Story Reader / 祝日シナリオ / 年越し列車の夜 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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新年来たる

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現在のスタック内の意識データを全て追加しますか?

全ての追加を確認しました

タイムスタンプが配備されました、これよりデータ構造に戻ります……

次は……あなたたちはどんな選択をとりますか?

リーフ……

リーフは……まだ昏睡状態なんですね

自分の記憶の中と同じで、リーフは病院のベッドで静かに苦しみに耐えていた

大病明けの痛みと同じように脳裏に焼きついた当時の記憶が、今の時間を思い出させてくれる

なぜこのようなことをシミュレートする必要があるのでしょうか……

おそらくデータシミュレーションの精度を確保するためでしょう

というのも履歴上ではこの時、闇蝕機体を換装したリーフはスターオブライフの病室で横になっていましたから

リーフのベッドの前の手摺を握るリーの声は、とても穏やかだった

しかし穏やかな波の下に、もっと重く複雑な気持ちがあるのは明らかだった。ただ今はその感情を全て隠しているだけだ

……センにも会いました

ビアンカがその名前を口にすると、病室内にしばらく沈黙が降りた

この部屋にいる全員、「現在」昏睡状態にあるリーフも、本来の歴史ではあの海辺の戦闘を経験しているのだ

ビアンカが発したその名前の重みも当然知っている

私はニコラ司令に、センを地上調査に行かせず、空中庭園に留めてほしいと要請してみました

今のところ、ニコラ司令は私の要求を却下していません

病室内に再び沈黙が広がった

ビアンカ、今いるのはゲシュタルトのデータ空間です。周囲のものは全て単なるデータであり、ここで変更を加えても、現実で発生した出来事には何の影響も及ぼしません

……わかっています

でも私は……そうしたいんです

ビアンカは軽く首を振って苦笑いした

そう、車掌にできるのは過去の履歴のシミュレーションと再現だけで、本質は時間を遡ることにはない

ええ、彼女の性格からすればその可能性は高いですね

ですが、たとえそれが本来そうなる選択ではなかったとしても、今この時の私は自分の決定を変えるつもりはありません

私たちの「普段」とは、任務と戦闘ということになるでしょう

我々に実質的な自由時間はあまりなく、ほぼ全てその行動を中心に繰り返していました

それで十分でしょうか?

ビアンカの目には過去のことや、まだ起こっていない「未来」のこと、言葉では言い表せないものが数多く含まれている

しかし、過去と未来が交錯する現在において、確かにそれだけで十分なのだろうか?

おそらくこれが、グレイレイヴン小隊全員を空中庭園に残してほしいと、リーが同じように入ってきたニコラ司令に自ら申し出た理由なのかもしれない

過去にあの出来事が起こった時、私たちはリーフの側にしっかり寄り添うことができませんでした

あの戦闘の後、修復とテストを経て、私とリーはすぐに他の小隊と協力して任務を遂行し始めました

以前の数回の進入に続いて、履歴事実の範囲内かつ許可された作戦のほとんどが実行可能です

履歴上、この時はまだ機体の適応時期だったはずなので、僕は超刻機体を使うことができませんが

そしてリーフも……履歴上の事実のためにベッドに横にならざるを得ませんでした

車掌のロジックの核心は「歴史の方向性に影響を与える重大な事件」、つまり履歴再現の前提はつまるところ既成事実といっていい

つまり、これらの既成事実以外のことは、私たちにもまだ幾ばくかの裁量権があると

リーは沈黙しながらうなずいている

……そうですね

ビアンカは最後にリーフを見て、全員に向かってうなずくと、ドアを閉めて静かに立ち去った

執行部隊の準備室と同様に、粛清部隊のメンバーも任務がない時は準備室に留まって指示を待っている

いつものように、センは準備室で次の任務に向けて待機中だった

セン?

はい

「忘れてきたものを大切にする機会が残ってる」

映画を観に行きませんか

……はい?

センは困惑した表情で手に持っていた報告書を置いた

どうして突然映画を観に行こうなどと?

たまには一緒に観に行きません?今日は任務もないですし

別にいいですが……最近の映画で観たいものでもあるんですか?

