セレーナの家で、優しい視線に見守られながら、青い箱のリボンをそっと解いた
包装紙を開けると、中には丸みを帯びた愛らしい動物のぬいぐるみがちょこんと座っていた。丸い耳、ふっくらとした尻尾、そして黒々とした瞳――
それを手の平で包み込むように持ち上げ、思わずその名前を口にしてしまった
はい、タヌキちゃんと名付けました
ただのぬいぐるみではありません。インタラクティブAIモジュールが搭載されていて、問いかければ答えてくれます
コンダクター、試しにその子に質問してみてください
セレーナの瞳には期待が満ちている。促されるように自然と口が開いた
こんにちは、コンダクター。タヌキちゃんです。お友達になれて、とっても嬉しいです!
こんにちは、コンダクター。タヌキちゃんは本物のタヌキです。お友達になれて、とっても嬉しいです!
タヌキちゃんはコンダクターの悩みを聞いたり、質問に答えることができます。でも一番大切なのは、素敵なお友達になることです!
ぬいぐるみのふわふわした体から聞こえてきたのは、くぐもった幼い声。ボイスチェンジャーで声色は変わっているが、聞き覚えのある響きだった
「コンダクター」という独特の呼び方を聞いて、ある考えが自然と脳裏をよぎる
……やっぱり、気付かれてしまいましたね
そう答えると彼女は顔を背け、指で頬にかかる髪を直し始めた
この装置、どこにマイクがあるのかわからなくて。このような音声モジュールを調整するのも初めてだったんです
タヌキちゃんがうまくしゃべってくれるのか、コンダクターとうまく会話できるのか、少し心配でしたが……よかった
彼女がひとりでタヌキのぬいぐるみを抱え、真剣な顔で「タヌキちゃん」に声を録音しようと奮闘している姿が脳裏に浮かび、胸の奥がじんわりと温かくなった
……コンダクター?
思わず笑い声を漏らした自分を、彼女は首を傾げて不思議そうに見つめた
コンダクターが喜んでくださったなら、それで十分です
コンダクターのためにアフターヌーンティーも用意したんです。今、お持ちしますね
セレーナはタヌキちゃんをテーブルに置いて立ち上がり、キッチンへ向かった。少しすると、陶器のティーセットが触れ合う澄んだ音が聞こえてきた
テーブルの上に残されたぬいぐるみは、丸い目でじっとこちらを見つめている。その柔らかく温かな視線に誘われるように、また問いかけてみたくなった
それでは、セレーナのお話をします
実は、セレーナはもうひとつプレゼントを用意しています。タヌキちゃんはその場所も知っています。セレーナはそれをとっておきのサプライズにするつもりなんですよ!
タヌキちゃんの声が止まったその時、紅茶の香りを携えて、セレーナが軽やかな足取りで戻ってきた
ふふふ、タヌキちゃんと楽しそうにお話してましたね。何の話をしていたのですか?
セレーナの心尽くしを台無しにしたくない、聞かなかったことにしないと――そんな考えが頭をよぎり、そっとタヌキちゃんを抱き上げ、さりげなく口元を塞いだ
ダージリンです。お口に合いますでしょうか?
よかった……コンダクターがそんなにダージリンをお好きとは知りませんでした。次のアフタヌーンティーも、同じ茶葉を用意しておきますね
セレーナは自分の反応が少し過剰なことに気付いたようだが、あえて追及せず、ただ頷いてカップに口をつけた
紅茶の香りが豊かに、穏やかに漂っている。しかし、腕の中のタヌキちゃんはずっとジタバタと動いていて、とても落ち着いて紅茶を味わえる状況ではなかった
うぅ~~~まだ話したいことがあるんです!聞いてください!
ひとときの沈黙の後、タヌキちゃんは腕の中から必死に顔を出してきた。愛らしいはずの声が、今はいやに切迫感を伴っている
コンダクター、どうしてタヌキちゃんを隠そうとするのですか?
……私を気遣ってくださっているのですね?
今回は見て見ぬふりせず、手にしていたティーカップをそっと置いて、柔らかく微笑みながらこちらを見つめてきた
タヌキちゃんは私が贈ったプレゼントなので、この子が何か失敗したり、コンダクターにご迷惑をかけてしまったら……
遠慮なく仰ってくださいね。一緒に解決しますから
セレーナの口調は穏やかだったが、言葉には確かな真心が込められていた。これ以上、彼女を欺き続けるのは難しいだろう
なるほど……コンダクターの様子がおかしかったのは、タヌキちゃんがサプライズをバラさないかと心配していたからなのですね
もう、この子ったら……私まで恥ずかしくなってきました
私が用意したプレゼントは、おまけ程度のものです。タヌキちゃんがハードルを上げてしまったから、コンダクターのご期待に応えられるか不安になってきました
彼女は気恥ずかしそうにタヌキちゃんを抱き上げ、わざと「怒ったふり」をして、その鼻先を指でつんと軽く弾いた
あなたってば、お騒がせなんだから……どうしたものかしら?
だって……「秘密」だなんて、ひと言も言わなかったから!
そっくりな口調の「ふたりのセレーナ」が言い合う光景に、思わず笑みが零れた
コンダクター……
その言葉を聞いた瞬間、セレーナの表情から恥じらいがすっと消え、代わりに嬉しそうな期待の眼差しが向けられた
コンダクターが「サプライズ」の存在を知ってしまったのなら……
待つ必要はありませんね。今ここで、タヌキちゃんからプレゼントを渡してもらいましょう
おめでとうございます、コンダクター!サプライズ·モード発動です!
軽快なメロディとともに、ぬいぐるみのタヌキは、ふわふわのお腹から1枚の白い便箋をゆっくりと取り出し、丸い手で一生懸命にこちらへ差し出してきた
その便箋は、何年も前に何度も封筒から取り出したものと同じように、柔らかく滑らかで、手の中で微かに木の香りを漂わせていた
どうぞ、開けてください
彼女は微笑みながら、そう言った
<i>親愛なる[player name]へ</i>
<i>あなたがいつこの手紙を見つけるのか、私にはわかりません。外は晴れていますか?どんな風が吹いていますか?</i>
<i>私は、今日のあなたが笑顔でいることを願っています。</i>
<i>言葉を綴ることは、時のレコードにそっと旋律を刻み込むよう……</i>
<i>時はいつも、私が思うより早くすぎ去っていきますが、音楽には魔法があります。</i>
<i>再生ボタンを押すだけで、過去の旋律が、いつでもあなたの傍に寄り添ってくれますから。</i>
<i>この手紙が、さざ波のように心に響くメロディとなり、いつまでもあなたの胸の中で優しく響きますように。</i>
<i>今日だけではなく、明日も、そのまた次の日も、あなたがずっと幸せでありますように。</i>
<i> いつまでもあなたを想う、アイリスより</i>
