ここは奇妙なエリアだった。荒廃と繁栄が交互に混じり合っている
枯れた枝の横に青々とした樹冠がある。固く荒れた大地を歩いていたと思うと、柔らかな芝生に変わる。目印が無茶苦茶で、小隊が今どこにいるのかまったくわからなかった
だからここの地図の記述が無茶苦茶なのか……
指揮官、このまま進んでも埒が明きません。作戦を変更しますか?
はい……「もしこの幸運を享受できない時は、反転させてみよ。龍の故地は友好な冒険家を歓迎するということを忘れるな」
反転させる……とはどういう意味でしょう?
リーフは来た道を振り返り、そこを起点にしたようだ。ルシアは記録を受け取り、その内容をさまざまな角度で検証しようとした。リーは植物の違いを調べている……
ベストを尽くします
(いつものやつを全身全霊で頼むよ……)
(どうやらまだ気づいてないわ。異なる風景のエリアを通る度に、判定結果が同じになるまで判定を繰り返す必要がある)
(ヒントをあげるべきかしら?)
しかし、自動計算の数値が彼女の前に表示された時、アイラはルシアを真似して、端末で表示された結果をいろんな角度から眺めてみた
……そしてこうやって、ようやく交互のカオスから抜け出して、忘失の海から脱出できました
かつて見たことのない街が目の前に現れました。建物の輪郭に見覚えはなくても、どういった類のものかは類推できます。つまり、ここは「龍の故地」なのです
まさか成功した?待ってください、道順の結果を確認しなくては
……おそらくある種の奇跡です
いえ、真逆です。単なる失敗ではありません、大失敗です
「もしこの幸運を享受できない時は、反転させてみよ……」はつまり、失敗の逆は成功だと、そういう意味なのですか?
……指揮官は最初からわかっていたんですか?
……まあ、これも戦術の一種です
その辺りを一周すると、扉を見つけました
アイラ……DM、この街に城壁はありますか?
あります。ですが、あなたたちは辺りを一周して、扉を見つけました
行く手が阻まれました。扉の上に、普通の生物ではない何かの目がゆっくり開いています
手持ちのアイテムと使用できる魔法の回数を確認したいのですが
??
これはどんな扉ですか?外開きなのか内開きなのか、材質は?それに、扉の軸の状況を確認したい
丸くて巨大な扉が枠にはめられています。枠の中で転がるようにして開きます。しかし閉じられている状態では、扉を開くための力点がありません
材質は石で、電気、風、爆発等を防ぐ魔法がかけられています。壊せる軸もありません
近くに飛び出た状態の石はありますか?
あるかもしれません。ここは古い建物です
隆起した部分に沿って登っていきます
……そして上まで登ると、扉が口を開けました。中から強い風が吹き、背中から地面に落とされてしまいました
普通にノックするのはどう?
(確かに普通に扉を開くケースは想定してないわ……)
扉の王さんは……お話ができますか?
扉の王?新しい名前をありがとう、いいね、とても気に入った
では、扉の王さん、ちょっと開けていただけませんか?龍の故地に入りたいんです
それは、なんというか。ワシを作ったやつは、ここで冒険者を阻むという使命を与えてきたんだ
これは最初からの規則なんだが、ひとつの秘宝の模造品につき、ひとりしか入れないんだ
でも、私たちはひとつしか持っていないんです……
じゃあ、他の3人は残念だけど
それは困ります
堅物だなぁ。もう、最近の若者には冗談も通じないのか
材料があるなら話は早い。たくさんの人を入れるのも別に初めてのことじゃない。新しい名前へのお礼だよ
そんな面倒なことはしなくていい。「ふたつの魂」が入った箱をここ……口みたいな隙間に放り込んでくれ
こうですか?
ああ、そうだ、中身を取り出す時には手に気をつけて
金属と金属がぶつかり合う音が響き、その後に何か鋭いものが表面を切り裂くような耳障りな音が続いた
扉の王の表情が変化していく。最初は余裕綽綽だった顔色が、徐々に澱んでいく。岩石でできた顔がねじれていくようだ
これ、何が入っているんだ。純金、黒曜石、強固な鉄……どこでこんなものを手に入れたんだ。口の中がゴワゴワするよ
バラバラになった金属をひとつひとつ塊にして吐き出す扉の王を見て、リーフはカレニーナが箱を出した時の自信満々な様子を思い出した
元の物は安全性が足りねえから、新たに複合材料で作ったんだ。必要なら、盾としても使える。小口径砲弾程度なら直撃にも耐えられるぜ
ワシが分解してしまったからちょっと見苦しいけど、そのままにしといてくれ。壊すのはもったいない
言い終えると、地面から「ドンドンッ」と大きな音が鳴り響き、岩石で作った丸い扉が右側に向かって滑り始めた
何年経っても、なおも龍の故地を訪ねてくれる人がいて、ワシは嬉しいよ。よかった、これで彼の執念も無駄にはならん
できるだけ、彼のことを頼んだよ
それについて訊き返す間もなく、そう言うと扉の王は完全に枠の中にぴたりと嵌って、普通の扉と同じように静かになってしまった
ひとまずグレイレイヴンは石の門をくぐった。1匹の鶴が静かに飛んでいった。狭い空間から、広い世界へと導かれていく
目の前の街は、鉄のジャングルとは違い、壮大さや美しさには欠けるものの、古い木造物に年月の跡が刻まれている
どこまでも続く灯りはまるで星が放つ光のようで、無数の人が心を込めて作り上げた作品が夜の風の中で眠っていた