Story Reader / 祝日シナリオ / 唯一無二のあなたへ / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ジェタヴィと過ごす時間

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最後の任務報告書に署名をして、山のように積み上がった書類の上にそっと重ねる。椅子の背もたれに体を預けると、安堵の吐息がふっと漏れた

天井のいつもの無機質な白い光をぼんやりと見つめた。誕生日はこうして退屈にすぎていく……のだろうか?

ドカーン!!!――まさにその時、目前の光景が突如として様変わりした

巨大な火の玉が床に落ち、頬を焼くような熱風が吹き荒れる

??

天に選ばれた人、早く逃げて!ここは危ない!

崩れた建物の隙間から、少女が転がるように飛び出してきた

見てわからない?世界の終末ってやつだよ!

けれど、今の自分は確かにグレイレイヴンの休憩室にいたはず……

ほら早く!逃げるよ!

少女は焦った様子でこちらの手を引き、くるりと踵を返した

彼女の後ろ姿が視界に入る。小さな尻尾が地面の裂け目へと深く突き刺さり、何かに接続されているようだった

うわぁっ!?

ちょっと、何すんの!?

掴むなら尻尾じゃなくて、手でしょ!!

……はぁ、つまんないの

視界がゆっくりと元に戻り、再びグレイレイヴンの休憩室が目の前に広がった。やはり、先ほどの終末の景色はジェタヴィがスマートプロジェクションで作り出したものだった

……空中庭園が落ちちゃうの!

だからこそ、今のうちに逃げなきゃ。落ちてからじゃ遅いでしょ

さっきキミも見たでしょ?ドカーンって地面にぶつかった火の玉。あれは、空中庭園と地球が正面衝突する瞬間

わざわざシミュレートして見せてあげたの

うっ……

そ、それは、私のデータベースに適切な素材がなかっただけ!今はまだ空中庭園みたいな複雑なモデルは無理なの。そこは雰囲気で察してよ

こちらが動じないのを見て、少女は小さく溜息をついた

そして「よいしょ」と呟いてデスクにぴょんと飛び乗ると、ぶらぶらと脚を揺らし始めた

あのさ、天に選ばれた人……

彼女は頬に手を当てて、遠くを見つめながら小さな声で言った

ずっとここにいて怖くなること、ない?

高く宙に浮かぶ庭園、代わり映えのない日々の繰り返し。退屈で、時々絶望的で、しかも終わりが見えない

彼女の視線がこちらに戻る

そういう日々を「世界の終末」って言うんじゃないの?

ちょっと刺激を与えてみたの、ちょっとだけね。そうしないと、この空気に呑まれて麻痺しちゃいそうだったから

あのさ……今日1日だけでいいから、一緒に逃げない?ふたりだけで、すっごく遠い場所に

…………

「世界の果て」

こうしてジェタヴィに空中庭園から「攫われ」、世界の終末から逃れるために、世界の果てへ向かう旅に出たのだった

降着装置の唸りを響かせながら、輸送機は極寒の雪原へと降り立った

ジェタヴィは手際よくこちらに厚い防寒着を着せ、ジッパーを上げて全身をしっかりと包み込んだ

あはは!雪だるまみたい!でも、デスクに座ってる時より、ずっと可愛いよ!

仕方ないよ、キミがカッコいいのは戦場で走り回ってる時なんだから。褒めるタイミングなんてあるわけないでしょ

超気に入った!というか、書類とにらめっこして眉間にシワを寄せてるキミ以外は全部好きだな~

じゃあ雪だるまさん、ついてきてね。もう少しで着くから

彼女はにっこり笑いながらこちらの手を取り、白銀の世界へと足を踏み出した

雪に刻まれた足跡が、ぽつりぽつりと連なっていく

ジェタヴィは時々手を離し、あちこちを見回していた。視界からふっと消えては、また不意に現れる。まるでかくれんぼでもしているようだ

雪の霧をかき分けると、彼女の姿が道標の側に現れた。ずっとそこで待っていたかのように

もうすぐ雪がやむかも

彼女の視線を追って空を見上げると、舞い散る雪が次第に弱まっていく

そして雪の壁の隙間から、微かな銀光が零れ落ちた。それは水面のさざ波のように遠く、儚く、広がっていく

光は波打ち、煌めきを増しながら、ついには天幕の片隅から静かに垂れてきた

――オーロラが姿を現した

その光が彼女の瞳に映り込む。まるで宝石が揺らめくように、幻想的で美しい

雪原、オーロラ、そして少女――この見渡す限りの静寂の中にいるのは、ジェタヴィと自分だけだった

どう?私たちの逃亡先、悪くないでしょ?

ふふっ、綺麗すぎて言葉も出ない?

……連れてきたかったから。ただそれだけ

彼女は視線を逸らして、退屈そうに足下の雪を蹴ってみせた

だって、今日は誕生日でしょ?……誕生日って、大体世界の終末に遭遇するものじゃない?

だから、全力で逃げなきゃ

だって、私の誕生日はいつもそうだから

ジェタヴィが誕生した日――彼女はいつもマトリクスの中で「世界の終末」と言えるような、想像もつかないほどの苦難に見舞われていた

いつも天に選ばれた人が傍にいてくれて、私の手を引いて、遠く離れたところに連れていってくれたでしょ?

だから、今度は私の番。キミの誕生日に、キミを連れて逃げようってずっと思ってた。あの時、キミが私の手を握ったみたいに

今日だって、本当に空中庭園が落ちるんじゃないかって、ちょっと怖かったんだから。どこかから怪物が出てきたり、エンジンに火がついたりとか……

マトリクスにいた時はいつもそうだったし。誕生日って、絶対に悪いことが起こるんだもん

だから、バカみたいに隅から隅まで念入りに調べて、あのガミガミうるさい機械バアさんの中身まで徹底的にチェックしたの

でも異常がないってわかって、安心した。で、キミを探しに休憩室に行ったら、キミが書類の前で憂鬱な顔をしてたってワケ

世界の終末って、色んな姿でやってくるんだね

うん。たとえ1日でも、今日だけは素敵なこと、嬉しいこと、楽しいことでいっぱいになれたらなって思って

彼女が星空と雪を踏みしめて歩み寄る。その姿は、美しい精霊のように見えた

戦場も任務もなくて、ただジェタヴィと天に選ばれた人だけでのんびりしたり、笑い合ったり、雪合戦したり、雪だるまを作ったりして過ごすの

364個の夜がどんなに暗くても……今日、私たちだけのオーロラが、世界の果てでちゃんと待ってる

彼女は目の前まで来ると、そっとこちらの手を取った

この光が……全ての星々を、そして私とキミを照らしてくれますように

彼女は夢中で抱きついてくると、防寒着の柔らかな綿にそっと頭を預けた

……誕生日おめでとう、[player name]