その日の早朝。空中庭園、ケルベロス小隊の準備室――
もっと高くだ、もっと左!左だよ!
おい、サンシチ、袖から手を出せないのか?
無理、21号はそんなに高くない
ノクティスと21号はそれぞれ作戦室の片側に立ち、色とりどりのリボンを手にしていた
ただ、ふたりのあまりにもかけ離れた身長差のせいで、平行に引っ張られるはずのリボンの高さのバランスが合わない
しかし、現段階ではこの部屋の最も悲惨な装飾はそれではなかった
本当に参ったぜ、足下に置く箱とかないのかよ?
ノクティスが持ってきた箱ならその上に立ってる。でもまだ高さが足りない
なっ――
作戦室の隅に積まれたプラスチックの箱がどさっと倒れ、今にも爆発しかけたノクティスを遮った
アルコールが発酵する強烈な臭いが部屋に充満し、床に落ちて割れたプラスチックの箱からオレンジに近い黄色の謎の液体が流れ出した。ノクティスが罵声を浴びせる
クソッ、【規制音】が!
ノクティスは口が悪い
もっと言ってやろうか?とりあえず、適当に何か見つけて吊るしてみろ
21号はテーブルから飛び降りて軽く地面に着地すると、子犬のように匂いを嗅ぎ回った
強いアルコール臭がする
わかってる、それはわかってるっての!
隊長はノクティスの鼻は飾りだって
はぁ?何でだよ!?
ノクティスは突然固まって鼻をゴシゴシと触ったが、21号はノクティスの反応を気にもとめていない
鼻が頭に生えているから、ノクティスの頭も飾り
……
ノクティスはイライラしながらも隅でしゃがみ込み、山が崩れたプラスチックの箱を拾い始めた
クソ、せっかく手に入れたフルーティー電解液ドリンクが
フルーツ?21号はマンゴーが食べたい
ん?これか?
ノクティスは地面からねばついた残飯のようなものをひと掴み取ると、片側に寄っていた21号に手渡した
……うげ
どけどけ、どいてくれ
そんなもん放っとけ、残りのステッカーを壁に貼りつけてろ
ノクティスはサボる
お前のせいだろうが!お前が勝手に箱を動かして倒れたんだろ!
うひぃ
1滴、2滴
フルーティーな香りのアルコール臭が徐々に部屋中に充満してきた
ヴィラが準備室の扉を押し開けた時、赤と白のふたつの姿がヴィラの存在にも気付かず目の前をぐるぐると走り回っており、扉の上のリボンが偶然ヴィラの頭に垂れ下がった
……
隊長、あれ……戻ってたのか?
ノクティスにすら、燃えるような空気を通してヴィラの怒りが伝わったらしい
……あんたたちふたりの頭をひねる前に、1分あげる。説明しなさい
新年――おめでたい!
どこからともなく飛び出してきた21号が突然手に持っていたクラッカーを引き抜くと、ヴィラとノクティスの頭に更にカラフルな飾りがいくつも乗っかった
新年……?
聞いた話じゃここ数日は何かの祝日らしいんだ……だよな、サンシチ?
新年の意味なら知ってるわよ
私が訊きたいのは、この酷い臭いとテーブルの上に山積みになっているものは一体何ってことなんだけど?
ノクティス、隠していた大量のフルーティーなアルコール電解液ドリンクを割った
ノクティスによれば、テーブルの上にあるのは「火鍋」と「餃子」
いよいよ頭が使えなくなったのね。早く言いなさい、私が手伝うから
俺は買ってちゃんと保管してたのに……
サンシチ、お前、ちっとは罪悪感がねえのか!
ノクティス、言い訳は見苦しい
もういい、くだらない話はとっととやめて。まず床に散らかったものを片付けなさい
あ、よかったらそのゴミと一緒に自分の頭も捨てておきなさい
おい、俺だけのせいじゃないぜ、サンシチにも責任があるぞ!
あいつの袖、モップみたいなもんだし、直接あれで地面を拭いてみたら……
ああもう――
怒鳴り声がまだ完全に発されない内に、ヴィラは突然、糸の切れた人形のように気絶した
あ……
え……
ノクティスと21号はヴィラの側にしゃがみ込み、ツルツル滑りやすくなっている地面に横たわったヴィラをじっと見つめた
おい……どうしちまったんだ?
隊長のバイタル、問題なし
原因は不明
多分ノクティスのせいで、怒りで気絶した
バカいえ、俺のせいじゃねぇよ
ヴィラ……隊長!?ダメだ、まったく起きねぇな
ノクティス揺さぶるな、意識不明の原因はまだ特定できない……スターオブライフに送る必要がある
ちぇ……それしかないか、さっさと連れていくぞ
21号が行く、隊長はノクティスに部屋の掃除を頼んでた
は!?なんで作戦室の片付けが俺の責任なんだよ?これ、全部お前が散らかしたんだろうが!
第一、お前が行って何ができる?部屋に残って掃除してろ、俺が行く
断固拒否、21号は隊長を守る、ノクティス、頼りにならない
何だと!?
うひぃ
21号は電解液ドリンクまみれのノクティスを嫌がって逃げ回る
こうしてヴィラはケルベロス準備室の床に安らかに横たわり、21号は火鍋と呼ばれる一式を抱え、ノクティスの追跡から逃れた……