Story Reader / 祝日シナリオ / 縁を紡ぐ糸 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

絆と絆の契り

>

村の花屋

夜、村の花屋

花屋の外でしばらく待っていると、やがて、再び扉が開かれた

紫藤の長い蔓が狐の首にかけられた布飾りに通され、それが高く持ち上がって扉の外へと出る

狐はじっとしたまま前後の足をぶらんと垂らし、落ち着いた目のまま、蔓が自らを地面に下ろすまで動かないでいた

紫藤

次の手順では縁結びの姫様の出番はありません、外でお待ちください

わかってます――

狐は小さな子供のように語尾を伸ばし、扉が再び閉まると、ふらふらとこちらの足下に寄ってきた

はぁ……紫藤道士は水臭くなりましたよ。新しい衣装を私に見せてくれないなんて

無理やりなんかじゃありませんよ!

あなたとセレーナがそれなりに親しい仲であるからこそ、夫婦を演じることをよしとしたのです。これは、とても大きな譲歩ですよ

でも、婚礼衣装まで紫藤道士のものを着るなんて!あまりにもやりすぎです

法術の助けがあれば早いものです

雲謁はそう言いながら首を伸ばして、見えない花屋の店内を何度か覗き込んでいた

見たいな……

……わくわくしないんですか?

狐はきょろきょろするのをやめ、首を傾げてこちらを見つめてきた

あなたたち、ちょっと変ですよ。こんなに重要なことを、そんなに気軽にしちゃうなんて

自分には無関係なのにわざわざ夫婦を演じるなんて。セレーナは自然体だし、あなたも何も気にしてませんよね

好きな人がまもなく婚礼衣装を着て現れるというのに、なんでそんなに平然としてるんですか

狐は少し考えてから、こちらの服の足下をカリカリと少し引っ搔いてきた。反射的に下を向いてしまう

狐は澄んだ純粋な瞳でじっと見つめ返してきた。その目から光がふわりと広がった瞬間、自分の意識が何かにそっと触れられたのを瞬時に悟った

すぐさま警戒したものの、雲謁は特に気にする風でもなく、水に濡れた猫や犬のようにブルルッと体を震わせた

あなたたちの関係を見ただけなので、ご安心を。見たのは記憶ではなく、縁だけです

手紙に始まり、才能を敬い、性格が調和し、品が紡いでいる

あなたたちの関係、ロマンチックですね……素敵です、想像以上に素晴らしかった

縁結びの姫を務めてからというもの、こんな関係性はほとんど見たことがありません

狐は頭を垂れ、何を考えているのかがわからない

ますます謎……

狐の頭をポンと軽く叩こうと手を伸ばした時、驚いたような呟きと、扉のギィィという開閉音が響いた

セレーナ

何をされているんですか?

顔を上げると、小屋から出てきたセレーナと視線がぶつかった

月光が彼女の眉と目元を柔らかく彩り、いつもは上品で清らかなその瞳に微かな艶やかさが加わっている。それは晩夏のアンニュイな感情を少しだけ想起させた

夜風が彼女の衣装をふわりと舞い上げ、袖口から雪のように白く細い手首が見え、あまりの眩しさに目が離せない

口を開こうとするも、言葉が照れるようにして唇の端で止まってしまい、どうしても出てくれなかった

ただこうして静かに向かい合っているだけで、言葉がなくても美しい瞬間だった

足下からの物音に思わず下を向くと、得意げに笑う狐の顔が目に入った

ほら、やっぱり期待してた!見とれていたでしょう?

本能的に否定しようとしたが、顔を上げた瞬間、あの水のように優しい瞳に視線が吸い込まれる

彼女は軽やかに半歩前に踏み出して軒の影から進み出ると、自らの姿を余すところなくこちらの視界に差し出した

言葉は発していないのに、まるで全てを語り尽くしたかのような時が流れた

神社の石畳の道

夜明け

夜明け、神社の石畳の道

狐はふたりを連れて山のふもとに到着すると、石畳が始まる場所で立ち止まり、少しためらいを見せた

……雲謁さん?

……大丈夫。ただ……ここに来てから、何を言えばいいのかわからなくなって

狐は何回かくるくると回ったあと、突然後ろ足で顎を掻いた

はぁ、もういいや。どうせ会わないと解決しないし、理由は着いてから訊けばいい!

