激しい雪が視界を遮る。固く降り積もった雪の中、一歩進むのも困難だった。この状況では、意志の力で前進することもできない
明日、本堂に突入すれば、何が起こるかわからない。外の状況など、気にしていられない
先回りして、皆にはできる限りの自衛をするよう伝えた。万が一、状況が悪化したら、山の麓に撤退して空中庭園の支援を受けるようにとも
そうは言っても、ここにはαがいる。そこまで心配する必要はないだろう
一歩一歩、踏ん張りながら僧房に戻った。ひと息つこうとしたところで、背後の古びた木製の扉がコンコンと音を立てた
αは即座に刀を抜き、扉の前に構えた。弾丸をも切り裂くことができる刃が、扉の向こうの人間と僅か数cmの距離にある
純白の髪が顔に触れる。お互いの呼吸音がはっきり聞こえるほど、接近している
ボス!俺たちです!いますか?
遅い時間だし、腹が減ってるかもしれないと思って、飯を作ってきました
αは扉の側に立って構えたまま何も答えず、扉を開ける素振りも見せなかった
俺たちは施しを受けるだけの存在になりたくないんです。難民は卑屈な存在ですが、乞食じゃない。だから、人間としての誇りは失いたくないんです
お、俺たちの願いは単純です。ただ、自分の力で生きていきたいだけ。仏に祈ろうが、神に頼ろうが、誰も助けには来てくれないから
でも、ボスがあの時、俺たちを救ってくれたことをずっと感謝しています
あ、ありがとう。あんなに色々としてくれて
真っ当な普通の人々だ。苦難に耐え、賞賛されることもなく、ただひたすら懸命に生きていく。たとえ自分が消えゆく運命の小さな火花にすぎないとしても
外の雪を踏む音が遠ざかり、αの緊迫した様子が少しずつ緩むのを見て、思わず言葉が漏れた
フン
私は、弱い人間をペットとして飼う趣味はないわ
少なくとも私の興味は惹かないわね
この目で見てるわ。多くの構造体よりも強い人間を
αは刀を下ろして鞘に納め、手慣れた様子で薪をくべ、ゆっくりと座った
自分は無様な姿勢を立て直して、ドアを開けた。そこには、まだ少し湯気の立つ2杯の素うどんが置かれていた
彼らはこの食材をどこで調達したのだろう。こんな寒さに震える中での温かい食事は、ありがた味が倍増する
質素な碗や箸には少し欠けがあった。おいしそうな香りが鼻をくすぐる。具材がないことが、かえってうどんの滑らかさとコシを際立たせていた
食事がもたらしてくれた温かさは、この寒い夜に最高の慰めとなった
他者の善意を身をもって感じると、心まで温まる
αはじっと麺の入った碗を見つめるだけで、一向に手を付ける様子がない。そんなαをしばらく眺めていた
そんな風にじろじろ見るのは、失礼じゃない?
チッ
……
図星だったようだ
雪の中で啜る熱々の麺。それは最高においしい。この粋なおもてなしに感謝するばかりだ
αは鋭い目つきをこちらに向けた。そのニヤケ顔をやめろと警告しているみたいだった。慌てて視線を碗に戻し、麺を啜って見本を示した
柔らかな麺が口の中に流れ込み、どこか懐かしく優しい味が胃腸を満たすと、緊張で固くなっていた神経も次第に緩んでいった
視界の端で隣を見ると、あまりにも不器用に格闘しているので、少し落ち着かなくなってきた
必要ない
ふん、くだらない
どうにか数口食べたが、αは何も言わずに、ムスっとした顔で箸を置いた。こんな彼女の姿は本当に珍しい。生きていると、いいことがあるものだ
αは微かに片方の口角を上げ、碗をこちらに押しやった。澄んだスープが波打ったが、1滴もこぼれなかった
あなたが言ったのよ、無駄にしちゃいけないって
考えを変えたわ。あの名高いグレイレイヴン指揮官がここで私と「無駄な」時間をすごす。それって、実に興味深いわね
どうにか1人前以上の食事を平らげると、めったにない満腹感が眠気を誘った
先ほどの張り詰めた交渉の後で、安全な場所に腰を下ろしていると、アドレナリンの代わりに、一気に疲れが押し寄せてきた
外の雪はますます激しくなり、雪が屋根を叩く音が響く。空は暗闇に包まれ、時間の感覚もなくなってしまった。もう深夜だろうか
夢にも思わないような場面だろう
外は大雪で山が封じられ、見渡す限り氷に覆われている。小さな僧房は、荒れ狂う白波の中で漂う小舟のように、ふたりを乗せて揺れている
この時だけは、ふたりは互いに手を取り合った運命共同体だ
αは頭を傾け、外の雪を眺めていた。薄暗い灯りがちらちらと揺れ、彼女の横顔を照らしている
強く、美しく、そして揺るぎない信念を持つ、唯一無二のα
彼女は自分の視線に気付くと、目を逸らさずに真っすぐにこちらを見返した。左の瞳に映る炎はとても穏やかだ
最も警戒すべき相手から視線を外さない、いい心がけね
でもこの暴風雪の間にしっかり休んでおいた方がいいわ
どう受け止めていいのか迷い、何も言えないでいると、αは自分の考えを見透かしたかのように、興味深げな表情で顎に手をやった
安心して、あなたが寝ている間に襲ったりはしない
心配はいらないわ、私が夜の番をするから
あなたと違って、私は眠くならないの
考えすぎないで。常に警戒していると無駄に消耗するわよ
今は……これもひとつの夢だと思えばいい。話したいことがあるなら、目が覚めてからでも遅くない
さあ、目を閉じて
彼女の提案を素直に受け入れ、体の力を抜いた。狭い空間の中で穏やかな暖かさを感じ、自然とそちらに体が近付いた
せっかくの貴重な瞬間を最大限に堪能したいと思ったが、どんどんまぶたが重くなり、いつの間にか眠りに落ちていた