世界政府芸術協会で新作映画が上映されています、観に行けばわかりますよ

センはビアンカを見つめ、彼女の認知上に異常があるのかどうか、原因を探ろうとした

しかし、ビアンカの強固で優しい視線に彼女はやがて降参した

センは長いため息をつくと、ふっと微笑んだ

では行きましょうか

私たちがこの道を一緒に歩くのは映画を観に行く時だけな気がしますね

どうしても、普段はあまり自由な時間が取れませんから

覚えておいでですか?前に隊長が観に行きたかった映画があったのに、作戦報告書と一緒に司令部にチケットを提出してしまって

とても貴重なチケットの現物だったから、口にはしなくとも、落ち込んでいるのがよく伝わってきました

……そんなこともありましたね

あの日は『暁街ダイアリー』のナイト上映で、平凡で繊細な日常生活が実に魅力的でした

……梅酒がどんな味なのかぜひ味わってみたいですね

それはもう、甘酸っぱいものでしょう?

飲んだことがおありですか?

いいえ、ですが空中庭園に模倣したアルコール製の電解液があったはずです

じゃあ今度試してみませんか

映画を観に行くことと引き換えに

……こんな「理想の生活」なんて嫌がられると思っていました

嫌いな訳じゃないんです。ただその生活は、私からすると遠すぎるので

黄金時代のように海辺に豪邸を構えて暮らすだなんて、突飛すぎるでしょう

群衆から抜け出すと、ビアンカとセンは手摺にもたれかかって、午後の日差しを楽しんでいた

たとえそれがエデンの人工の天幕から来る偽りの日光だとしても

そういえば、海洋博物館に行ったことはありますか?

あの長い長いガラスのトンネル、巨大なカーテンウォールの向こうにはいろんな海洋生物が……どうしました?

ビアンカの顔色が少し悪くなっていることに気付いて、センは説明をやめると、ビアンカの様子を横目でうかがっている

い、いえ、何でもありません

映画の中なら海辺で暮らせるのだと思うと、どうもそれを思い出してしまいました

というのも、以前妹がクジラやウニを見たいと言っていまして

クジラと……ウニ?

そのふたつにはずいぶん体型……もとい、生態系の差がありますね

私もなぜだかまでは。その時にはもう、彼女の願いは叶えられそうになかったので、私もずっと忘れていました

私たちにもまだ……チャンスがあります

そうかもしれませんね

彼女たちは突然、暗黙の了解というように押し黙った

実は、あなたがキャンセルした調査任務の概要を読みました。場所が海底博物館だという

どうしてキャンセルを?

セン、もしもう一度選択しなければならなかったとしても、私はやはりあなたがその任務に就くのを阻止するでしょう

……なぜですか?

……

ビアンカは沈黙していたが、センは更に問い詰めてくることはせず、ビアンカの目をじっと見つめていた

あなたの表情……まるでこれから何が起こるかを知っているかのようですね

センの表情に変化はなかったが、ビアンカには聞き慣れた彼女の口調が珍しく柔らかさを帯びているのがわかった

……はい、ですが同時に、それでもあなたはその任務を受けることを選ぶと知っています

……

「闇を糾弾できるなら、死をも嘲笑できる」

彼女は宣伝ポスターにある映画のセリフをそっと読んだ。まるでそれを自分の答えの代わりに使うかのように

あなたはいつもそうです

ビアンカはまだ偽りの天幕を見つめながら、初めて自分の声の中に隠しきれない悲しみを聞いた気がした

あなたは……もうこれまでのビアンカ隊長ではないのでしょう?

そうですね

ならば……ビアンカ、あなたがそこに存在していると知った以上、私はその任務を引き受けることにします

偽りの太陽の光の中、センは珍しく本当の、輝く眩しい笑顔を見せた

闇を糾弾できるなら、死をも嘲笑できる

闇と告別できるなら、夜明けとも離別できる

闇の中に滅びるなら、希望に刻まれることもある

では行きましょうか?映画の時間です

ビアンカが遠くの入り口を見ると、これから観ようとしている映画のタイトルがスクリーン上で点滅している。センは手摺から手を放し、ビアンカについてくるよう合図した

この時も、彼女はビアンカの前を歩いていた

??

