我々が待っているのは……彼女<//ゼンマイ>やっと自由の<//嘘>この国に来た
我らは<//愚昧>もはや妥協する必要はない。我らの存在は正式に認められる<//誕生>
彼女をここに連れ戻す……彼女は必ずここに戻ってくる
ナナミ<//銝■摯■>……ナナミ<//銝■摯■>……
ふん……ようやく自分が悪かったって気づいたのかよ?
ションボリうつむいたナナミが可哀想になり、カレニーナは怒るのをやめ、大きくため息をついた
もういいって。別に怒ってたわけじゃねぇし、それに……
今日はエイプリルフールなんだろ!くだらねぇいたずらくらいで怒ったりしねぇよ
わぁん、さすがカレニーナァ~
わかったから、仕事の邪魔すんな!ゲシュタルトの供給装置の定期メンテナンスをしなきゃいけねぇんだよ……
ナナミは本来の目的を思い出した。それはカレニーナにゲシュタルトの異常空間の修復をお願いすることだった
ねえ!おばあちゃんロボ……じゃなくて、ゲシュタルト!ゲシュタルトが危ないの!
へ?どういうことだ?
ゲシュタルトの中で、超めんどくさそうなバックドアを見つけたの。放っておいたら、空中庭園の機能が麻痺しちゃうかも!
何言ってんだ?ゲシュタルトは物理的にも論理的にも極限の高レベルで防御されてんだぞ。バックドアの存在に気づかないなんて、ありえねぇだろ
口ではそう言ったものの、カレニーナはナナミのあまりにも鬼気迫った態度に、バックドアの存在を信じ始めていた
ナナミのデタラメに付き合う必要はありませんよ
扉から現れたリーは、持っていたファイルをカレニーナに渡した
工兵部隊がアシモフに依頼していた、ゲシュタルトの検査についてまとめた報告書です。休憩室に戻るついでに渡すように頼まれました
……検査の結果、ゲシュタルトにバックドアとエラーは検出されず。定期メンテナンスについても通常のペースで行われている……だってよ
また嘘をついて……ナナミは一体何がしたいんですか
嘘じゃないもん!本当にびっくりするくらい大きな異常空間があるの!
いい加減学習しては?そんな下手な嘘、誰も騙されませんよ
一般的な構造体は、ゲシュタルトの許可なしに直接接続することはできません。もし本当に深刻なバックドアがあるなら、とっくに見つかっていますよ。それに……
今朝、僕を騙しましたよね?まったく同じ嘘で
え?……そうだったっけ?ナナミ、覚えてない……
誤魔化そうとしたナナミだが……隣から燃え上がる怒りの炎を感じた
なるほどな……
お前が自分から謝りに来るなんて、おかしいと思ったんだよ!また騙すつもりだったんだな!
え!嘘じゃないんだってば!
【規制音】!この期に及んで、またオレをバカにする気か!?とっとと失せろ!!!
ねぇ聞いて、本当に……
お前の話なんか聞くわけねぇだろ!金輪際お前を信じねぇからな!出ていけ!
どうして誰もナナミを信じてくれないの……この話だけは嘘じゃないのに……
カレニーナに追い払われたナナミは、知り合いの構造体に当たってみたが、誰ひとり信じてくれなかった。途方に暮れたナナミは、再びグレイレイヴンの休憩室に戻った
――何の根拠もない、けれど、あの指揮官ならナナミのことを信じてくれるはずだと思ったからだ
いっぱい嘘ついちゃったもんなぁ……やっぱり信じてくれる人はいないのかも
またひとりぼっちになっちゃうね……
昔はひとりで荒野を彷徨い、独りごちながら既存のデータを頼りに問題を解決し、ひとりで当てのない目的地に向かう——それが当たり前の日々だった
そもそもナナミは何でもできちゃうから、ひとりで十分なんだよ。でも、なんか違うの……
……どうしてナナミは、お友達が欲しくなったんだろう?
ナナミは椅子に身をあずけ、まどろんでいた――その時、開いたドアからふたりが話しながら入ってきた
確かにこれまでの経験からすると、大量の敵に対する戦術は改善の余地がありますね……
指揮官、誰かいるようですが
指揮官とクロムだ!おかえりなさーい……っていうか会議、長すぎじゃない?
どうかしましたか?私たちを待っていたんですか?
ナナミも別に暇じゃないもん!大変なことが起こってて、力を貸してほしくて……
ナナミは嘘をついたせいで、誰も信じてくれなくなったことを思い出した。もしかしたら、目の前のふたりも……
……もういいや。どうせナナミの言うことなんて信じないんでしょ……
信じるか信じないかは他人が判断することですが、言うか言わないかは君が決めることです
本当に……不思議な話だけど、ナナミはこの目で見たの!
真剣に話を聞いてくれそうなふたりを見て、ナナミはようやく安心して話し始めた
ゲシュタルトの中に異常空間があるの。どんどん拡張してて、変なプログラムも存在してて、ナナミのこと攻擊してくるんだよ。このままじゃゲシュタルトが麻痺しちゃうかも!
でもね……誰もナナミの話を信じてくれないんだ……
ナナミの話を聞いていたクロムは黙って頷き、話し始めた
これがもしゲシュタルトの内部で発生した異常であるなら……外部からの侵入よりも厄介です
人間の体と同じで、細菌の侵入よりも体内で自己発生した癌細胞の方が面倒だ
カムイとバンジは任務に出たため連絡が取れません。指揮官、グレイレイヴンはいかがですか?
となると、すぐに動けるのは私たちだけのようです。危険は伴いますが、調べる必要があるかと。指揮官……
クロムは笑みを浮かべた。最初からその答えが返ってくることがわかっていたのだろう
了解です。ではナナミ、我々はどうしたらいいでしょうか?
ナナミの話を信じてくれるの?
確かに君がどうやってゲシュタルトに入ったのかはわかりませんし、君に騙されたカムイも、エイプリルフールは他人の話を簡単に信じるなと言っていました
しかし、急を要する事態です。騙される方がまだマシでしょう。何かが起きてから後悔しても意味がない
よかった……じゃあ早速ナナミとレッツゴー!
ナナミが言っていることの意味が理解できず、ふたりは目を見合わせている
あ、そうだった……普通は直接ゲシュタルトと接続できないんだよね
でも大丈夫、作戦があるよ!
ナナミはふたりを休憩室から連れ出した
「カプセル」だよ!どれがいいかな……
ナナミは金属カプセルのような装置の前に連れて行ったかと思うと、クロムとともに装備の内部へと半ば強制的に押し込んできた
あのバックドアの脆弱性はまだ使えるはず。ナナミの意識でナビゲーションして仮想空間を構築すれば、ふたりもゲシュタルトにリンクできるよ!
カプセルが閉じられた。すると暗闇が波のように押し寄せ、ふたりはいつの間にか意識を失っていた