Story Reader / Affection / ノアン·逆旅·その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ノアン·逆旅·その5

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シーモン指揮官から聞いたよ。大規模作戦に参加するんだってね。出発はいつ?

ノアンはちらりとバーカウンターの時計を見た。レトロな針が17時45分を指している

そうか……なのに、ちょっと休むとか、準備しなくてもいいの?ここにいて大丈夫かい?

食事会?こんな時に?

なるほどね。上層部には余裕がないから、しょっちゅう会議を開いて時には方々で喧嘩になる。そして、喧嘩したあとは食事で関係を修復するってことか

その食事会ってそんなに大事かな?

指導者たちは今夜の準備もないし、明日早起きする必要もない。だからいいけど、なぜそんな悪趣味な政治に指揮官をつき合わせるんだろうね?

どんなにたいそうな理由をつけようが、相手の気持ちを考えずに自分の満足のためのみに行うものは、ただの程度の低い趣味だよ

ここ最近ずっと忙しくしてきて、危険な任務の前でさえ休めないのかい?

じゃあ、行かなきゃいい

断れないなら、こうすれば……

皆から注目されている悪者に痛めつけられたっていう筋書きはどう?そうすれば、体調不良で休めるだろう

これが初めてって訳でもないし

ノアンはそう言って、今作った飲み物を指揮官の前に置いた

どうかな?

指揮官はバーカウンターに立ってしばらく考えたあと、グラスを手にして口をつけた

そして、グラスを持って机に座り、端末でいくつかのメッセージを送っていた

ノアンは端末でのやりとりについては訊ねなかった。だが端末を見るそのしかめっ面で、物事はそう簡単には運ばないだろうと察しがついた

10分ほど経って、指揮官はようやく端末をしまい、再びグラスを一口飲んでからゆっくりと戻ってきた

うん?

突然、どうしたの?

その言葉を聞いて、彼は目をつむり思わず大声で笑った

ありがとう。でも僕がいなくなったら、誰が君の病欠の責任を取るのかな?

ここには監視カメラがあるし、僕の体には位置特定装置もついてる。どこに行ったってすぐに見つかるよ

さあ、ひとりで戻って休んだ方がいい。休憩室の入り口まで送ってあげようか

それなら、好きな場所で気分転換をすればいい

別にいいけど、あと少ししたら、悪いやつを捕まえにお巡りさんがくる。そうしたら、また強制的な休憩をさせられるよ

スターオブライフに直行かも

一緒に逃げたら、責任は取らなくていいの?

…………

……ったく……

だったら――

彼はバーカウンターの後ろでニヤリと笑うと、その人物の前に両腕を差し出した

位置特定装置はここ、僕の腕にあるんだ。解除できる?

ノアンはからかうような口ぶりで言った。もちろん本気ではない。断られる前提で言っている

誰が権限を持っているのか教えようか

彼は頷いた

こういう場合、普通ならすぐに断るよね?

もしかして、この話を信じていいのかどうかを考えてる?

位置特定を解除して脱走する、地上を往復する輸送機に紛れ込む、着陸したら昇格者に連絡、選定を経て見事に悪役に変身……そんなことは絶対しないって、信じられる?

あの時は大怪我をしてたから、選択する余地がなかった。君についていくか、殺されるかしかなかったから――少なくとも僕を疑ってる人は皆、そう思ってるよ

じゃあ……

彼は差し出した両手を振りながら、自虐的な表情を浮かべた

監視カメラをすり抜けられる道を知ってる。道案内できるよ

そう、偶然見つけたんだけど

ね、造反する気配があるだろ?それでもまだ信じられる?

その人間は少しためらって、再び端末を手にした

幾度にもわたる通信のやり取りと手順を経て、グレイレイヴン指揮官に特別権限が与えられた。その人物が身分証明書をノアンの腕の上にかざす――

――ピピ

軽いタッチの音とともに、バイオニックスキンに張りついていたリングが外れ、バーカウンターの上にぽとりと落ちた

ノアン

十分だ。ちゃんと戻ってくる

……信じてくれて、ありがとう

彼は腕の動きを確かめ、バーカウンターから出てきて、解放された手をうーんと伸ばした

さぁ、行こう

ふたりは広場を通り抜けて、狭くて長い安全トンネルに入った

できるだけ壁に寄り添って、僕の後ろにぴったりくっついて歩いて

ここの監視カメラには死角がある

企業秘密なんだ、言わなくてもいい?

実は、監視カメラの死角を見つけるのが特技なんだ

小さい頃、僕の秘密基地に行くには監視カメラを避けて倉庫に入らなければならなかった

そう、書物を保管する倉庫だよ。倉庫の本は販売前の商品で、丁寧に扱えば、僕がそこで本を読んだことに誰も気づかない

話している間に、ふたりは通路を通り抜けて、Z街区の廃棄された橋までたどり着いた

ここまで来れば、もう誰にも気づかれないだろう

階段で少し休もうか

その人間は頷いて、ノアンの隣に座った

ノアンは言葉を出さずに、ただ図書館から持ち出した本を読み始めた

ここには誰も訪れない。照明と温度制御システムも停止している。冷たい空気の中で、非常灯だけが薄暗い光を放っていた

話をしたいけど、君を連れ出したのは休ませるためだしね

ぺちゃくちゃ話してたら、本末転倒だよ

寝れないなら、ここでちょっとくつろいだら

安心して、僕はここにいるから

休んだら、一緒に帰るよ

ごめん。外套とブランケットを持ってくるのを忘れたな。じゃあ、もっとこっちに寄って

さあ、近くに……

彼は片手に本を持つと、もう一方の手で後ろのマントをその人物の体にそっとかけた。そして、自然な仕草で指揮官をそっと抱き寄せた。目線は本に留まったままだ

彼にとって、こういったことは仲のいい仲間や子供をなだめるのと同じ、ごく自然な振る舞いだった

ちょっと休んで

遠く広がる星空を眺めていると、その人物は徐々にリラックスしてきた

いつもそこに静かにたたずむ橋のように、ノアンもじっと黙ったままだ

時間が少しずつ流れていく……

彼が半分ほど読み終わった本から顔を上げると、傍らの人はいつの間にか寝ていた

…………

おいおい、まさか本当に寝るなんて……

……ずいぶん無謀な人なんだな

もともとこういう無邪気な人だからなのか、それとも本当に僕のことを信じてくれたのか……

その声は雪が降るように柔らかく、耳元で聞こえる安定した呼吸にそっと溶けていった