セレーナ、道中で私が教えた法術の言葉を覚えていますか?完成させるには藤の葉を必ず使ってくださいね

そして[player name]

残りの法力を使ってあなたを変装させようと思ったのですが、あなたが変わりすぎていて

とても強い願力をその身に持っているようですね。彼岸での本当の正体が何者なのかは知りませんが、とりあえずそれらを全て目覚めさせておきました

少なくとも今夜、あなたは妖怪たちの目に特に目立ち、強く映ります。どうかバレないようにしてくださいね

じゃあ、私は隠れておきます。山に向かう準備を!

そう言い残して狐は一条の霧に姿を変えると、セレーナの腰に着けた仮面と一体化した

……

それを見たセレーナは振り返り、こちらと視線を交わしてそっと微笑んだ

妙な感じです。まるで伝説の中に足を踏み入れたような

私たちは妖怪で……本にあるような物語みたいに、これから神の披露宴を見に行きます

その仕草からそこはかとなく漂う、名状しがたい雰囲気を見下ろしながら、セレーナと一緒になってクスクスと笑わずにいられない

……!

セレーナは少し驚いた様子で、小さな笑い声がぴたりと止まった。それから唇をきゅっと引き結んで、こちらを軽く睨んできた

コンダクターは時々、意地悪をなさる……

わかりました、少しお待ちください

セレーナはそれ以上何も言わずに、石畳の脇にある最初の灯籠まで歩き、片手に藤の葉を持ち、もう片方の手でそれを押さえながら咳払いをした

客は山川より来たり、神社前で明かりを灯す――

姿を見せ礼を成す、楽に縁を繋ぐ――

その言葉を言い終えるとたちまち風が吹き、木々が揺れ出した

チリン――

聞き覚えのある鈴の音の中、どこからともなくふたつの人影が現れ、続いて輿が宙にふわふわと浮かんできた

縁結び神の下に仕える巫女です。賓客のおふたりにお会いできて光栄です

お名前を頂戴できますか

私は花の妖怪紫藤、こちらは連れ合いです

紫藤様でございますね

輿にお乗りください

セレーナと視線を交わし、手に手を取って一緒に輿に乗り込んだ

息を潜めて静かにしていると、ふたりの巫女は低い声で詠唱し、以前見たのと同じく輿は揺れながら山の中へ入っていく。その間ずっと互いに押し黙っていた

長い時間が経ち、目的地に着いたというように輿が着地した

巫女

礼は尽くせり、神社はそこに

賓客の方はどうぞご自由に、巫女はこれにて失礼いたします

輿の中でしばらく待って外が静かなのを確認してから、セレーナと一緒に外に出た

輿から降りると、輿はすぐに山風となって消えていった

時刻はもう早朝に近い。巫女が立ち去ると、夜空の下で山道の鳥居や森??の灯籠はひときわ静寂に包まれて見えた。あたかも、たった今の出来事が単なる妄想であったかのように

すごいですね……

コ·ン·ダ·ク·ター?

……

セレーナは深呼吸をして顔を背け、蚊が鳴くような小さい声で言った

我が伴侶よ、おふざけがすぎますよ

[player name]は、もう……

セレーナはぼやきつつもすぐに落ち着きを取り戻し、1歩前に踏み出すと、手中の藤の花びらが流れる光に変わった

まるで、考えるだけで何でもできるかのように、不思議な力が彼女の指先に宿っている

セレーナは地平線に現れた微かな光の線を見つめながら、手を伸ばしてひと捻りし、声を大にした

朝の光を少し拝借します

すると突然、空から光が降りてきて、横にある灯籠をぱっと灯した

その光は連なって蔓のように昇りながら、曲がりくねった長い山道を照らし出す

光を浴びた木々は瑠璃のような質感で、光と闇の境目にある石段にヒカリゴケが生え、彼女の指先から舞い落ちる藤の花びらは光の粒子と化していた

セレーナ

……

……コンダクター

セレーナは目の前の光景を見つめながら呟いた

セレーナは振り返って、小さく微笑んだ

光が彼女の頬に降り注ぎ、目の前の夜を打ち払って輝いている

セレーナ

この美しい景色を一緒に見てくれる人が、あなたでよかった……