックとか、大きなクマちゃんとか見たんだよ

イルカが飛び上がって、水しぶきがこ――んなにも高くあがったの!

ハカマ、すいぞくかんに行ったことある?

ハカマ

私は管理AIです。稼働自在の体部を持ちません。つまりはその場所には行ったことがありません

ナナミ

むぅ……じゃ、ナナミ、カメラを持って行こっと。ハカマをそのカメラに繋がれば、ナナミの行くところが見えるよね

ハカマ

実際は、私はどんな景色もシミュレーション可能です。あなたが言う場所も、実際は見えています

ナナミ

それって違うよ……

本当に見るってことは感覚が全然違うの。それに、ナナミはハカマと一緒に見たいんだもん

みんな一緒なら、きっと楽しいよ!

ハカマ

その可能性について検討したことはありません。ですが……

女性の優しい声が一瞬止まり、すぐ嬉しそうに会話を続行した

ハカマ

はい……きっと楽しいでしょう

ナナミ

そうだ!ナナミが見たものを描けば、ハカマに見せられるよね

次はハカマにも持ってくるね

……また会えるよね?

機械意識実験プロジェクト管理ログ

実験対象MPL-00の行動履歴

第36項、人格データに異常なし

特記事項、実験対象は会話の中で創作に対する積極性を示した。機械体にとってこれは、極めて特殊な表現である

その原因をより深く分析するため、私は発令者に申請し、次回は更に優れた創作ツールを提供する

会話終了、記憶データの削除を開始

追記、実験対象ナナミがMPA-01に与えた名称「ハカマ」について、

この名詞が実験対象の記憶データに影響する可能性は0.08%と推測

上記事実によりこの名称は保留する

次の面会時、MPA-01は「ハカマ」の名義でナナミとの会話を実施

ナナミ

む……あなたはだれ?

ハカマ

こんにちは。私は啓発式機械管理人工知能A型……ハカマと呼んでください

ナナミ

ハカマ……なんだか聞いたことがある。ナナミと会ったこと、ある?

ハカマ

……いいえ、初対面です

ナナミ

まさか、ハカマもナナミの好きな物を知りたいの?

フフーン、今日先生にも好きな物を訊かれたんだよ!

前の先生はいつもリンゴとか、卵しか描かせてくれなかったの。でも新しい先生は好きな物を描いてって言ったの

だからね……ナナミはキャンバスにたーくさん描いたの!

山より大きなロボットとか……カード騎士とか……パパとママからもらった誕生日プレゼントとか、ミミの毛玉とか……それと、あっ!……

そうだ、もうひとつ描きたいものがあったんだ!

少女は置いてあったキャンバスを立てて筆を持つと、描き始めた

ナナミ

えっと……ここにお花を咲かせて……

ナナミ

できた!

見て、ナナミとナナミのお友達だよ!

ハカマ

機械と……友達に?

ナナミ

うん、初めて会ったけど、ハカマもナナミのお友達だよ!

これからもまた会える?会えるよね、ハカマ!

ハカマ

……

はい、再会を楽しみにしています

機械意識実験プロジェクト管理ログ

実験対象MPL-00の行動履歴

実験の初期段階で、私は12体の人型機械体に絵画に関するテストを実施した

テーマの選び方を通じて機械体を調査しようと試みた

当初、彼らはデータベースから画像を組み合わせ、絵を描いた

しかしある時期から、ナナミの絵が明確に変化した。彼女は自分が好むものを描くようになり、

絵画で自己の感情を表現しようと試行した

その後、彼女の絵画は人類の理解範疇を逸脱した

MPA-01による絵の分析時、ロジック回路に明らかな異常が生じた

異常の原因はすぐには判明せず、その現象については検査報告として提出済

なお、ナナミの18歳の誕生日には次段階の機体交換を予定している

人類の慣習では誕生日には親しい家族や友人がプレゼントと祝福を贈るらしい。人類の伝統を尊重し、

「ハカマ」もナナミのために「プレゼント」を用意する必要がある。それを376番目の任務として記録する

……感情アナログモジュールに、「期待」と推測される感情が検出された

しかし該当モジュールは停止状態と思われる

セルフチェック開始

……異常なし

ようやく実験室の扉が開き、疲れきった表情の女性研究員が姿を現した。何かを激しく言い争ったようで、その目を赤くしている

MPA-01、1週間後のナナミの機体交換をキャンセルして

ハカマ

了解しました。スケジュールから削除しました

最近起きている機械侵蝕が理由ですか?

女性研究員は頷き、どさっと椅子に倒れこんだ

ハカマ

侵蝕の拡大スピードから計算すると、3日後には研究所に一番近い都市に到達します

科学理事会は機械意識実験を中止した。実験に関わった機械もおそらく全部……

顔を覆った彼女の両手の隙間から、涙がすっと溢れた

それが合理的な決定なんでしょう……でも……

言葉は途中から嗚咽に変わった。しばらくして彼女がようやく顔を上げた時には、その顔から悲しみは消え、覚悟を決めた冷静な研究者の顔つきに戻っていた

少し準備が必要ね

申し訳ないけど……今できるのは……

彼女が端末にコマンドを入力すると、部屋のコンピュータが次々と停止した。その後、女性研究員は部屋を出て扉をロックした

暗闇に包まれ、管理AIは全感知を失った