決着は一瞬だった。戦闘というよりは大袈裟なアクションシーンという方がしっくりくる。蒲牢はひとり道場の中央に立ち、周りのギャングスタたちはうめき声をあげている
うへぇぇ……アニキ、いや、アネキ、すんません、もうカンベンしてください
俺らも生活のためにしてることなんっすよ
生活のためなら、ギャングになって他人をいじめてもいいというんですか?
ギャングをやっているのはただの仕事ですって。ホントは俺ら、ノーミュージック·イズ·ダイなんで
俺らには生まれつき音楽のデンプンの才ってのがあるっていうか……
ジャガイモじゃないですか。それをいうなら天賦、でしょう
それそれ、天賦の才ってやつ
音楽のデンプンの才もあるし、グループを組んで、バトルで勝ち上がろうかなって
でも……業界に入ってみりゃ、夢はいかに遠いかを気づかされて。オーディションに行っても、重視されるのは結局見た目だ。リリックの才能なんて誰も見てくれやしない
それでも頑張って歌ってたけど、コネもないし、結局は強奪とか、裏の仕事ばかりする羽目になって……
かつてのグレイトなミュージシャンだって、世間に妥協して、金のためなら口パクのショーだってやるのさ
誅魔や斬仙たちも長い溜息をついた
金のために膝つかねぇ、媚びって稼いだメシ食わねぇ、俺らの本心反抗してぇ
誰も知らん理屈、歯噛み続ける鬱屈、夢追うなと卑屈、俺の最後の屁理屈
ノーミュージック、俺らナッシング、力のねえドッグ。過去の夢は波しぶき、それを武器に磨き、未来に振り絞る勇気、この手に掴むぜビクトリー
カツアゲの猿真似、詫びて慰め、平等なんて言い訳、シャカにも頼れぬ救世
う……ちょっとわかりにくいですが、一理はありますけど、ただの言い訳にも聞こえます……
……誰もが必死なんだ
師父店長、どうしてここに?
ああ、薬を飲んだらだいぶよくなったんだよ。さすが神薬、パニ何とかなぞすぐ治ったよ
本当ですか、それは何よりです!
さて彼らをどうしま……
蒲牢、あなたはすでに立派に育ちました。そろそろ私のような古い時代の老いぼれは、舞台から身を退く潮時でしょう
ええっ?師父、ど、どういう意味ですか?私を残してどこかに行かれてしまうのですか?
いずれ、道場をあなたに継がせるつもりだったんです。彼らの処遇は、未来の「師父」に任せますよ
でも忘れないように。何が起きようが、私は側におりますよ
……
師匠はそういうと、帳場の後ろへと戻った。蒲牢は倒れている一同を見ながらしばらく考えていたが、おもむろに口を開いた
強奪は生活のためっていうのなら、私が新しくバイトを与えたら、もう悪いことはしないですか?
は?
ですから、その……
うちの道場でアルバイトしません?
ほ、本当にいいのか?
俺らみたいな世間の厄介モンでも、いいのか?
ええ、強さは決して、悪ではありません
その力で周りにいる誰かを守ってくれるなら、厄介だろうが八戒だろうが、私は誰だって受け入れますよ
アニキ、いや、アネキ……
ちょっと、何を!?急にナイフを取り出して、どうして自分を刺すんです!やめてください!
蒲牢は彼の行動を止めようとしたが、日天の動きは素早く、道場を飛び跳ねながら逃げ回っている。先ほどの言葉を聞いて、彼はいきなり元気になったようだった
天よ。この日天は誓います。何があっても、彼女は永遠に俺のアネキです!来福、旺財、椀を持ってこい。今日はここでアネキと血の契りを交わす!
いやいやいや、駄目ですって
ちょっと、誅魔さん、斬仙さんまで跪いてないで、日天さんを止めてください!
ハハハ
もう……師父も笑ってらっしゃらないで、彼らを説得してください!
すまない、あなたが他人といかにも楽しそうにやり取りしているのを見て、ついつい笑ってしまった
ね、結局これでよかっただろう?
気持ちよく晴れたある日、いつもなら静かな町に耳障りな声が響いていた
ただ今回はその雰囲気が少し変わったようだ
屋根や雲、賑やかな人々の間を通り抜け、はるか彼方から聞こえるクジラの鳴き声。蒲牢は確かにその声を聞いたのだった