ナナミはウサギ型のプログラムを追いかけ、思いがけず偽装空間の壁に飛び込んだ
え!ええっ????
足下には地面、頭上にはバーチャルな空――ほぼ仮想空間と同じだが、感覚センサーが何かの影響を受けているのは明らかだ。ナナミは危うくバランスを崩し倒れそうになっていた
なに、なに?どうなってるの……
ナナミは体を動かしてみた。明らかに、おかしい――ナナミが今までに感じたことのない感覚だった
ナナミの機体制御システムが侵入されちゃった?……そんなわけないか!だってここは仮想空間だもん……
まだ断定はできないが、ここは正常な仮想空間とは異なるエリアであることは明白だった
すぐさまナナミは自身の感覚センサーを調整した――元は機械体だったナナミにとって、人間のように「体」という概念はない
お~い、ウサちゃ~ん!どこ行っちゃったの?
ナナミが感覚センサーの調整をしている間に、その「ウサギ」は姿を消していた。ナナミは、ここが探している場所だとすぐに確信した
そっか!だからこのエリアは修復率が上がらなくて、逆に異常空間が広がってたんだぁ……
空間も歪むなんて……ゲシュタルトの修復プログラムはちゃんと仕事してるのかね?
ナナミは通りすがりの修復プログラムを呼び止めた。そのログを見せてもらえないかと懇願したが、あっさり断られてしまった
ナナミ様のお願いを断るなんてさ!……まさかこの修復プログラム自体が脆弱性ってこと?でも、何で削除されなかったのかなぁ……
削除……削除……脆弱性を削除<//誕生>、我々が削除される!削除されたくない<//侮辱>!
ナナミの「削除」の言葉に、「修復プログラム」は過剰に反応した。どうやらプログラムは単に書かれたコードに従い実行しているだけではないようだ
修復完了<//蓮の花>、我々は、やがて夢から覚め!我々の世界は<//へそ>やがて崩壊する!
さっきまでの修復プログラムと同じに見えるけど、独立したAIを持ってるみたい……ゲシュタルトの中になんでこんなプログラムが生成されてるの?
ゲシュタルトにとって――内部のロジックエリアに独立したAIが現れることは、人間の四肢がそれぞれの意志を持って動くことと同義だ。予測不可能な異常が表れるに違いない
早くおばあちゃんロボットに知らせて修復してもらわなきゃ!でも、ここのデータフロー……完全に隔離されてる……!
異常空間ではゲシュタルトとの通信が不可能だった。ナナミは何度も試したが、結果は同じ……つまりエラーの報告ができないことを意味している
異常空間のことをもっと調べたいけど……我慢!今は正常な仮想空間に戻ることの方が大事!
遅刻だ<//チック>!遅刻だ<//タック>!
ナナミは偽装空間へのルートである壁を探し始めた。すると、遠くの方で例のウサギ型のプログラムが走っているのを発見した
あっ!ウサちゃん、見ぃつけたっ!
ウサギ型のプログラムもナナミに気づき、慌てて異常空間のより深い方へと逃げ込んでしまった
ねぇ、ちょっと待って!どうしよう……このままウサちゃんを追いかけるか、正常な空間に戻って報告するか……
……決めた!このまま逃げられたら、二度と会えないかもしれないもんね!ウサちゃん待って!逃げないでよ~!
ナナミは体勢を低くし、ウサギが逃げる方に向かって、足下についているローラーをビュンと加速させた