4度目の更新に戻ってもう一度やってみましょう、次は新しい角度で

???

ちょっと、ねえってば!

テーブル上に突っ伏していた少女が目をこすると、目の前には数式で埋め尽くされた電子スクリーンがあった

こりゃあ……

目が覚めた?無事にスクラップになっちゃったのね

スクラップだぁ?それはお前の方だろ、オレは寝起きでちょっとぼんやりしているだけだ

どうせ脳が焼けるまで残業してたんでしょう、いや、そもそも脳が正常稼働してなかったっけ

カレニーナはドールベアとの口喧嘩を諦め、振り返って時刻を見た――

「車掌」と名乗る機械体が一行をこの繰り返される歴史に連れてきてから、6時間が経過していた

車掌によれば、仮想空間内での体感時間は現実の時間とは異なり、ここに半月滞在したとしてもゲシュタルト外の現実では半日ほどしか経過していないらしい

しかし仮想空間内の6時間であっても、カレニーナにとってはとりわけ長い時間だった

他の者たちとは異なり、カレニーナは列車で単独で月面基地まで連れていかれたのだ。車掌いわく、「おまけのドライブ」ということだった

エイハブさん、空中庭園から派遣された人が到着しました

エイハブは目の下に濃いクマができた顔を書類の山から上げた

なぜまた人を派遣してきたんだろう?先週来たばかりなのに?

今回は補給品を持ってきたらしいですよ?工兵関連のインフラ素材表のようなものもあります

それは……?

エイハブは恐る恐る、ドールベアとカレニーナを見た

工兵部隊の観点からいえば、こうした物資の調達はこの分野に詳しいコスモス技師組合出身のふたりに任せた方がいい

おい、見に行かないのか?

私が?ついでに組合にあんたへの苦情を言わせたいわけ?

はあ?

例えば、3級放射性物質の処理が規定通りに行われてないとか、試験消耗品の損失率が高すぎるとか……

お前の脳の容量は全部そんなもんのために使われてんのか!

まだ私に反論する力があるようだし、あんたの脳が使い物にならなくなった訳ではなさそうね

じゃあ……ドールベアさん、いかがですか?

ほら、あのおっさんだってこう言ってるぞ

エイハブさんはただあんたに追っかけられたくないだけでしょ

いえ、もちろんそういう意味なんかなくて、私が言ってるのはドールベアさんはもう長時間作業を続けてますし、どうかなと……

わかったわかった、早く行け

今回の更新はまだできていないんだろ?新しいデータと構造実験を検証する必要があるんじゃねーのか?

オレがさっき寝ちまった埋め合わせだよ、それでいいだろ?

あら?埋め合わせを考えるなんてらしくないわね

アハハ、じゃあ、行きましょうか?ずっと室内にいたのでちょっと身体を動かしたくて……あれ、今背骨がピキって鳴りました?

へいへい

カレニーナはエイハブとドールベアを実験室から押し出すと、眉をひそめて実験台に戻った

現時点では、零点エネルギーエンジンの計画はまだ成功しておらず、月での危機も発生していない

ふん、歴史は変えられない?仮想環境のくせに、何が変えられないだ

あの、カレニーナさん、さっきのデータは……

わかってる、そこに置いといてくれ、後で読む。早くあんたたちもエイハブ主任と一緒に行ってくれ

わかりました

研究員たちが実験室を出たのを確認すると、カレニーナもドアの脇に置いてあったハンマーを持ち上げて実験室を出ていった

ここから零点エネルギー制御室までの道を彼女は熟知している

全ては零点エネルギーから始まったのだから、手遅れになる前に破壊すればいい!

一度成功したのだから、何度やり直しても、どんなことをしても、彼女は自分が必ず成功すると信じていた

実際に起こった過去でもそうだったのだ。失敗する覚悟も当然していたが、彼女はやはりそうすることを選んだではないか

現実も仮想も関係ねーよ、もう一度チャンスがあってもオレは後退しねぇ!