帽子を被ったプログラムがなぜ助けてくれたのかわからないまま、ナナミは何とか異常プログラムを振り切り、異常空間から脱出した
予測はしていたが、空間の壁を抜ける時に感覚センサーの不一致が生じ、ナナミはバランスを崩し……
うわぁ!!!
そのまま転んでしまった。手に持っていたチェーンソーが、回り続けたまま修復プログラムの付近に落ちる。しかし彼らは、ただ機械的に壊れた地面の修復を行っていた
立ち上がったナナミは感覚センサーを調整し、チェーンソーを拾い上げる。用心しながら修復プログラムの頭に触れたみたが、相手はまったく気にしていないようだ
反応ナシ!?……ってことは、異常空間でだけプログラムがおかしくなっちゃうのかな?
ナナミはチェーンソーを背負い、先ほどまでの異常空間での出来事を整理してみた
プログラムに自己意識があるのはおかしいよね……でも、異常空間外の修復プログラムは、どうしてその異常に反応しないんだろう……?
うーん、どうしよう?とにかくソースを見つけて報告しなきゃ。ナナミひとりじゃ、エリアの拡張は止められないし……
ナナミが首をかしげていると、聞き覚えのある声が再び脳内に響いた
ナナミという個体、許可されていないエリアへの侵入行為は条例違反よ。すぐにそこを離れて、侵入した経緯を報告しなさい
ええっと……これは……そのぉ……
現行犯となると、いくらナナミでもすぐに言い訳が思いつかず、口ごもってしまった。しかし次の瞬間、言い訳より重要なことを思い出した
そうだ!そんなことより、もっと大事なことをおばあちゃんロボットに伝えなきゃいけないの!
ナナミの話は枝葉末節が大半を占め、混乱を招くばかりだった。が、何とか異常エリアの危険性について説明できたようだ
ナナミという個体が報告した内容は大筋理解しました。防御規則に基づき、修復プログラムのネットワークノードのスキャンを開始……
スキャン結果を待つナナミの顔には、得意げな色が浮かんでいる。どうやら、褒め言葉へのリアクションまでも考えているようだ
スキャン完了……異常件数は0、統計外の脆弱性は見つからなかったわ。つまり、修復作業は順調に進んでいるということね
ウソっ!そんなわけないよ!もっと細かくチェックしてみて?
結果を修正。異常を発見しました
ね?ナナミの言った通り!
異常の原因はナナミという個体ね。あなたの不法侵入が内部データに乱れを誘発し、修復作業が予定進度より0.04%遅延しています。速やかに立ち去ってちょうだい
えーっ、そんなぁ!ナナミはただ……
データベースの情報とナナミという個体の本日の行動ログを分析すると、あなたは「欺瞞」「公序良俗に反する」可能性がある。そのような行動はただちにやめなくては
ナナミは絶対にそんなことしないもん!
虚偽の申告の可能性があるわね。今すぐ立ち去りなさい。もし脆弱性が発生した場合は修復プログラムが起動し、自動修復する。全てプログラムに任せればいいの
ナナミ、嘘つきじゃないもん!……信じられないなら、もういいよ!
ナナミは誰にも見えないところで、アカンべーをした。偽装空間の壁に向かって振り返り……やがて首を横に振った
ナナミには関係ないんでしょ、もう知らない!